私の彼氏は呑気というか、自分勝手というか彼女の私もどうしていいのか分からない時がある。特に今日なんて私の誕生日。エースにデートの約束は何とか取り付けたのに、朝から当の本人の姿は見えない。
約束と言っても、たまたま島上陸と私の誕生日が被ったからエースに一緒に出かけようといっただけだ。下手したらエースの事だ、忘れている可能性もある。
はあとため息を付きながら自分の格好を見る。普段より少しだけ、オシャレをしたもんだから残念な気持ちが大きい。
「***ちゃーん!暗い顔しちゃってどうしたの?」
そう声をかけてきてくれたのサッチ隊長だ。その手には可愛らしい二段ケーキがあり、ケーキの上にはチョコで作られたプレート。恥ずかしながら“***ちゃん おめでとう”と書かれていて、私の為に作ってくれたのだろう。ご丁寧に私の歳の数のロウソクも刺さっている。私の視線がケーキに行っているのを気付いたであろうサッチ隊長が、ドヤ顔で私にケーキを差し出してくる。
「じゃーん!!***ちゃんの為に頑張ったからねぇ!」
「ありがとうございます!美味しそうですね」
「美味しそうじゃなくて美味しいんだぜ?」
少し躍けながら言うサッチ隊長につられ笑う。ケーキの甘い匂いが鼻を擽る。思わずその匂いにつられたのか、私のお腹が盛大に鳴る。恥ずかしさで顔が熱くなる。
「いい音したねー」
「はは……お恥ずかしい…」
「早速食べる?と言いたいんだけど、残念ながら夜まで待ってな?もっとご馳走作るからさ」
お腹をさすりながら答えているとサッチ隊長にクスクスと笑われる。「まあ主役は後でね」と笑顔で言われ料理を作る為か、ケーキを持ったまま食堂へと行ってしまった。残されどうしようかと少し迷い、自分の部屋へと足を動かす。
さてどうしたものか……。サッチ隊長があんな事を言うという事は、食堂も私の誕生日を祝おうと作業してくれているんだろうな……。そんな私があまり船の中をウロウロするのもやらしいしな…。
というか……一番祝って欲しい人に今日一度も会っていない事に悲しくなる。いや、別に期待はしていなかったけど……やっぱり好きな人に祝って欲しいのが本音。特別な事はして貰わなくていい。けど側に居て欲しいし、「おめでとう」と言って欲しい。
新しい服着て、何度も鏡を見て確認して化粧も少ししてみたんだけどな…全部無駄になっちゃったな…。
ゴシゴシと顔を乱暴に擦り化粧を落とす。ベットへダイブし目を閉じる。何も考えずふて寝しようとした時、子電伝虫が騒がしく鳴り出し慌てて飛び起きる。子電伝虫はエースと同じ帽子を被っていて直ぐにエースからだと分かった。
「……もしもし?」
「あ!***!?今どこにいんだよ!!!」
「………それこっちの台詞なんだけど…」
「俺か?あんなー…!」
子電伝虫の回線を切り、エースのいる場所へと急ぐ。呑気な彼氏を持つとこんなに苦労するのか…改めて実感しつつ走る。走ってるおかげで、折角のオシャレもどんどん崩れ新しい服にも泥がつく。だけどそんな事気にしてる余裕もない。会いたい人に会える、そう思うと自然に足が速くなる。
「***ー!こっちだこっち!!!」
「うっわぁ…」
エースの声がする方へ目を向けると、思わず声が溢れた。
そう一面の綺麗なピンク色。その真ん中にエースがこちらに向かって手を振っていた。エースを見た瞬間、会えた嬉しさよりも今までこんな所に呑気にいる事にイラつきを覚え、ダッシュでエースの元へ駆け寄り一言文句でも言ってやろうと心に決めたと同時に満面の笑みで「***!おめでとう!!」と言葉と共に花束を差し出された。
「コスモス……?」
「おう!***の誕生花だろ?」
花束を受け取りながら、そう言われればそうだった気がしたなと思い出す。だがエースがそんな事を知っているとは思えない。だってエースだし……。
「てか何でエースそんな事知ってるの?」
「…あー…そのー…ナースに聞いた」
「ナースさん?」
「……実は***の誕生日を忘れていまして…。今日の朝ナースに聞いて焦ってる俺にコスモス畑があるって教えてくれてよー!***の誕生花らしいから驚かせようと思ってよ!!」
「……忘れていたってのは……この花束でチャラにしてあげる。けど……」
「け、けど…?」
誕生日を忘れていたという事に罪悪感があるのか、私の一言一言にビクビクしているエースを見て少し笑みが溢れる。オドオドしているせいか、手をアタフタと動かしている落ち着きのない手を取り、しっかりと握りエースと目を合わせる。
「来年は覚えててよね……」
少し照れながら言う私にエースはいつもと変わらない笑顔で「当たりめぇだ」と答えてくれた。
- 美しい景色と貴方 -
***ちゃんどこ行っちゃったんだろ
どうせエースとイチャイチャしてんだろ?ほっといてやれよ
うるせーイゾウ!!別に…寂しいとかじゃねぇから!!
わぁかったよ(寂しいんだな、サッチの野郎)
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