お前だけにはぜってぇ知られたくなかったんだよ。めんどくせぇ事になるなんて目に見えてんだよ。
「んだよ、サボ。つーかちけぇ。」
「あ?気にすんな」
いや気にするだろ?だってソファに座っている俺の真横、しかも顔がくっつくんじゃねぇかってくれぇちけぇ。さり気なく離れるものの直ぐに距離を詰めてくるサボ。普段ならこんな事はない。何故サボがこんなに可笑しいのかなんて、今から起こる事が原因があるのだと思う。本当は思いたくねぇけど。
どうしたもんかと頭をかいていると居間のドアが開く。そこにはお目当ての人がたっていた。何だかいつもより綺麗に見える気がする。
「ごめんエース。待った??」
「んーや、大丈夫」
「なら良かった」
微笑むのはサボの3つ上の姉***だ。腐れ縁のサボの姉でこれまた***も腐れ縁のようんもんでガキん頃から顔見知りだ。昔は***の事を姉貴くらいにしか思っていなかったのが、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっていて***に男が居るとモヤモヤしている自分がいる事、惚れている事に気付いた時にはサボにも気持ちはバレていたようでこのありさま。
実際?今日サボん家についた途端すげぇ剣幕で「お前だけにはぜってぇ***はやらん」と、親父か!とつっこみたくなる事を言われた。あれ?こいつこんなキャラだっけ?と思ったが簡単な話、サボにも認めさせたらいいんだろ?
そうそう、んなの俺のデートテクで***もハッピー!俺もハッピー!万々歳じゃねぇか!!
と、呑気な事を言ってサボん家を出た自分をぶん殴りたくなった。つーかサボをぶん殴りたくなった。結構本気で。
俺が事前に***が行きたがっていた所を連れていこうとすれば、全部サボに先を越されていた。
「***、このショップの服好きだったよな!」
「うん!近くに出来て良かったー!開店して直ぐにサボと来たんだよねぇ」
「そ、そうだったのか…」
「な、なあ!この前雑誌で行きてぇって言ってた店予約したんだけどよ、」
「あ、あそこ美味しかった!ねぇ、サボ?」
「そうだな。値段もそんなに高くないわりになかなか良かったな」
「***!!お前このキャラクター好きだっただろ!?ヌイグルミ取ってやるよ!」
「実は昨日サボが取ってきてくれたんだー!それより少し大きいの!!」
「へ、へぇ…そうか…」
折角考えたデートも、サボに先を越され後はプレゼントのみ。これは俺がこっそり選んだものだが……自分なりに自身がある為、これまでサボと被ったら立ち直れる気がしねぇ……。内心焦っている。
「エース?浮かない顔してどうしたの?」
「あ?いや……なんもねぇよ?」
「ならいいけど!」
俺の返事に微笑む***を見て可愛いと和んでいると、わざとらしい咳払いが俺と***に割り込んでくる。こんな事をするのはサボしかいない。こっちも不機嫌を装いながら視線を向けるとサボも不機嫌な顔をしていた。お互い何も言わないものの険悪なムードを流れているのか、知っているのか分からない***の呑気な声がそのムードを打ち消した。
「あ、サボ!あそこのカフェ確か美味しかったよね!皆で飲まない!?」
「確かに美味かったな……喉も乾いてきたし丁度いいな…」
「ね!エース!!あそこのコーヒーとパンケーキ美味しいんだよー!」
「……へー…そうか」
俺とサボの手を引き、列の最後列へ歩き出す***の後に大人しくついていく。なかなかの行列に並び、他愛もない話をしながら時間を潰していると「あ!」といきなり***が声を上げた。その声にサボも俺も思わず驚く。そんな事お構いなしに***が呑気にまた話しだした。
「ここのカフェラテに、オリジナルココア、シフォンケーキ、スコーン、マフィン、フルーツタルトに後、期間限定ケーキ!凄く美味しいんだよ、エース」
「へぇ、そうなのか。そりゃあ、楽しみだな」
「でしょ!?と、いう訳でサボ。テイクアウトで全部買っておいて」
「………へ?」
「さ、行こっかエース!」
「ちょ、本気で言ってるのか?な、なあ***…?」
俺を満面の笑みで見ていた***が、今まで見た事のない険しい顔で舌打ちをした。それと同時に***の肩に手をかけようとしていたサボの手を振り払った。
「何?お姉さまの言う事聞けない訳?あんたいい加減にしなさいよ?折角のエースとのお出掛けに付いて来ただけでも苛つくのに、邪魔ばかりしやがって……。」
「悪かったよ***……だから怒んなって…!」
「うるさい!!どれだけエースとの誕生日を楽しみにっ……!!」
そこまで言って、***の口が止まり顔がみるみる赤くなっていく。それまでの焦りやら、サボに対する気持ちとか一発でなくなった。***の手を取り、列から外れる。サボの呼ぶ声があったが振り返りもせず***の手を離さず歩き続け、近くの錆びれた公園で足を止めた。少し荒くなった息を整え振り返ると、***も息を整えていた。
なるべく俺の方を見ないようにしているのが分かる。それが照れているのを隠すためだと分かる。何故なら頬が赤いからだ。こんな表情、見た事がなくてもっと見たいという反面、***に気持ちを伝えたくなった。ガサガサと乱暴にポケットを漁り小さめな箱を取り出し、差し出す。それを見た***が目を見開いていた。
「***、これプレゼント。開けてみろよ。」
「え、いいの……?うわぁ……可愛い髪飾り…」
「なんかレジンアクセサリーって言って流行ってるらしいんだけどよ…。***の誕生石アクアマリンだろ?なんか人魚が関係しているとか言われてりしてるらしくてよ、その……一応海をイメージして作ったんだけどよ…」
「え、これエースが作ったの!!?」
驚くのも無理がない。今まで俺がそんな事をした事がないからだ。
ここまでは、何とか計画通りまで持ち込んだ。後は気持ちを伝えるだけだ。
「っ、」
気持ちを伝えようとするが、思っていた以上に自分の口が動かない。気合はあったのにいざという時に勇気が出ない。
口をパクパクさせている俺にお構いなしに、早速俺のプレゼントを髪の毛に付けている***に何度も口を動かそうとするが動かない。チキンな俺にイラついていると「エース」と呼ばれ視線を送ると、***の顔が俺の顔の真横にあった。チュっという軽いリップ音がした同時に頬にあった柔らかい感触が離れた。
「ありがとうエース。大好き!」
その***の言葉と笑顔にポカンと間抜けな顔をしている俺を見ながら、笑っている***に何て返せばいいか分かっている。「俺も好きだ」と言えばいいのは分かっているが、***の好きと俺の好きが同じなのか気になり、言いたいのに言葉が出てこない。
「ふふ、エースのおかげで素敵な誕生日になりそう…!」
「***……」
「ん?なに??」
変な汗が出てきて手なんか手汗でビッショリだ。だがこのチャンスを逃すと、自分で言い出せる気もしない。嬉しそうに早速付けた髪飾りを上目遣いで見ている***の腕を引っ張り、チュっと***の頬にキスをする。
「し、仕返し」
今の俺にはこれが精一杯で照れ隠しでそう言うと、笑い出す***。可愛らしく笑っていたのに、俺と目が合うとニヤリと小悪魔みたいな笑みを零した***の言葉に勝てないなと思った。
- これが精一杯 -
なにもしかしてエース、私の事好きなの?
……おう
声が小さくて聞こえない。ねぇ、どうなの??
(分かってる癖にニヤニヤしやがって…)ああ、ずっと好きだった。わりぃかよ!
いーや、凄く嬉しい。素敵な誕生日をありがとうね、エース
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