いつもと違う町並みに少し気持ちが高ぶる。どうやらそれは私だけでなく隣で変な鼻歌を歌っている彼もそうみたいだ。嬉しそうにお菓子の袋を開け、これまた嬉しそうに食べているエースを見て口角が上がる。
可愛らしいな、と思っているとエースと目があった。すると先程開けたお菓子の袋からお菓子を足りだし、私に差し出してくる。
「ほれ、***!!あーんしろ!あーん!!」
私も2人きりならやるが、生憎今は修学旅行のバスの中だったりする。勿論そんな事が出来る訳もなく、エースの手からお菓子を受け取る。そんな私に少し不満気に頬を少し膨らませるエース。頬を人差し指で押すとブゥーと空気が抜ける。
「エース、バスの中だから」
「いいじゃねぇか。こんな時くれぇ」
そう言ってお菓子を食べ続けているエースに、負けじと買ってきたお菓子の袋を開ける。すると横から「あー」と気だるそうに口を開けるエース。その口の中にお菓子を放り込むと、機嫌が少し直ったのか嬉しそうに食べている。可愛いなと思っていると席の後ろから、何やら嫌な視線を感じ振り返るとサッチがこちらを見ていた。しかもジメジメとした空気を発しながら。
「なーにイチャついてんのお前等。お前等分かってんの?これはお前等だけの旅行じゃねぇんだよ。修、学、旅、行!!!少しは周りの事も考えろよな!!お前らがイチャつく度に虚しい思いすんだよ!!………俺が!!!!」
涙目で訴えてくるサッチになんと返せばいいのか迷っていると、サッチの横から鋭いチョップが繰り出せれ一撃でサッチを黙らせた。サッチの横を見ると独特の髪型だけが揺れていた。視線だけがこちらを見ているマルコが。
「うるせぇよい。バスん中くれぇ静かにしてろ」
「ナイスマルコ!流石だな」
「ナイスじゃねぇよい。***もその馬鹿大人しくさせろ」
「あはは…ごめん」
苦笑いで返すと納得したのか手元の雑誌に視線を戻したマルコに、ホッと胸をなで下ろしている私の気持ちも知らず、エースはくっ付いてくる。普段からくっついてくるけど、今日は普段以上にくっついてくる。修学旅行でテンション上がってるのかな?そんな事を考えながら私の肩に乗せられたエースの頭に自分の頭を乗せ目を閉じた。
先生の声に意識が戻り目を開けると、綺麗なホテルが視界に入る。各自荷物を部屋に入れようとしている中、私の彼氏の大声がロビーに響く。
「何で俺と***が一緒の部屋じゃねぇんだよ!!あんだけ言ったじゃねぇか!!」
「だからな、ポートガス…」
思わず無言でエースの方へ向かい、自分より高い位置にあるエースの頭目掛けて自分の手を振り下ろす。スパーン!!といい音がロビーに響く。先程まで私より高い位置にあったエースの頭が痛みのあまりか私の目線より低くなる。
「いってー!!!なにすんだよ!?」
「騒がない!座らない!!人様に迷惑をかけない!!!早く荷物持って移動して!!恥ずかしいから!!」
「プ、***ちゃんに怒られてやんのー」
「サッチ!マルコ!!ちゃんと見張っておいてよ!」
「……いや、エースは俺等の言う事より***の言う事の方が聞くよい」
そう言いつつエースの首根っこを掴み部屋へと連れて行くマルコの背中を見届け、軽くため息を付いていると今度は自分の背中に衝撃が。
視線を背中に向けるとニヤニヤとした表情の友人が居た。あーこれはからかわれるなと思っていると予想は的中し、バンバンと背中を叩いてくる。
「本当面白いね、あんたの彼氏。」
「……面白くないよ。皆に笑われるし、先生にまで同情の目で見られるし…」
「それはどんまい。」
絶対そう思っていないと分かるくらいニヤニヤしている友人と一緒に自分が泊まる部屋へと向かう。綺麗な部屋で友人と騒いでいるとスマホが音を出し主張しだす。慌てて探し出すと画面には“エース”の文字が。少し出るのに躊躇するものの、出なかったら出なかったで後がうるさそうなので渋々画面を指でスライドさせ電話に出る。
「もしもし…」
『出るのおっせぇぞ!』
「…ご、ごめん」
『それよりメシ食ったらロビーに集合な!!』
そう言って一方的に言われ、一方的に電話を切られた。
嫌な予感がするものの行かなかったら明日がメンドくさいエースになるのが目に見えている。てかご飯もどうせ一緒に食べるのに、なんでわざわざロビー?そう思いつつ友人とご飯を食べる為に部屋を出て食堂へと向かうと当たり前のように私の横をキープするエースに余計わざわざ?と疑問が大きくなる。
だが、食べ終わったエースに「***行くぞ!!」と元気よく言われ、急いで片付けてエースの後を追う。何故かソワソワしているエースに、声かけるならさっきの電話いらなかったんじゃ…と思っているとニヤニヤとした友人と目が合い、何故か居りづらく逃げるかのようにエースの後ろ姿を目指して小走りに付いていく。
もう少しで追いつくという時にエースの足がいきなり止まるもんだから、背中にぶつかりそうになる。大きい背中だな……改めてそんな事を考えていると、エースが勢いよく振り返ってくる。人気も少ないロビーの端で、目をキョロキョロと泳がせ変な汗をかいており少し気味が悪い。けど何か話さないと場が持ちそうにない。だけどエースに釣られてなのか、私も変な汗が額を流れるのを感じる。
「あのよっ!***に渡してぇモンがあってよ!!」
「渡したいもの?」
大げさな深呼吸の後、変な間が生まれる。実際は10秒も満たない時間だが、何十分も沈黙があったかのように感じている私にいきなり差し出してきたのは力強く握りすぎたせいか形の崩れた何か。よく見てみるとお世辞にも可愛いとは言えないマスコットのストラップ。私がじっと見ているのに、なかなか受け取らない事に不安がっているエースに気が付き「ありがとう」と受け取ると鼻の下を擦りながら嬉しそうな顔をするエース。
「へへっ***こうゆうの好きだろ?」
「え!?ああ、まあね?」
改めて見るものの、やはり可愛いとは言えない。だがよく見ると猫のようでエースの言葉の意味が分かった。私は確かに猫が好きだ。猫グッツもよく集めている。
ただ、目の前のこれは猫と言えるのか?と聞きたくなるくらい可愛くない猫のストラップを見ていると一生懸命、私の為に選んでくれたんだろうなと愛着が出てくる。
「ありがとう。大事にするね!」
「おう!今日の昼間見つけた!ほんとは誕生日プレゼントは高価なモンやりたかったんだけど、今の俺にはそれくれぇが精一杯でよ……けど将来ぜってぇいいモンやるからよっ!!」
「そんなの気にしなくていいのに……これからも私の傍に居てくれたら、私は十分だよ……」
素直な気持ちがポロリと出る。
嬉しそうな顔をするエースを見ていると、こちらまでつられて笑顔になる。
幸せな時間もあっという間に終わるのが分かってしまうのが悲しいけど。
- 貴方が嬉しいと私も嬉しい -
ほっんとバカップルだねー
独り身の事も考えてくれっつーの
サッチくん独り身だもんねー!
ちょ、笑うくらいなら俺とこの際付き合っちゃわない!?
えーどうせならマルコくんとがいいなあ
あー私もー!!
(マルコって意外にモテるんだね)
(本当だな、あんな頭なのにな。つーかあいつ等覗いてんのバレてんの気づいてんのか??)
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