この仕事を始めて2度目の桜が咲いた頃、私にも後輩というものが出来た。 保育士にとってまだ珍しい男の子。いや、男の人っいうより男の子って表現がよく似合う子だ。
「うっしゃー!オメェ等今日は外で隠れんぼするぞ!」 「エース先生、園児達の前で“オメェ等”は辞めて。園児達真似するから」 「………ごめんなさい」
私の言葉にシュンとしているのは今年からこのグランド保育園に入ったエース先生。元気で仕事覚えも良く、すぐ子供達に馴染み人気者になった。
子供達と必死にジャンケンする姿を見ると精神年齢が近いんだろうな、と納得。 ボーッと見ているとどうやら勝手に私は探す側に決まったみたいだ。もう1人は元気でなかなかオモテになるコウタくん。
「じゃあ、***先生!30秒数えてくれっ!」 「分かったわよ。じゃあ、コウタくん、先生と一緒に数えようか」
コウタくんの目線と合わせる為にしゃがんで言うと元気よく「うん!」と返事をしてくれた。 子供は素直で可愛いな、思わず小さな両手で目を隠し一生懸命数を数えるコウタくんを見ながら微笑んだ。
「「27、28、30っ!!」」
2人で一斉に顔を上げ手を繋ぎ皆を探し出す。 やっぱり園児達って可愛い。必死に隠れてるつもりみたいだが、頭が見えてたりお尻が見えてたり… コウタくんに「あそこ」と小声で教えると嬉しそうにかけて行き「みっけたー!!」と声を上げている。
順調に皆を見つけていくが、エース先生が見当たらない。後はエース先生だけなんだけどな…… 皆おやつの時間が近くになるにつれて見つける側の私達に「早くみつけてよー」と言い出す始末。コウタくんも少し涙目だ。 エース先生も相手は園児なんだから見つけやすい所に隠れてよ!少し苛つきつつコウタくんとめげずに探していると学園の隅にある大きな木が、風も吹いていないのに揺れた。
まさか、木の上!? コウタくんの手を取り走って木の下まで行き、「ごめんっ!」と謝り木にタックルをする。 すると大きな木が少し揺れ、上から大きな物が「グエッ」と変な声を出しながら落ちてきた。その代わり「エースせんせいだあ!」と嬉しそうな声が私の横から聞こえたけど。
「いってぇ……***先生酷いって!」 「あ、ごめん…てかもっと園児相手なんだから分かりやすい所に隠れてよ!」
コソコソと話す私達に「早くみんなのところいこっ」と私とエース先生の手をグイグイ引っ張るコウタくんにつられ皆の元へと向かった。 エース先生が見つかった事により無事におやつにたどり着ける園児達は嬉しそうにエース先生の周りを囲む。
「エースせんせが見つからないとおやつ食べれない!」 「ほんとだよ!」 「わりぃ!わりぃ!じゃあ、皆で手ぇ洗っておやつなー!」 「「「はーいっ!!」」」
エース先生の言葉に元気よく返事をする園児達の後ろに続き私も手を洗いおやつの準備をした。 今日は一口サイズのチーズケーキとチョコレートケーキ。 皆に行き渡り「じゃあ、いただきます」と私の言葉に続き園児達も「いただきまーす」と元気に声を出す。 暫くすると余ったケーキをかけてジャンケン大会が始まる。園児達に混じり、これまた真剣にジャンケンをするエース先生を見て「園児相手にまた…」と少し呆れていると誰かから服をツンツンと引っ張られた。
「***せんせ、」 「ん?コウタくんどうしたの?」
振り返ると少しモジモジとしたコウタくんが。 もしかしてお漏らししちゃったかな?そう考えていると小さな両手が私の目の前に現れた。
「今日はいっしょにさがしてくれてありがとっ!これ、おれいっ!」
そう言って差し出してきたのはおやつのチョコレートケーキが乗ったお皿。
「でもコウタくんケーキ好きでしょ??」 「すきだけど……***せんせチョコレートケーキすきでしょ??おれい!」
そう言ってグイッと差し出してくる。 気持ちは有難いけど流石に園児から取り上げるのはな… コウタくんの頭を撫で「気持ちだけで十分だよ」と伝えると今度は抱き付いてくる。
「おれ決めたっ!***せんせとけっこんする!!」 「へっ!?」 「おれのおよめさんになってね!!」
キラキラと眩しいばかりの笑顔で言うコウタくんに何て返せばいいのか迷っていると「残念だな、コウタ」と少しドヤ顔のエース先生が。 あ、口の周りにチョコレートが付いてるって事はジャンケン勝ったんだな……そんな下らない事を考えているとエース先生がとんでもない事を言い出した。
「***先生は俺と結婚するんだ!わりぃな!」 「は!?ちょ、エース先生!?」 「う、うそだっ!!」 「今まで黙ってたがほんとだ!」
ドーンという効果音がほんと似合うドヤ顔で言うエース先生に、本日2回目の涙目のコウタくん。 そんな2人に、と言うかエース先生の言葉に気付いた園児達が続々と集まり「そのはなしほんとー?」と信じ切った顔で見てくる。 園児が言う度に「おう!ほんとだ!!」と笑顔で言うエース先生を思わず園児の前だとか忘れて横腹に肘を思いっきり入れた。痛がるエース先生の腕を引っ張り「どうゆうつもり!?」と怒りながら聞くもののヘラリと笑い「そういうつもり」と答えやがった。
キャッキャ騒ぐ園児達のおかげでこの話は親御さん達にまで行ってしまい、ちょっとした噂になった。 そのせいで園長から怒られるのはもう少し先の話。
- 物事はしっかり考えて! -
エース先生のせいでこんな目に…… 何落ち込んでるんだよー、いいじゃねぇか! 良くないわよ!エース先生のファンだったお母さん方からの最近の態度の冷たさと言ったら…うぅ まあまあ、言わしとけばいいって! あんたねぇ…… それに俺、子供の面倒見うめぇからお父さんとして不足はねぇと思うけど? そのドヤ顔がなんだかムカつく……
※ 園児のセリフ平仮名多くて読みにくくてすいません
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