桜が完全に散った4月後半。 新しいクラスにも慣れてきた頃、新しいダチもでき楽しく最後の学生生活でも楽しもうと思っていたのに、ある奴のせいでパアになりかけている。
チャイムと同時に開かれる扉。そこに居るのはでっけぇ弁当箱を抱えた女。そしてアホみてぇな笑顔。
「エース先輩!今日も愛妻弁当持ってきました!!」 「……あのなあ…、いらねぇって言ってんだろ?」 「えー…、エース先輩の大好きは物ばかり今日は入れてきたんですよ?」 「…………なら食う」
俺の言葉にニッコリと笑う女、名前はこの4月から何故か付きまとってくる。こいつと知り合ったのは、新入生を歓迎するという怠い式が終わり教室に戻る前にトイレにでも行こうと1人、人の流れに逆らって歩いていると小さな物に当たった。 小さな声で「いたっ」という声が聞こえ人だったと気付いた。わりぃと誤ると中学生じゃねぇ?と聞きたくなるくれぇ小さな女。その女と目があった途端、嫌な予感がした。何故なら漫画でよく見る目の中にハートが出るという状態になっていた。
それから直ぐにクラスもバレ、この有様。クラスメイトもこの状況を楽しんでやがる。俺?そりゃあタダ飯食えるからいいが、こいつの扱いがイマイチわからねぇ。
「エース先輩?どうしました?」 「あ?いや、別に何もねぇよ」 「なら良かったあ!お口に合わないのかと……。あ、それとも私のアーンが欲しかったんですか?もー、言ってくれれば……。はい、アーン」
語尾にハートが付いてるのが分かる。周りの奴等も「ヒュー」なんて古臭い事しやがって、名前もその気になってんじゃねぇか。ここでもし、こいつのアーンに答えたら絶対ややこしい事になるに違いねぇ!!!
「いや、自分で食うって…」 「まあまあ、そう照れないで……あなた…」
頬を染めながら言う名前に若干怒りを覚える。人の話聞けよ!こいつ!! イライラしている俺にお構いなしに口元へ箸を差し出してくる。どうしたらいいのか必死に考えていると苗字、とこの馬鹿を呼ぶ声がした。振り返るとマルコが呆れ顔をしていた。
「そろそろチャイムが鳴る。自分の教室戻れ」 「マルコ先輩!でもエース先輩、まだお弁当…」 「さっきパン食ってたから大丈夫だろ。予鈴鳴ってんぞ」
マルコに言われ渋々帰る名前。まあ、教室を出る時「放課後向かえに来ますねー」何て呑気な事を言って帰っていきやがったけど。名前が置いていった弁当箱を眺めていると、マルコが恐ろしい事を聞いてきやがった。
「お前名前の事どぉするつもりなんだよい。あんま中途半端な事して期待させるもんじゃねぇぞ」 「分かってる。てか期待も持たせてるつもりねぇ」 「ならいいんだがな。フルならさっさとフル、付き合うならさっさと付き合う。お前がハッキリしねぇと、名前が気の毒だ。それに女はややこしいぞ」
マルコの最後の言葉に疑問が生まれる。意味の分かっていない俺に気付いたマルコがため息を吐きながら口を動かし続ける。
「お前を狙ってる女は名前以外にも居るみてぇだ。お前に付きまとう名前をいい風にもっている女はいねぇみてぇだしな。裏で何をされてるか…」
マルコの言葉に嫌な予感がする。なぜならマルコのこういうのは必ずと言っていい程当たるからだ。 名前の後をお追いかけるかのように教室を出る。すると案の定というか上級生に絡まれている名前の姿。舌打ちをし、急いで駆け寄るが上級生達が去っていく。あいつ等どこのクラスの奴等だ…。とりあえず名前に声をかけようとした時、耳を疑うような言葉が聞こえた。
「うっぜ。裏でこそこそしてねぇで、直接エース先輩に話しかけろよ。出来ねぇ癖に人に文句だけ一人前に言いやがって…クソが」
今までの名前は、どっちかと言うと可愛らしい感じの奴だった。言葉使いももっと可愛らしい感じだったんだが…… 思わず声をかけようと差し出した手が名前の肩に当たるか当たらないかの所で止まる。そして見つからない様に静かに来た道を帰ろうとするが、名前に見つかった。目があった途端、いつもの名前の表情。ニッコリと笑う名前だが、さっきのアレを見てしまったせいかどう返すべきなのか迷う。そんな俺にお構いなしに、いつもの調子で名前が話かけきた。そんな名前に引き笑いしか出なかった。
「エース先輩!!もしかして私が帰ちゃって寂しかったんですか?もー、素直に言ってくれればイイのに…!」 「え?いやっ…その……」
あははと空笑いで返すのが精一杯だった。
- 女って怖い -
(いや、どっちが本当の名前なんだ!?つーか俺そのうちあんな感じで怒られるんじゃね!?) エース先輩?どうしました? なんもねぇ……
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