「………………」
目の前のテキストをめくる。 そこにはもう見飽きた文章がズラリと並んでいる。目線を上げるとそれを読み続ける先輩。 分からないように、ため息をつきテキストに視線を戻す。
念願のデザイン会社に就職が決まり、楽しみにしていた仕事。最初は研修期間があるのは分かっていたが、まさか入社して1週間テキストを読むだけという作業。 いい加減、デザインを作る練習でもいいから作業がしたいのが本音。だが、何故か得意げな表情の先輩を見ると言い出せない。
「はあ………」
自然に出たため息が、どうやら先輩に聞こえていたみたいで、得意げな表情だった筈の先輩がみるみると曇っていく。
「苗字さん、そのため息は何かな?」 「あ、いや、」
勿論、意味も無く出たため息。すぐにいい言い訳も出ず困っていると、私と先輩の間に明るい声が飛び出してきた。
「息抜きも必要なんじゃね?おめぇ等ずっとそれ読んでるだろ?」 「エ、エースさん」
変な空気も吹っ飛ばすような声に私も先輩も困惑していると、そんな私達に気付いた男性は先輩に「上司が呼んでた」と声をかけ先輩は席を立った。 先輩の後ろ姿を見ていると、いきなり男性のドアップが。
「んなっ!」 「なんつー色気のねぇ声…」
笑いを堪えている彼に小さな声で「余計なお世話です」と言うと笑い終わった様子の彼が目の前にコトンと何かを置いた。フと見てみると、そこにはブラック缶コーヒー。ビックリしていると「飲めば?」と言い自分もグビグビと缶を傾ける彼
「お前顔に出過ぎ。つまんねぇっていう顔してよ」 「……本当につまらないんですもん」 「まあ、あいつは馬鹿みてぇに真面目だからなあ。去年も新入社員お前みてぇになってたわ」 「でしょうね…」
気軽に話しかけてくれるものだから答えたものの、大分先輩だったようだ。挨拶するべきなのか、嫌、先輩だろうがなんだろうが挨拶は社会人の基本だ。しかもついさっき、助け舟を出して貰った所だ。
「…あの…凄い今更なのですが、今年入社した苗字っ…」 「あー!大丈夫。お前の事は知ってる苗字名前ちゃんだろ?今年すげぇ熱血な奴が入社するって話題になっててよー!」 「ちょ、熱血ってなんですか!?」 「いやな、面接の時にすげぇのがいたって上司が言っててよ。どんな奴か楽しみにしてたんだぜ?」
そう言われ少し顔が熱くなる。何故なら、この会社に就職したくて必死に面接を受けてのを思い出したから。まさか、そんな噂があるとは思いもしなかった。 どう言い訳をしようかと考えるものの思いつかない私に手を差し出してくる。
「俺、エースな!お前みてぇな奴と仕事出来ると思うと楽しみだわ。一緒にいいもん作ろうぜ?」 「こ、こちらこそ宜しくお願いしますっ!!」 「おう!!お前と一緒だと退屈しそうにねぇしな!な?熱血名前さん?」 「その熱血っていうのやめてくれません…?」
私がそう言うと歯を見せ笑うエースさんと目が合い、私も釣られて笑った
- ブラックコーヒー -
………てか、貰っておいて何ですが私ブラック飲めないんですよね んだよ、おこちゃまだな!! そういうエースさんだってココアじゃないですか! ば、馬鹿野郎!!ココアは心の友だ!!! ………… 無言でこっち見んじゃねぇ!!
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