何となく周りに流されて大学に進学し、何となくで卒業した。 そして何となく進学した大学で学んだ事が役に立ちそうな職場へ就職した。 そんな俺はこれからも何となくで、面白みもねぇ人生を歩んで行くもんだと思っていた。
「もしかしてエースくん?」
会社の説明会が終わりあくびをしながら自分の部署に行こうとすると、声をかけられた。振り返ると、柔らかい雰囲気の化粧に、ふんわりとパーマがかかってる髪を耳にかきあげながら俺に声をかけてきた女……ハッキリ言って知り合いにこんな奴居た覚えねぇが…。
もしかしたら、と必死に思い出そうとするが思い出せない。そんな俺に気付いたのか目の前の女がクスクスと笑い出した。
「あー、ちょっとイメージチェンジしたからかな?小学生から高校までずっと一緒だった苗字名前なんだけど…」 「え、」
その名前を聞いて直ぐ思い出した。俺がずっと惚れてた女だ。元々そんなに関わりはなかったが、密かにずっと想っていた相手を直ぐに思い出せねぇなんて…… ショックを受けていると手を差し出された。
「よろしくね?学生時代はあまり喋れなかったけど、これからは喋ってね?」 「………あ、当たり前だろ!?」
まさかの名前からの笑顔付きで言われ、俺も笑顔で返す。 それからは何かしら理由をこぎつけ昼は勿論、夜もメシを誘いと名前との距離を縮めていった。学生時代は見ているだけだったが、折角のチャンスだからな。 学生時代、いつも静かに本を読む名前の姿が綺麗で見とれていた。そんな綺麗な姿は、俺が近づいたら汚れるような気がして遠くから見ているだけだった。なんて格好つけてるが、ただ話しかける勇気がなかっただけなんだけどな。
学生時代の事を思い出しながらジョッキに入っている酒を口の中に流し込む。目に前には、料理を美味しそうに食う名前。まさかこんな風に一緒にメシ食えるとはなあ… ニヤける顔を必死に我慢していると名前と目があった。
「どうしたの、エースくん。飲んでばっかで食べないの?」 「あ?食べる食べる!!」 「良かった!私エースくんが食べてる所見るの好きだったの。美味しそうにいつも食べてる所見てると私もお腹すいてくるんだよね、何故か」
い、い、今!!好きって!!!好きって言わなかったか!?名前の奴!! 微笑みながら言う名前が目の前に居るとか関係ねぇ。嬉しくてバンバンと机を叩き「ビール追加ぁぁぁ!!」と元気よく注文し料理をたいらげていく。
「私もエースくんに負けないように食べちゃおっ!」
そう言いながら負けじと料理を頬張るが可愛くて仕方がねぇ。実際、口の周りに食べカスを付けている名前。何歳になったんだよ、お互い
「全く、いい歳になったんだぜ?俺等。ついてる」
トントンと自分の口元を指で指すが、反対側を一生懸命触る名前。どうやら通じてねぇみてぇだ。
「たく、ここだよ、ここ。」 「えっ……」
名前の口元に付いた食べカスを取り自分の口へ運ぶ。急に黙り込む名前。ほんの少し頬を赤らめてるのを見て気が付いた。 今俺、名前の口元に付いてたやつ食ったよな!?まずい!!いつもルフィにしているようにしちまった!! 俺と目を合わせないようにしている名前を見て、どうにか弁解できないかと考える。だが、所詮俺だ。全くいい考えが思いつかねぇ!
頭を悩ませていると視界に名前がいつも持っている鞄の中にある本が入っているのが見えた。
「それ、まだ読んでんのか…?」 「…あ、うん…」
それは高校生になった頃名前がよく読んでいた本だ。1回俺も読もうとしたが、難しくて断念したが。
「この作者さんの本、好きなんだけどね。特にこの本は何度も読みたくなるんだ」 「いっつも読んでたもんなあ…!俺も読もうと思ったけど難しくてよぉ!!」 「エースくんも読もうとしたの??」 「ああ!名前が読んでたから気になっ…」
思わず出た言葉に息が詰まるかと思った。気付いた頃にはもう遅いみてぇで、ただでさえ顔が赤かった名前の顔が余計赤くなる。 俺もどうしていいか分からなくて沈黙が続いて困っていた時、元気のいいお兄さんの「お待ちーっ!!」の声で沈黙がなくなる。
「……エースくん、飲まないの?」 「お?飲む!飲ぜ!?」
グビグビと届いたばかりのビールを飲み干し、ジョッキを机に置く。 どうする?もうこのまま勢いで気持ち伝えた方がいいんじゃねぇか!?いや、引かれるか!?? 頭から煙がでるんじゃねぇかってくれぇ考えるが、やっぱり考えてる人間が俺だ。どうするべきか分からねぇ!!頭を抱え込んでいると名前が頬を赤らめたまま話し始めた。
「学生時代…いつも元気で周りの皆から慕われてるエースくんの事いつも見てたの…。けど…ほら、私地味だったしいつもエースくんの周りには綺麗な子ばっかり居たから話しかける勇気もなくて…」 「名前……俺っ…」 「あ、分かってるよ?エースくんは私なんかただの同級生くらいにしか思ってないって!ただ……これからは、と、友達になってくれないかなっ…!?」
目を閉じ言う名前を見てある事に気付く。少し震えていた。 俺は言わなくていいのか?名前は勇気を出して言ってんだぞ… 何も言わねぇ俺を盗み見するかのように見ている名前と目があった。
「わりぃがそれは無理だ。」 「……そ、そうだよね!いきなり気持ち悪い事言ってごめんね?さ、飲も?」
俺の言葉に声が震えながらもジョッキを掴もうとする名前の手に、自分の手を重ねる。俺の手が触れた瞬間ビクリと動いた。そりゃそうだ。名前は勇気を出して言ったんだ。俺も男見せろよ。
「友達じゃなく、俺の女になってくれよ」
そう言うが反応がない。名前の方を見ると目をパチクリして息をしてない様子。思わず名前の顔の前で手を軽く振りながら「おーい」と声をかけるも反応がない
「…………キスすんぞぉー…」 「んなっ!!!!」
あと少しでキス出来そうなくらい顔が近付いた時、名前が息を吹き返したみたいで変な声をあげる。そんな名前を見てプ、と笑うとまた顔がみるみる赤くなる。 どんだけ顔赤くしたら気が済むんだ。
息を吹き返した名前から離れ頬付きをし、思わずニヤリと笑ってしまいながらも答えを聞くことにした
「で、返事は…?」 「………分かってる癖に…」
- 顔を赤くする君を素直に可愛いと思う -
お客さーん、お熱いのは構わねぇが、キスは辞めてあげてね。嫉妬で俺の店壊れそうだから。 え!あ、あの、すいませんっ!! (ありゃぁ……また顔赤くしちゃって…ほんと可愛いねぇ…)
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