桜も満開なこの時期、私は大学を卒業し無事就職をした。 目の前の大きな会社を見上げ不安がこみ上げる。
ドキドキと煩い心臓の音をなんとか静かにする為に大きく深呼吸をする。 大丈夫、社会人マニュアルの本ボロボロになるくらい読んだし!……けど本にも書いてあったけど最初が肝心…。噛むなよ、大きな声でハッキリ話せよ、自分……
「お嬢ちゃん何してんだ」 「ひぃっ!!」
自己暗示をするかのように自分に言い聞かせてた為周りが見えて居なかった私の後ろに、赤髪の男性が立っていた。
赤髪…!?しかも顔に傷がっ…… 思わずアチラの方だと勘違いした私は後退りをし、小さな声で「すいません」と言うのが精一杯だった。 そんな私に気が付いたのか定かではないが、目の前の男性が豪快に笑い出した。
「別に取って食ったりしねぇよ!そんな怯えなくていい」 「あ、はいっ…」 「ハハ、ガッチガチだなー!」
なんとか返事をした私も可笑しかったのか、笑いが止まらない様子の彼。 どうしていいのか分からずアタフタとしていると笑いもひと段落ついたのか、笑い過ぎて出た涙を拭き「行くぞ〜」と少年の様な笑顔で言われるが、付いていくものか迷う。
だって知らない人だし、赤髪だし、傷があるし。 躊躇してついてこない様子の私の後ろにお構いなしに回り込み背中を押し出す赤髪さん。 その力がなかなかの強さで思わず恐怖心がわき足に力を入れ抵抗する。
「んん?お嬢ちゃんやるかー?」 「は!?ちょ、タイム!!赤髪さん待って!!」
私の抵抗も虚しく簡単に押され、進んで行く自分の体。私の焦っている姿を楽しそうに見ている赤髪さん。そんな彼を見て余計焦るが、フとある事を思い出す。
ていうか私今日初出勤なのに何してんの?こんな事してる場合じゃないじゃんっ!!! 我に戻った瞬間、後ろから押される力を上手くかわす。すると後ろの赤髪さんが転けそうになるのを、なんとか立て直していた。
「いきなり何すんだ!危ねぇだろ!?おじさんは急に転けそうになっても反応出来ねぇの!」 「す、すいませんっ!けど私こんな馬鹿みたいな事してる暇無いんですっ!早く出勤……」
そこで気がついた。 いつの間にか私が就職した会社の目の前に来ていた事を。不思議に思っている私に若干ドヤ顔をしつつ「入らねぇのか?」と聞いてくる赤髪さん。
「……いや、入りますよ?入りますけど…」 「案外苗字ちゃんって言うな!社長相手に馬鹿な事ってハッキリ言うんだもんなあ」 「しゃ、社長ぉぉぉ!?」 「自分の会社の社長も分からねぇってどうなんだ、全く」 「え、いやっ……面接の時に居なかったし…じゃなくて、居なかったじゃないですか!!」 「面倒くさくてサボっててよー!けど履歴書見て苗字ちゃんは可愛いから実は即採用してたんだけどなー!」 「う、……はあっ!!!?」
ニコニコとしていた赤髪さんが私の顔の高さまで屈んだおかげで目線がバッチリ合う。 するとニヤリと笑いとんでもない事を言ったもんだから私の顔は真っ赤になり、からかわれる羽目になった。
「俺の一目惚れ」 「うっ……」 「顔赤くしちゃってほんと可愛いな!!」
冗談なのか本気なのか分からない………!!! てか私の社会人生活どうなるの!?
- 人は慣れるんです -
去年の今頃はこんな事あったよな苗字ちゃん。で、いつになったら俺の彼女になってくれるのかなー? 社長、そんな無駄口叩いてる暇あるなら書類の確認してくれます? 入社したてはあんなに可愛いかったのに何処で間違えたんだ… 社長、怒りますよ? おじさんはな、寂しいと死んじゃうんだぞ!?苗字ちゃんの温もりが足らな過ぎて俺が死んじゃっていいの?? 社長、その発言がセクハラっていつ分かってくれます?
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