卒業/入学企画 | ナノ




「名前ちゃんおめでとう!!」
「いやーまさか苗字ちゃんが寿退社とはなあ!大人しい顔してやるねぇ!!」


前日休みだった為夜更かししたせいで、寝坊しギリギリで入社して汗だくな私に朝一番で言われた言葉。ハッキリ言って身に覚えがない。
ポカーンとしている私をよそに会社の人達は楽しそうに話している。私の寿退社について。


付いていけない頭を何とか動かし「すいません」と声をかける。手汗がビッショリの手を恐る恐る上へ上げながら。


「どうしたの苗字ちゃん。手なんかあげちゃって」
「あ、もしかして幸せ宣言?もー、羨ましいわあ!!」
「え、いや……あの寿退社ってなんですか…?」


私の言葉に今度は皆がポカーンとしている。一番ポカーンとしたいのは私だ。何寿退社って。そんな予定全くないんですけど。恐る恐る聞く私に皆して出てきた言葉は「エースくんが」「ポートガスくんが」と同じ新人のポートガスくんの名だった。
詳しく聞くにつれ怒りの震えが止まらない。話を聞き終わると同時に問題のポートガスくんを探す。


探していた張本人は直ぐに見つかった。デスクに向かいデータを処理しているのだろうが、フラフラと揺れている。多分睡魔と戦っているのだろう。そんな事、今はどうでもいい。あの人のせいで、なんだかややこしい事が起こっている。


「ちょっと!!!ポートガスくん!!」
「んがっ!?名前!??」


ズカズカと本人に近寄り、ユラユラと緩やかに揺れていたポートガスくんの肩を掴む。そして前後に激しく私が揺らしたせいか睡魔もなくなったようで、ハッキリとした口調に変わった頃彼に問い詰める。


「何故か知らないけど、私の寿退社説が出来ているんだけどさ?どういう事かな?原因を聞くと皆ポートガスくんが言ってたって言うんだけどさ?」


焦りと怒りでポートガスくんを掴む力が強くなる。だが、私の力なんて彼にとっては大した事無いみたいでケロっとした顔でとんでもない事を言った。


「え、名前結婚するって言ったじゃねぇか」
「は!?いつ!!?」
「んー、一昨日!久々に飲んでたら彼氏との遠距離がやっと終わって同棲するんだーってニヤけた面しながら言ってたじゃねぇか!」


ポートガスくんの言葉を聞き、一生懸命思い出す。確かに仕事終わりに飲みに行った。そして確かにそんな事を言った気がする。けど結婚するとは言った覚えはない!!


「ちょ、え??確かに言ったけど何で寿退社とか出てるのよ!?てか、結婚するって言ってないよ!?」
「あ?これでやっと結婚に近付いたって言ってたじゃねぇか。」
「………………うん、それは言ったと思うけど…」


ポートガスくんの言葉に嫌な予感しかしない。
確かこの子自由と言うか、ただの馬鹿と言うか………勘違いが激しかったような……
前も大事な書類の締め切りを勘違いしていたのに慌てる素振りもなく提出してたっけ……


「あのね、ポートガスくん。結婚に近付いたって言ったじゃん?それは結婚するって事じゃなくてね……」
「おめでとうな!結婚式呼べよな!!」


私の言葉なんて全く聞かず満面の笑みでそう言うポートガスくんを再度激しく揺らす。


「人の話し聞け、この馬鹿ぁぁぁあ!!!」
「んだよ名前、ちゃんと祝儀はやるって!心配すんな」
「違ぁぁぁう!!!!」


どうやって皆の誤解を解こうかと考えてみたが、それはもう遅いという事にすぐに気付いた。




- 怨んでもいいですかね? -




名前ちゃーん、探したよぉ!
か、課長……
おめでとう!!退職しても元気でね!これ、皆からの結婚のお祝い!!旦那さんと新婚旅行がてら行って来てよ!
う、うわー…ありがとうございます……(旅行券まで貰ったら違いますって言えないよ………)
良かったな!お土産頼むなっ!
ふざけんなよ、そばかす馬鹿野郎!!!






← / →
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -