入社して3年目、とうとう俺も教育係というものをするまでになった。 元々若い奴が少ない会社で、俺以来の新入社員というだけでも少しテンションが上がったのに、まさかの教育係。3月中旬に上司から言われ俺のやる気も上昇。俺も一人前と認められた気分で早く新入社員が入ってこねぇかワクワクしていた。
待ちに待った新入社員の入社日、目の前に現れたのは俺より遥かに小さい女だった。
「し、4月から入社しましたっ苗字名前です!よろしくお願いします!!」
風を切る音が聞こえるんじゃないかというくれぇ皆の前で礼をしながら自己紹介をする。 まあ、俺もあんなんだったな、と懐かしく感じながら上司に呼ばれ苗字さんに紹介された。
「今日から君の教育係を頼んだポートガスくん。我が社の期待の星だから!まあ、ポートガスくん後は頼んだから」 「(期待の星…!)ウス!任せて下さいよ!!」
なんて笑顔で上司に答えた30分前の自分を殴りたくなる。
「ポートガスさん…すいません……」 「いや、大丈夫だ…。最初は誰でもミスはあるからな……」
半泣きになりながら謝る苗字さんを横目に頭を抱える。 なぜなら頼んだコピーはサイズが小さく、しかも気付いた時には大量にコピーし終わった後。他にも来て下さったお得意様に出すお茶を緊張のあまりぶちまけたり。 まあ、お得意様も笑って済ましてくれたものの気難しい人だったら危なかったな…
ふぅーと無意識にため息を付くと俺のため息にビクッと体を強ばらせているのに気付き、慌てて弁解をする。
「ほんと怒ってねぇから!!」 「いや……分かってます…。本当はポートガスさん怒ってますよね…。すいません」
申し訳なさそうに謝る苗字さんを見たら、こっちが申し訳なく感じる。俺が余裕なくしてどぉすんだよ。苗字さんが不安がるだろうが。 目の前の机を両手で勢いよく叩き立ち上がる俺にまた、ビクっとしていたが気にせず拳を握り締める。
「俺がなるべくフォローするから、苗字さんは安心して仕事しろよ!失敗するのは当然なんだしよ!」 「ポートガスさん………!!」
俺の言葉に目を輝かせ「ありがとうございます」と礼を言っている苗字さんに先輩面をして「頑張ろうな」なんて言って2人で話していると背後から殺気を感じた。
「ポートガスくん…。ちょっといいかな……」
それは怒りを何とか隠している上司からの呼び出し。冷や汗がタラリと流れつつも上司の後を付いていき個室へ呼ばわれた。
個室から出てきた俺はゲッソリとし、駆け寄ってきた苗字さんに苦笑いで返すのが精一杯だった。
- 先輩は辛い -
ポートガスくん……苗字さんの教育はどうなってるのかな?発注ミスが凄いんだけど。イカ墨フルーツタルトって……誰がそんな冒険するの?誰がそんなフルーツに対する暴力を求めてるの?これ、イカ墨じゃなくてキャラメルフルーツタルトだよね? …………すいません…… しかもこれ150個も発注されてるんだよね。嫌がらせか何かかな? ………………………すいません…(苗字さん…これは俺に対する嫌がらせか!?)
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