勧誘期間


「それで、昨日はどうだったんだい?」
「え、あー……うん。」



今日から学校の通常授業が始まる。昨日までよりも少し早く学校に着くと赤司君がすでに教室にいた。
挨拶をし、席に着くとそのまま昨日の話になった。



「野球部はやめておこうかな……」
「最初からバスケにしたらと言っているのに、何をそんなに頑なに断るんだい?普通の人ならすごく喜ぶ話なんだけど」
「バスケは最終手段ということでお願いします……」



赤司君には奇妙に思われているかもしれない。
それもそうだ、よくしてくれている人がどうだと言っているんだ。普通はその話に乗るものだろう。ただ、バスケと関わっているなら話は別だ。



「葉月ちゃん、赤司おはよー」
「おはよう」
「今日から通常授業かー……めんどくさいなー」
「金城は相変わらずだな」
「いいじゃーん、別にー」



私の席はとてもいい席だと思う。
まだ友達……と呼べる人はいないが、話のできる人が周りにいることはとても安心できる
正直一人で移動教室なんてさせられたらたまったものじゃない。
弥生ちゃんがいるから次の教室に移れている。





一日を終え、今日は文化部の方を見に行くことに決めていた。





















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「桃井、少しいいか」
「はい」



練習の休憩時間にバスケ部でマネージャーをしている桃井さつきに声をかけた。
彼女はよく働いてくれるいいマネージャーだ。



「明日、俺の教室に来てほしいんだ」
「なにかあったの?」
「マネージャーに誘いたい子がいるんだが、悉く断れていてね。桃井なら話を聞いてくれるかなって」
「赤司君がそういうこと言うの珍しいね」



「なんだ?赤司その女に惚れてんのか?」
「青峰はそういうことしか頭にないんだな」



そんなどうでもいいことで大事なバスケ部のマネージャーを決めるわけがないだろう



「じゃあ、なんでだよ」
「なんでだろうな」
「は?」
「おい、赤司、あまり変な行動はするなよ」
「俺がいつ変な行動をしたと言うんだい?緑間」
「黒子のときは、うまくいったからいいが、あのときのお前の行動はどうかと」
「うまくいったからいいじゃないか。次もうまくいくさ」



俺達のヤリトリを不思議そうに見つめてくる黒子に俺は笑った。




そう、これは黒子を見つけたときと同じ感情。
きっと彼女がバスケ部に入れば何かが変わると思ったんだ。
これは予想だが、多分彼女はバスケットボールの経験者だ。
女子で小学生時代にバスケを経験している人間は少ない。うちの部活にもバスケをプレイしたことのあるマネージャーはいない。
ならば、そこにバスケ経験者のマネージャーを入れたらどうなるか。
何も変わらなければ、それだけだ。だが、変わったらとても面白いじゃないか



















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「葉月ちゃんってどうしてバスケ部のマネージャーになる話断っているの?」



昨日、文化部を見に行ったがぱっとしなかったという話を弥生ちゃんにしているとそんなことを聞かれた。
どうしてと言われても、話せる理由が見つからなかった。



「あー、うん、まー、うん」



私が曖昧に返すと弥生ちゃんは「そっか、もうこの話はしないね」と笑った。
私と弥生ちゃんは昼休みの間、どこかに遊びに行くこともなく、教室で談笑していた。
赤司君は隣の席で勉強をしていた。
もう私をマネージャーに誘うことは諦めてくれたのかもしれない。



「赤司くーん、」



変化が訪れたのはその直後だった。
廊下から赤司君の名を呼ぶ桃色の髪の女の子が現れた。



「桃井、来てくれたか」



そういって桃井さんに微笑む赤司君は私がこの三日間見たことある顔のどれでもなかった。
多分赤司君の彼女さんで合っているんだと思う。



「赤司君の言っていた子は隣の子かな?」
「そうなんだ」



赤司君と桃井さんは私の顔を一緒に見た。



「初めまして、バスケ部でマネージャーやってる桃井さつきです」
「え、あ、初めまして、白川葉月といいます」
「赤司君に話を聞いてきたんだけどね、」
「おい、さつきー」



桃井さんが私の目を見て話を始めたとき、誰かの大きな声がそれを遮った。



「ちょっと、青峰君その呼び方やめてって言ってるでしょ!!」



声のほうを見ると新歓の時にバスケをプレイしていた青とその後ろに水色、紫、緑がいた。



「んーあー、わりいわりい」



髪のカラフルな人たちが全員揃うとなんというか恐い。恐いのか?恐いというか、威圧感がすごい。見たことがない色ばかりだから目がちかちかするのもあるんだと思う。



「この人が赤司君のお気に入りですか?」



水色の頭の人が私を見てそう言った。



赤司君は私のことなんて諦めていなかったんだろう。だからこれだけバスケ部員がここに集まったんだ。周りがざわついていることからもこの人たちは学年でも有名な人たちなんだと思う。



「赤司が気に入った女って言うから楽しみにしてわざわざ来たのに大したことねーな」



青い髪が私にそう言った
聞こえてきた言葉の意味を理解するのに時間はかからなかった。
私のことを馬鹿にした発言だった。



同時に思い出される。大したことないなと笑うアイツが。
気づいたときには私は自分を制御できていなかった。



「おい、青み」
「誰が大したことないって?私は、その言葉を言われることが一番嫌いなの。赤の他人、ましてや初対面の人間にそこまで言われなきゃいけない意味が分からない。自分だって肌黒いし、大したことないな!!!」
「は!?おい、おまえ」



感情のままに言葉を発すると青い髪は私の態度に驚き、何かを言い返そうとしていた。
それを制止したのは赤司君だった。



「青峰、帰れ。
悪い桃井せっかく来てくれたのに。こいつら全員連れて帰ってくれないか」
「あ、うん。ごめんね葉月ちゃん、青峰君には私から言っておくから」



そういって桃井さんは青峰の背中を叩きながら教室から出て行った。
現れたカラフルな集団は嵐のように去っていった。





「……やってしまった」



結構な大声を出してしまった。こんなつもりじゃなかったんだ。どうしよう。
恥ずかしくて私は机に顔を突っ伏した



「白川さん、すまなかった」
「あ、ごめん、青峰って人に謝っておいてください、ごめんなさい」



赤司君は私に話しかけてくれたが、それに私は答えることが出来なかった。
赤司君の目を見ずに話したのはこれが初めてだ。

















「大したことないな」 そういって笑った奴から逃げるためにこの学校に転入した。要は私にとったら絶対に聞きたくない言葉第一位の言葉だ。その言葉を言われて自分が制御できなかった。私もまだまだ子供だ。



その後、私と赤司君が言葉を交わすことはなく、部活動の見学に行く元気もない私はおとなしく家に帰った。





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