「んー!我ながら完璧!!」
鏡に映るいつもとは違う自分の姿を何度も確認した。これなら誰も私が天音だとは思わないだろう。
社長に早乙女学園に男装をして通えと言われたときはどうなるかと思ったけど、私、なかなかにいけるんじゃない!?
普段おろしている長い髪はウィッグの中に隠し、その上から帽子を被れば、それなりに男の子に見える。
「あとは声なんだよなー。」
私は人より少しだけ声が高い。普通に話したりしたら多分ばれる。
「んー、あー、あー、っんー」
うーん、やっぱりあまり下がらないなー……。
「ま、学園で喋らなきゃいいだけか!ってもうこんな時間!?」
試験って何時からだったっけ?二時間前くらいにはついておきたいんだけど……。
私は慌てて玄関から出た。
「ふえー雪降っている……」
外は一面に雪が積もっていた。
これは時間がかかるかもしれない
「……っ、うっ…っ」
「大丈夫です。お母さん、一緒に探しましょう!」
試験会場に向かう途中に泣いている女の子とオレンジ色の髪をした女の人が一緒に歩いているのを見かけた。迷子かな……。
私は左腕にある時計で時間を確認した。まだ試験時間まで余裕はある。
「どうしたんですか?」
私が話しかけるとオレンジの髪の女の人は目を見開いた
「この子が迷子みたいで……」
やっぱり迷子かー。
私はしゃがみこみ女の子に目線を合わせた
「お母さんと離れちゃったの?」
「……っ、ん」
泣いたままであまり声は聞こえなかったが女の子は頷いている
「どっち側から歩いてきたかわかる?」
女の子は泣いたまま向こうの通りを指差した。
「よーし、じゃ、一緒に向こうに行こうか。歩ける?」
女の子は立ち上がり私の手を握った。うんうん、お母さんと離れたら寂しいもんね。
「じゃ、一緒に行きましょうか」
「え、あ、はい。」
私達は三人で迷子の女の子のお母さんを探しはじめた。
うーん、なかなか見つからないなー。そして、思いの外時間がたっている。
先ほどよりもかなり針は進んでおり、試験会場に時間通りにつくかさえ、あやしくなってきた。でも、ここまできておいていくわけにもいかないからなー。
手を握られてからずっと離されることがなかったが、急に女の子が私の手を振りはらった
「お母さん!!」
向こうに見える女性に向かって女の子は走り出した。きっとあの人があの子のお母さんだろう。
女性はこちらを向き私達に向かって会釈した。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ」
「私は何もしていないので……」
「もう、お母さんと離れちゃだめだからねー。」
私は女の子の頭を撫でた。
「うん!優しいお姉ちゃんも喋り方が変なお兄ちゃんもありがとう!」
女の子とお母さんが立ちさろうとしたとき、隣にいた女の人が引き止めた
「あの、雪降るかもしれないんで、よかったら私の傘使ってください」
「いいの?」
「はい、私の行きたい場所すぐそこだから。」
女の人は傘を渡した。
「じゃあね、変なお兄ちゃんとお姉ちゃん!」
お兄ちゃんって失礼な、私はれっきとしたお姉ちゃんだぞと思ったと同時に思い出した。私、男装しているんだ。
すっかり忘れていた。
これ、女の人にも女の子みたいな喋り方した変な男って思われていたりとかするのかな……。
「あの、」
うわー、やっぱり変な人ですよね。
「は、はい」
「助けてくださってありがとうございました。」
「え、わた、いや、俺はなんもしてねーよ、そっちが先に女の子助けてただろ?」
まさかお礼言われるなんて。てか、これであってる?これで男の子っぽい?声も下げたんだけど、大丈夫かな!?
「……?」
うおー、すげー不思議がられてる。やっぱ違和感あった!?と、とりあえず
「えっと、君はどこまで行く予定?俺、そろそろ時間やばくて、」
いや、本当に時間ヤバイんだけど。集合時間に間に合うかすごく怪しいんですけど!?
「はっ!そ、そうでした。私も試験の時間が……。」
試験?いや、まさかなー。こんな子がアイドル目指しているわけなさそうだし。
「まさかだけど、早乙女学園の試験?」
「え、はい!貴方も?」
はい、まさかでしたー。いや、人は見かけによらないなー。
「よし、時間ねーし、走っていくか。大丈夫か?とりあえず俺、君の荷物持つな」
「え、いえ、そんな」
謙遜する彼女の荷物を私は奪い、彼女の手をひいて走り出した。
間に合うかなー……。
prev next
back to top