「響ー?」
「おう、今行く!」
実は、この間前の日の仕事が長引いて、寮に帰ってきたときに相当疲れており、遅刻をしてしまった。それ以来、翔が朝に私を迎えにきてくれるようになった。
正直すごく助かっている。
「響はギリギリに起きるのをやめようとかおもわねーの?」
「人間の三大欲求に逆らったらだめだと思うんだ、俺は。」
「おう、かっこよく聞こえるけど全然かっこよくねーからな。」
「そう言うなってー」
翔と同じ時間を過ごしていくうちに仲良しになっている、と思う。いつも翔は私のことを気にかけてくれて、本当に優しい人だ。
「ん?あれ、日向先生か?」
「本当だ。ため息ついてどうしたんだろうな。」
翔が指を指した方にはため息をつきながら歩いている龍也がいた。
「日向先生ー!!」
「ん?来栖と響か」
「おはようございまーす」
「おう、おはよう。」
「日向先生、ため息なんてついてどうしたんですか?」
「ん?ああ、これは」
龍也の話はこうだ。
なんでも神宮寺くんが課題の提出も全くせず、授業もさぼり、注意をしても一つも言うことを聞いてくれないというもの。
「このままだと、あいつは退学だな」
「退学!?響、レンのとこ行くぞ!」
「え?あ、おう」
翔は私の手を掴み走り出した。
あ、翔の手以外に大きい。それに力も強い。
翔って私と背は変わらないし、顔もかわいいのにちゃんと男の子なんだなー。って何を考えているんだ、私は。
龍也がため息をついていたのは、神宮寺くんが、アイドルとしての素質を持っているから。勿体ないと思っているんだろう。何回か聞いたサックスの演奏には私も驚いた。
でも、本人のやる気がない限り。他人にできることなんてない。
「レーン!!」
中庭まで行き、やっと神宮寺くんを見つけた。そこにはAクラスの三人と春歌ちゃんがいた。
「お前、作詞のテストどうすんだよ。今度出さなかったら厳罰だって、あれほど日向先生言っていたの忘れたのか?」
「だったかなー」
「だったかなー、じゃなくて言っていたんだよ!!」
はー。この調子じゃ、引き止めることなんて……
「神宮寺レン!」
「日向先生……」
「やあ、龍也さん。」
龍也の顔は先ほどのものとは違い、ただ怒っているというものだった。先生の顔ってやつなのかな……。
「授業はサボり、課題は一切出さない。これ以上ふざけた態度が続くなら、容赦はしねえ。即刻退学だ。」
「た、退学!?」
「まじで?」
Aクラスの皆が驚くなか、神宮寺くんの態度は変わらなかった。
「龍也さん?
しかめっつらはレディにモテないぜ?」
この顔の龍也に冗談を言うなんて神宮寺くんもなかなかやるなー……。私じゃ怖くて無理です。
「調子にのってんじゃねえぞ、神宮寺。俺は、まじだぜ?明日の放課後までに評価が得られなきゃこの学園から出て行ってもらう。いいな!?」
龍也はそう言い残した。神宮寺くんもどこかに行ってしまった。
「レン、大丈夫なのか」
翔だけでなく、この場にいる全員が同じことを思っているようだった。
「そろそろ授業始まるし、俺らも教室に戻ろうぜ?」
私の一言で皆動きはじめた。
「響ー!飯行こうぜー」
「おう!」
私と翔は食堂へ向かった。
最近、昼食は翔と二人きりでなく、大勢で食べるようになった。
「猫さんのクッキーですよー」
今日も私たちのテーブルは賑やかである。なんでも四ノ宮くんがクッキーを持ってきているらしい。
「猫?」
「豚さんもあります。こちらはしまうまさん。」
「これ、」
「僕が焼きました!」
「やっぱり!?」
翔はそれを聞き震えあがった。
私は実際に食べていないのだが、四ノ宮くんの料理はすごいらしい。前に音也からその話を聞いた。
「翔ちゃん、手作りが1番安全なんです。」
「お前が作ったもんだから安心できねーんだよ!」
「お一ついかがです?」
四ノ宮くんは春歌ちゃんにクッキーを差し出した。
「ありがとう」
「食ったら死ぬぞー死ぬー」
翔は翔で春歌に念を送っているみたいで、少しこわかった。
「え!?神宮寺さんが?」
友千香ちゃん達は神宮寺くんが退学するかもしれないという話で盛り上がっているみたいだ。
「幼なじみなのに、まさとレンじゃ、正反対だね。」
「幼なじみ?聖川さんと神宮寺さんが?」
「そう。おまけに部屋まで一緒なんです。」
「マサやんは聖川財閥の跡取り息子、神宮寺さんは神宮寺財閥の御曹司。親同士の関係で子供のころから知り合いらしいよ。」
本当に、神宮寺くんと聖川くんじゃ、びっくりするくらい性格が違うよなー……。
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