押して駄目なら押し倒せ | ナノ


事の発端はマダラとミトの密会(?)から始まった。

「──それでな、いままであの手この手でアリスに迫ってきたが中々俺に堕ちてくれなくてな」
「マダラ様は迫り過ぎなのですよ。押して駄目なら引いてみろ、という言葉があるでしょう。少し引いてみてはいかがですか」
「その隙に掻っ攫われたらどうする」
「貴方があれだけ迫って落ちなかったアリスが他の男に落とせるとでも?それに押しっぱなしだった貴方が引いたらアリスだって気になると思いますよ」
「それは・・・一理あるかもしれんな」

ふむ、と納得した表情になったマダラは次にはどうしたら良いかと頭を捻り始めた。
引くとは何をしたらいいんだ。今まで引いたことがない──というより押して駄目ならもっと押せ、だったせいでどうしたら良いか分からない。まさかアリスとの接触を絶てと言うのではないだろうな。

「全く話すなとかそういうことではなくて、出会ったばかりの時みたいに程よい距離感を保つだけでいいんです」
「そんなことでアリスは俺に近付いてくれるのか?」
「少なくとも気にはするでしょう。大切なものは失ってから気付くと言いますし、もしかしたら今の関係に変化が現れるかもしれませんよ」
「ふむ・・・ならば試してみるか」

そう呟いたマダラに、ミトは「応援しております」と少女のような顔で言った。

──────────

「おはよう、マダラ」
「あぁ」
「・・・?」

数日後、散歩をしていたアリスは柱間に届けるらしい書類を持ったマダラを見つけて声をかけた。普段のマダラならさり気無く腰に腕を回して引き寄せようとするのだが今日は何故だかそれがない。

「・・・何だか久しいわね。最近は家に押しかけてくることもないし、謀ったかのように毎日毎日偶然出くわすこともなくなったわ」
「一緒に住んでいるわけではないからな。この広い木ノ葉じゃ会わない日があってもおかしくないだろう」
「え、えぇ、そうね」

過去とはまるで正反対のマダラにアリスは頬を引き攣らせながら笑顔で答える。
本当にどうした。神社付近の階段から転げ落ちて頭でも打ったか。
気になってチラチラとマダラを見るが、いつも此方を向いている顔は前を見ていて目すら合うことはなかった。



「なんだマダラ、今日はやけに機嫌が良いではないか」

アリスと別れた後、書類を届けたマダラは柱間にそう言われてこれまた機嫌よく「あぁ」と返事を返した。そこにいた扉間も彼の浮かれ具合に気味悪そうな目を向ける。

「またアリスと何かあったか?」
「フッ、まぁな」

嫌悪しているはずの扉間にさえ表情を崩さない彼は確かにご機嫌のようだ。珍しく話す気があるようで柱間の使っている机に腰掛ける。柱間と扉間も興味深げに聞く体制に入った。

「この前ミトにアリスのことを相談したんだがな」
「何っ!?そんなことミトから一言も聞いてないぞ!まさかお前俺のミトと「黙れ兄者。話が進まない」しかしだな扉間・・・」
「心配せずとも気が強いだけのお前の妻にはこれっぽっちも興味ない。どうしたらアリスが堕ちてくれるか相談しただけだ」
「ほう。女子のことは女子に、か。お前にしては考えたな。で?どうだった」
「ミト曰く押して駄目なら引いてみろだそうだ。だから会いに行くのをやめて、今日偶然会った時も適度に距離をとって接してみた」

マダラの行動に二人が驚いたような表情になる。勢い余って監禁までした男がまさかここまで控えめな対応をとれるとは。明日の天気は槍か。

「普段とは違う俺を見てあいつも気になったらしい。道すがら何度も視線を感じてな。いつもは俺がアリスを見ていたが今日は逆だった」
「それはそれは・・・」
「お前がそのような女々しい作戦を実行するとはな」
「あいつが手に入るなら過程は問わないさ」

窓の外を見たマダラの目がつい、と細まる。柱間と扉間もそちらを向くと遠目に歩いているアリスが見えた。よくこの距離で見つけたものだ。不意にアリスがきょろきょろと辺りを見渡して首を傾げる。

「・・・俺達の視線に気づいたんじゃないのか?」
「まさか、この距離だぞ。俺達でも気付かないだろうに」

顔を合わせて言葉を交わす千手兄弟の耳に、ふとマダラの「愛らしいな」と呟く声が届く。そして彼の顔を見て分かった。アリスは狂気を帯びた獣の目を向けるマダラに反応したのだろう。生憎見つけることは叶わずに再び歩き始めたが。

「今日は歩調を合わせずにさっさと前を歩いていたからな・・・頑張って俺について来ようとするアリスは腰に来るものがあったが、如何せん顔を見ることが出来なかった」
「里に向いていた意識が少しでもお前にいったのだから良いじゃないか。アリスには悪いが俺達はお前を応援しているぞ」

アリスが他とくっついては木ノ葉の安全が脅かされるからな。
兄弟の本音を知ってか知らずか、マダラはニィと口角を吊り上げた。

──────────

それからも幾度かアリスと接触したが、マダラは“ただの友人”として彼女に接し続けていた。

「あぁ、アリス。今日もくノ一のところか?」
「いいえ。医療忍者の育成よ。素質が必要だから中々難しくてね・・・」
「そうか。あまり無理はするな」
「ありがとう・・・って、あら?ついていくとは言わないの」
「何か手伝うことがあれば行くが」
「いえ、そういうわけではないわ。それじゃ、また」
「あぁ」


「ん、マダラじゃない。珍しいわね、商店街にいるなんて。買い物?」
「忍具の補充がてら散歩といったところだな。アリスは夕食の買出しか」
「えぇ。今日は良い秋刀魚を買えたから塩焼きの予定」
「それは良かったな。俺のところは肉の下ごしらえをしていたのを見た」
「・・・食べに行く、とは言わないのね」
「何故だ?」
「ううん、気にしないで」


「あら、今から修行?」
「あぁ。向こうの森に良い修行場所を見つけてな」
「そうなの。わたくしも柱間と扉間の教え子が修業を見てほしいと言ったから、今から第八演習場へ行くところなの」
「小僧達か。馬鹿と石頭はどうした」
「あの二人なら最近仕事が溜まっていて殆ど缶詰よ」
「ふん、あの馬鹿はまたサボっていたのか。小僧達に師は選んだ方がいいと助言しておけ。じゃあな」
「え、えぇ」



押して駄目なら引いてみろを始めてから、マダラとミトの思惑通りアリスはマダラを気にかけ始めた。顔色を窺いながら話すようになったりお茶に誘ったりと、前とは立場がまったく逆だ。

「ということなのだけれど、どう思う?扉間」
「どうと言われてもな・・・」

お茶に誘われた扉間は難しい顔をしたアリスを前に内心困り果てていた。事情が分かっている身としてはどうにもやりにくい。

「だってあのマダラよ?貴方も知っているでしょう。あれが犯してきた所業を」
「だがそれを反省したという可能性もあるだろう。それで、どうなんだ」
「どうって?」
「以前のように付きまとわれなくなったことに対してどう思っているんだと聞いている」
「静かになったわね」
「他には」
「・・・少し寂しくなったかもしれない」

少し考えて答えたアリスは眉を下げて小さく息をつく。今まで時間を問わず来ていたというのにパッタリ来なくなって貞操云々の攻防もなくなった。確かに静かになったし余計な警戒をせずに毎日を過ごすことができるのだが、何かが物足りないのも事実だ。

「何故寂しいと思うんだ」
「何故って・・・一番近くにいたのに急にいなくなってしまうからでしょう」
「あいつのことを拒んでいたのにか?」
「それはそうだけれど、」
「考えてみろ。今まで執拗に迫られて困っていたがそれが無くなると寂しさを覚えている。以前のマダラに思いを馳せている。
 ──ならばその理由はなんだ。お前があいつの隣に、一番近くに居たいと思っているからじゃないのか」

鋭い瞳に押されたアリスが視線を彷徨わせる。扉間がマダラの肩を持つなど珍しい。どうしたものかと視線を落として思考の海に沈む。

「・・・このままあいつが離れていってもいいのか。これを機にお前も動くべきだと思うぞ」

扉間の言葉に更に思考を続けたアリスは暫くして顔を上げた。先程までの悩んでいた表情は影を潜めている。

「そうね。扉間の言う通りだわ。良い機会かもしれない・・・いえ、この機を逃すべきではないわ」
「それでいい。木ノ葉のためにも必ず成功させろ」
「えぇ、ありがとう扉間。お蔭で気付くことが出来たわ。さっそく柱間のところに行ってくるわね」
「そうだな、・・・おい、何故そこに兄者が出てくる」

怪訝な表情の扉間をアリスは随分とすっきりした様子で見上げる。何故だろう、あまりいい予感がしない。

「マダラがわたくしから離れた隙に縁談を進めてしまおうと思ってね。目をつけている里があるから、そこと同盟を組みたいのよ。だから柱間に話を通してくるの。それじゃ、わたくしは行くわ」
ちょ っ と 待 て

踵を返したアリスの腕を掴んで引っ張る扉間。声を上げて己に倒れてきたアリスを抱き留めると肩をガシリと掴んで再び向き合った。

「何故そうなる!そこは普通マダラときっちり話し合いをするところだろう!」
「あら、何を言っているの。いつも邪魔されてばかりだけれど今回は上手くいきそうじゃない。これを逃すわけにはいかないわ」
「お前マダラを好いているんじゃなかったのか」
「それとこれとは話が別」

ばっさりと言い切るアリスに扉間が大きくため息を吐いて項垂れる。ようやくマダラが安定して里の不安分子も消えるかと思っていたのに何たることだ。マダラが大人しくしているのはアリスの気を引くためであり、諦めるどころか罠にかかるのを今か今かと待っている状態なのだ。それが他の男と結婚?冗談じゃない今度こそ木ノ葉が火の海だぞ。

「・・・ちょっと扉間?どうしたの」
「どうもこうもない。縁談はやめておけ」
「嫌よ。貴方の反対は受け付けないわ」
「駄目だ。しばらくは俺がお前について見張ることにする」
「もう、マダラの次は貴方?なんなの、・・・」
「どうした」
「いえ、何だか見られている気がして」

言葉を切ったアリスが辺りを見渡してそう言う。怪しい人物などがいないことを確認して再び扉間に視線を戻した。

「最近良く感じるのよね。あまり良くない視線だから早くに見つけておきたいのだけれど影も形もなくて」
「(マダラめ、近くにいるのか)」

接触しないだけで付近にいるらしい彼を扉間が探せば建物と建物の間にいるのを感知出来た。そちらをチラリと向けば憎悪の籠もった双眸と目があう。

「扉間?向こうに誰かいるの?」
「あ、いや、なんでもない」

マダラがいる方向を見ようとしたアリスの顔を掴んで自分に向かせる。考えてみれば先程の行動といいこの行動といい、マダラの癇に障っているかもしれない。自分は会うことすら控えているというのに何故お前が触れたり抱き締めたりしているんだ、という無言の圧力を感じる。

「・・・アリス、あまり男と会ったり話したりしない方がいい」
「さっきからどうしたのよ。何かあったの?言ってくれないと分からないわ」
「だからマダラが「アリスと扉間か。こんなところで何をしている」マダラ・・・」

言葉を遮って出てきたマダラがアリスの腕を引っ張って扉間から遠ざける。アリスは「久しぶりね」とマダラに顔を向けた。

「最近会わないから寂しいと思っていたのよ」
「そうか。それで、扉間とは何を話していたんだ?」
「大したことではないわ。気にしないで」

二人しかいないかのように振る舞うマダラに扉間は眉を顰めた。
アリスの腰に手を回して頬や唇をなぞるマダラの目は鈍く光っていて、気分が高揚しているのかチャクラが乱れている。

「(慣れないことをすると反動が怖いな)」

せめてこれ以上マダラの機嫌を損ねないようにと、扉間は飛雷神の術でその場を去ったのだった。



貴方のことが
(気になります)
(里の次に、ですが)

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