押して駄目なら押し倒せ | ナノ


うちはと千手が手を組み、旧友三人が揃ってからの行動は早かった。
一から里造りを始め、火の国と手を組み国と里が同等の立場で組織する平安の国造りも始まった。

「覚えてるか、ガキの頃ここで話したことを」

──ここに俺達の集落を造ろう

昔、夢を語り合った崖の上。三人は再びそこを訪れて賑やかになった里を見下ろしていた。

「勿論よ。懐かしいわね」
「あぁ。あれはただの夢の話だと思ってた。掴もうとすれば出来ないことはなかったってのに・・・俺は」
「これからは夢が現実になる。火の国を守る影の忍の長──名を火影。・・・どうだ」
「なんだそれ」
「火の国から里の代表を決めるよう要請があったんだ。マダラ、お前に長をやってほしいと思っている」

この里の忍達を兄弟だと思って見守ってくれと言われ、マダラは実の弟たちを思い出す。うちはの兄弟すら守れなかった自分にこの里を守れるのだろうか。

「弱気になっている暇なんてないぞ!うちはに千手は勿論として、猿飛一族に志村一族も仲間に入りたいそうだからな」

柱間の言葉にマダラとアリスは目を見張った。特にアリスは未来の三代目火影がいる一族に目を輝かせる。

「うそだろ・・・ほんとかよそれ!」
「素敵じゃない。平和を望む仲間が増えるのね」
「その他にもまだまだ・・・この里はどんどん大きくなるぞ!そろそろ里の名前も決めないとな。何か案あるか」
「難しいわね。マダラ、貴方は?」

先が分かっているからこそ、自分はその案を出さない。影の名を決めたのが柱間なら里の名を決める役はマダラにやってもらおう。
託されたマダラは、先ほど風に飛ばされてきて手にした穴の開いた葉を見つめた。目の前に翳してその穴から里を覗いてみる。

「木ノ葉、隠れの里・・・ってのはどうだ?」
「単純ぞ。捻りもないぞ。見たままぞ・・・」
「火影とどう違うんだよゴルァ!!ってかまだ治ってねぇのかその落ち込み癖!」
「フフ、いいじゃない柱間。森の多いこの里にはぴったりだと思うわよ。それに“火の国・木ノ葉隠れの里”となればマダラの火と柱間の木、両者の象徴が入っているわ」
「流石アリス!マダラと違って考えているな!」
「でもそれじゃアリスがいねぇじゃねぇか。俺達は三人でやってきたんだぜ」
「今のはただのこじ付けだもの。そういう意味で名前を決めたのではないから良いのよ」

そういってアリスが笑うものだから、マダラはまぁいいかと肩を竦めた。実に単純である。

「それで、その火影ってのは里にずっといて皆を見守る役目ってことか」
「それもあるがそういう意味だけじゃない。これから里造りが本格化するにあたって火影も忙しくなる。・・・だから、お前のデカい顔岩をこの足元の岩に彫る。この里を守る象徴だぞ!」
「冗談だろ!?」
「あら、なかなか様になると思うけれど」
「顔がいかつ過ぎるから、ほんの少し手を加えるけどな」
「てめぇの情けねぇ落ち込み顔よりずっとマシだろ!」
「そんなに、情けないぞ・・・?」

落ち込む柱間にマダラとアリスが笑う。昔に戻ったようで何だかくすぐったい気分だ。決別した日には再びこんなやり取りが出来るようになるなんて夢にも思わなかった。

「フフ・・・フゥ、マダラのいかつい顔も柱間の情けない顔も駄目ならわたくしの顔でも彫っておく?」
「おぉ、いいな!お前ならいい顔岩に「だ、駄目だ!」なんだマダラ。お前が否定するとは思わなかったぞ」
「いや、その、な。形に残したいなら絵を描いてもらえ。岩を彫るんじゃお前を造るにはゴツ過ぎる」
「ハハッ!まぁそれもそうだな!顔岩じゃ迫力は出ても華やかさは出ねぇ。それではアリスじゃなくなってしまうな!」
「もう、三人とも駄目じゃないの。それなら他は・・・」

アリスが拗ねたように言ったところで、後ろから「こんなところで何油売ってる!」と声をかけられた。振り向けば扉間が相変わらず厳しい顔で立っていた。

「火の国の大名達が会談に来る頃だぞ!」
「扉間か・・・」
「あ、ねぇ扉間はどう?」
「・・・何の話だ」
「顔岩よ。足元の岩に彫ろうという話をしていたのだけれどね、柱間は情けない顔だから駄目、マダラはいかつ過ぎるから駄目、わたくしは岩では表現できないから駄目、といった感じで三人とも没になったのよ。だから扉間はどうかと思って」
「アリス、扉間もマダラと同じでいかつ過ぎると思うぞ?」
「あらそう?四人とも没になってしまったわね。残念だこと」
「おい、本人が話に入れないまま会話を終わらせるな」

よく分からないまま結論が出てしまった話題に扉間は呆れ気味である。そんな彼を見てアリスは小さく笑った。
まったく、マダラが心底惚れている女だというからどんな化け物かと思っていたが、常識と柔軟性のある女性でよかった。彼女がいればマダラのことは心配ないし兄の支えにもなってくれる。戦乱の世の中では女だというだけで見下されるものだが、彼女は間違いなくその枠を飛び出す存在だろう。
ただ一つ問題があるとしたら──

「そういえばアリス、また大名の息子から縁談の話が来ていたぞ」
「そうなの?木ノ葉と火の国の仲を取り持つためなら行っても「だから駄目だと言っているだろう」もう、マダラったらまた・・・」
「扉間、お前から断っておけ。ついでに今度その話持ってきたら殺すと伝えろ」
「なんで俺が」

──マダラの、アリスに対する愛が重すぎて面倒くさいということくらいだ。

──────────

柱間はマダラを火影にと推していたが、結局大名や里人からの信頼が厚い柱間が火影の座に就くことになった。最初は少し不貞腐れていたマダラだが、柱間の目の前に積まれた書類を見た瞬間やはり火影の座は譲って良かったと思ったそうだ。

「なぁ柱間、アリスは俺のことをどう思っていると思う」
「執務中に来たと思えば、いきなり何ぞ」
「あいつを囲っていた時に一度だけ迫ったことがあったんだがな」
「ちょ、話を進めるな!しかもお前まさか強か「案ずるな未遂だ」」
「あと少しというところで水差しで思い切り殴らつけれた」

眉を顰めて当時殴られた部分をさすりながら言うマダラに柱間は安堵の表情を浮かべる。監禁までしたのだからもしかしたら無理矢理やってしまったのではと思ったが杞憂だったようだ。水差しで殴られた件にはあえて触れないことにしよう。

「俺はあいつのことが好きだ。昔から。だがあいつはいつも躱すばかりで受け入れる気はないようでな。理由は俺がうちはの頭領だかららしい。他の一族と手を組むときに女を迎え入れなくてはならないから俺と結ばれることは叶わないんだと」
「それはまたあいつらしい。だがそれだとこの先もお前の恋が実る可能性は低いな」
「あぁそうだ。そこでだ。うちは一族が一度木ノ葉から抜けたら、あいつは再び手を組むために俺と結ばれてくれるだろうか」
「いや、今度こそ愛想をつかされると思うぞ・・・」

友人の大胆すぎる計画に柱間は頭が痛くなった。彼なら本当にしでかしそうだ。

「本当に、どうしたらあいつは諦めるだろうか」
「俺が知るわけがないだろう。それよりマダラ、この書類の山を手伝ってくれないか。やってもやっても減らなくてな」
「・・・」

この男、俺が本気で悩んでいるというのに“それより”だと?

「ハッ・・・一生書類に埋もれてろ」

額に青筋を立てたマダラは踵を返して部屋を出て行った。


柱間とマダラがそんな話をしていた頃、里にある甘味処ではアリスと扉間がゆったり息をついていた。

「それでね、その時マダラったら──」
「そうか、お前も苦労しているな。あんな化け物のような奴に迫られては身が持たんだろう」
「本当に大変だったわ。普段は強くて厳格で一族の長として相応しいと思うのだけれどね・・・。貴方も柱間の扱いには手を焼いているのではなくって?」
「あぁ。いつもヘラヘラしているからな。何をしでかすか分かったものではない。この前など──」

普段の苦労を語らう二人。才能ある人間とは時に頼もしく、時に厄介なものになるらしい。
お茶を飲んで団子を食べて、その間アリスと扉間の会話は止まらなかった。話が一段落する頃にはすっかり苦労人仲間認定だ。

「今更だがマダラはどうしたんだ。いつもならお前にべったりくっついているだろう」
「流石にずっと一緒にいるわけではなくってよ。たまには一人になりたいと言ったら何処かに行ってしまったわ」
「(言い出してから一人になるまでにまた色々あったんだろうな・・・)何処か、ということはここら辺を徘徊している可能性もあるんだな」
「徘徊って・・・まぁそうね」
「お前といるところを見られたら煩くなりそうだ」

ため息を吐いた扉間に、アリスは苦笑いを零して「そろそろ会計をしましょう」と提案した。



形になった夢
(この平安を後世まで)

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