巡り会いてV | ナノ

イズモとコテツを連れて橋から飛んだアリスは少し離れた森に降り立った。胸元の傷を押さえて大きく息を吐くアリスに二人が顔を顰める。大丈夫かと問えば苦笑いを零して一つ頷いた。

「本当はもっと遠くまで飛べたらよかったのだけれどね。ここの辺りは始めて来たから目視できる範囲で少しずつ移動するしかなくて」
「無理をせずまずはどこか休む場所を見つけましょう。出来れば医者のいる町か村があればいいのですが・・・」
「地図で見る限りはなかったのではないかしら」

周辺の地理を思い出しながら困ったように言うアリスはとにかく少しでもここから離れるためにもう一度飛ぼうと二人に手を伸ばす──がしかし、その指先をクナイが掠めて引っ込めた。
飛んできた方を振り返ればマダラが立っていて追ってきたのかと顔を顰める。

「ダンゾウの遺体を渡せ」
「・・・イズモ、コテツ、下がって」

二人を庇うように前に出たアリスがマダラと対峙する。
そうか、この男、時空間忍術を使うのだったか。これでは何処へ行っても追いつかれるな。
面倒そうに目を細めてマダラを見据えると、さてどうしようかと思案する。出来ればここで始末してしまいたいが相手が相手だ。しかも能力が面倒くさい。

「(──けれど、奴を仕留めてしまえば戦争はなくなる)」

眉を寄せたアリスが思い切ったようにマダラに右手を向けた。足元から湧き出てるかのごとく生えてきた蔦薔薇に一瞬目を見張ったマダラだが、いつもの通り全てをすり抜けさせてその状態のままアリスに目をやる。

「・・・本当に厄介な術だこと」
「お前もな」

そう言ったきり両者ともが黙り込み、重たい空気が続いて続いてそして、どこかで鳥の鳴き声が響いた──瞬間、マダラが走り出した。腕を振るう動きに合わせて蔦薔薇が動くが全てがすり抜けて、アリスは眉を顰める。
ならばと相手の攻撃に合わせて蔦を叩きつけるもそれもすり抜けた。相手の攻撃も自分をすり抜けていったが。
そしてアリスの身体を通ったマダラがその勢いのまま後ろの二人に手を伸ばしているのが分かって今度こそ相手を拘束する。

「ふん、単純だが厄介だな」

己を拘束する蔦薔薇に小さく呟いたマダラは次の瞬間その場で渦を巻いた。近くの木の上に移動して此方を見下ろす彼にアリスが舌打ちしたげに溜め息を吐く。
あの状態から逃げ出せるのか。拘束してから目の前で確実に心の臓を止めるつもりだったが変更した方が良さそうだ。
徐に両腕を上げたアリスの魔力の動きに呼応して空気が震える。見えずとも感じるそれにマダラが目を細めて、そして次の瞬間、周辺の森一帯が音を立てて潰れた。後ろにいたイズモとコテツが驚いた声を出したのを聞いて少し申し訳ない気持ちになる。

「あ、あの、アリス様」
「一帯の重力を操作したわ。あの男、拘束は難しいから姿が見えたら攻撃を仕掛けて始末する」

今の攻撃で死んだとは思えないが次現れるとしたら自分達の周辺だけだ。流石の奴もあの重力の中には入れないだろう。次で仕留める。
辺りを警戒していつ来ても良いように心構えをするアリス。しかし中々奴は現れない。諦めたわけではないはずだが、標的が現れてくれなければいくら罠を張っても意味がない。

息を吐いて取り敢えず重力を戻そうと手を翳した──ところで、後ろから感じた殺気に少し遅れて振り返る。が、奴はいない。
しかしいきなり振り返ったアリスに驚いた表情を浮かべるイズモとコテツの上。例の装束が見えて目を見張った。マダラだ。
認識した時には既に二人の姿は歪んでいて、咄嗟にアリスも手を伸ばすが届かずイズモとコテツが異空間へ放り込まれる。思わず顔が歪むのが分かった。

「さ、どうする」

喉を鳴らして問うてくるマダラにアリスは大きく息を吸って吐く。ここで挑発に乗っては駄目だ。あの二人が放り込まれたのは恐らく自分も前に見た所で、すぐに死ぬわけではないはず。
短く思考して考えがまとまったのかアリスが少し俯けていた顔をマダラに向けた。
どう出るか見ていた相手に向かって無言で歩き出す。何の構えもなしにただ歩いてくる様子に何がしたいのか分からなくて、マダラはふざけているのかと眉を顰めた。

「──マダラ、わたくしも二人の所へ連れて行きなさい」

目の前まで来たアリスの言葉にマダラが息を呑む。
本気かこの女。里の人間を大切にしているのは知っている。が、ここまでするか普通。それとも何か考えがあるのか。能力が分かっていないだけあって迂闊なことはしたくない。しかし自分から捕らえられてくれるなら色々と手間が省けて万々歳でもある。
──どうするかという選択を迫られたのは自分の方だった。


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