「今日もやっているわね。ナルトの調子はいかが?」 「んー・・・始めたばっかだし、まだまだ掛かりそうだね」 木の葉を切る修行が終わり、今度は滝を切る修行に入ったナルト。ずらりと並んだ姿と定期的に聞こえる水を切ろうとする音にアリスは「そうみたいね」と呟いた。 「きちんと休憩を取っているの?あの子、結構無理してしまう性格だから心配だわ」 「それが中々ねー・・・。大蛇丸の事もそうだけど、やっぱり風影様奪還任務の時にサスケの実力見ちゃったせいかな。ちょっと焦ってるみたい」 詳細を聞くに、どうやらサスケがデイダラ相手に互角にやりあったらしい。性質上有利という理由があったとはいえ常にサスケを意識しているナルトには堪えたのだろう。 そしてサスケもはっきりとは口にしなかったが、やはりナルトの事を意識した発言は多かったとアリスはこの二年間を思い出す。 「サスケは強くなったからね。本当、わたくしも驚くほど成長したわ」 「・・・あいつは強くなりたい理由がはっきりしているからな」 カカシはほう、と息を吐いた。 ライバルのナルトに想いを寄せているアリス、そして一族の仇のイタチ。どれをとっても理由としては十分だ。更にいつも行動を共にするのは想い人であり自分より強いアリスなものだから、色々な意味で常に高い向上心を保っていられた。 「そういえば最近サスケよりサイと一緒にいる時間が多いんじゃないの?」 「そんなことないわよ。いつも通り修行はサスケとやっているし・・・確かに空いた時間はサイと過ごすことが多くなったけれど。・・・そういえば此の所サスケの調子が悪いのよね」 「そうなの?」 「えぇ。小さなミスを繰り返すことが多くなって、いまいち修行に集中出来ていないと言うか・・・少しイライラしてるみたいで」 困ったようにアリスは頬に手を当てる。何かあったのか聞いても「何でもない」の一点張りだし、なのに妙に落ち着きがないし。 修行でならミスしてもその場で止められるからまだ良いのだが任務となればそうはいかない。一瞬の判断ミスが命の危機を招くのだ。このままでいてもらっては困る。 「それはあれじゃない?ほら、アリスがサイを構い過ぎるからとかさ」 「構い過ぎると言うほど一緒にいるわけではないと思うけれどね・・・。それにサスケの生活リズムが崩れたのでもないのだから、わたくしとサイの事ではないと思うわ」 それがあるんですよ、アリスさん。 至極真剣に言うアリスにカカシは肩を落としてため息を吐いた。別にアリスが鈍感というわけではない。己の容姿も才能も自覚しているし誰が自分に想いを寄せているかも把握している。 ただ問題なのが恋心というものを知識として知っているだけで理解出来ていないという事だ。 表情や行動を見て「あぁこの人はわたくしの事が好きなんだ」と機械的に判断しているだけな上に、どうしても考え方が自分のもの寄りになってしまっている。 つまり「サイ(というより男全般)と仲良くする⇒サスケの機嫌が悪くなる=嫉妬」という方程式が成り立たないのだ。 これはどう説明したものか・・・。 「まぁ要するにあれだよ。アリスだって、三代目を他の誰かにずっと取られたままだと嫌だろう?」 「それは・・・まぁ、恥ずかしながら・・・そうかもしれないわ。・・・あぁ成程、つまり弟や妹に母親を取られて寂しいという感覚なのね」 「・・・うん、もうそれでいいよ」 今のアリスだとその解釈が限界か。下手に喋って拗れる前に話を切り上げよう。 カカシは諦め気味に言うとアリスが何か言う前にナルトとヤマトを呼んで休憩だと告げた。影分身を解いて滝に架かった木から降りてきたナルトがアリスに気付いて顔を明るくさせる。 「よっ、来てたんだな!」 「えぇ、つい先程。まだ少し時間がかかりそうね」 「んなことねぇって!すぐに切れるようになるってばよ!」 影分身による疲労が出ているのか木陰に座り込んでニカッと笑うナルト。アリスはタオルを手に取るとナルトの体が冷えないように肩にかけた。そしてそのまま動きを止めて小さく首を傾げる。 「どうかしましたか、アリス様」 「カカシ班の隊長なのだから敬語なんていらないわよ、ヤマト隊長。──大したことではないのだけれどね、ナルトったら意外と筋肉ついてるなと思って」 「そうか?」 「昔は班の中でも一番小さくて弱そうだったのに」 「ま、ナルトだって男なんだからこれ位にはなるでしょ」 「俺だってってどういう意味だってばよカカシ先生・・・!」 「いいな、いいな・・・わたくしなんて影分身で努力しても全くつかなくて・・・」 羨ましそう、というより恨めし気な双眸でアリスがナルトの腕を見つめる。その視線にナルトは「そんなに頑張ったのか」と口元を少し引き攣らせた。 「アリス様は読むもの聞くもの習うもの全てを砂が水を吸うように吸収していくと思っていたよ」 「他は大体そうなのだけれど、筋力だけはね・・・影分身を解いた途端、その時に散らす煙と共に消えていくのよ。残るのは夜の筋肉痛だけだわ」 「代わりにスピードと忍術があるから良いじゃない。完璧な人間なんていないさ」 「そうそう。五大性質変化に加えて血継限界まで扱えるなんて贅沢じゃないですか」 不貞腐れるアリスをカカシとヤマトが宥める。大人しく三人を見ていたナルトは不意に「そういえば」と聞きたいことを思い出した。 「風の性質変化習得するために滝を切る修行してるけどさ、他の性質変化でも何かそういう事出来んの?」 首を傾げるナルトに、質問の意味を理解したアリスは頷いた。落ちていた木の葉を拾ってを胸元まで上げる。 「うん?これってば俺もやったやつだってばよ」 「えぇ、でも風ではなくてね・・・」 ゆらりと手に持った葉から煙が上がって、次の瞬間一気に燃え上がった。 「うわっ」と声を上げるナルトにアリスは小さく声を上げて笑う。 「火の性質変化だね」 「へー、物を燃やすことも出来んのか・・・」 「チャクラそのものが燃えるというより物の発火点まで温度を上げていると言った方が正しいけれどね。 あぁそうだわ。ついでだから風の性質変化の修業、少しだけ手伝ってあげる」 「手伝う?」 「そうそう。ちょっとそこの木に手をついて」 すぐ近くの木を指させばナルトは首を傾げながらも両手を木に当てる。アリスは横についてナルトの手に自分の手を重ねた。 「何やってんのさ、アリス」 「サスケでも苦労した性質変化なのだからナルトには手本があった方が良いと思ってね。ナルト、今から風のチャクラで木を切るから、その瞬間の性質変化の感覚を覚えなさい」 ナルトが頷いたのを確認したアリスがナルトの手を通してチャクラをその先に集中させる。一瞬の後、目の前の木に切り込みが入ってぐらりと傾き、音を立てて地に横たわった。滝を切っていたのとは違う感覚にナルトが目を丸くする。 「どう?自分の時との違いが分かった?」 「うん・・・なんか、なんて言うのかよく分かんねぇけど・・・すっごく鋭くて・・・切る瞬間も、抵抗がなかったってか・・・」 「薄く鋭く、というのはこんな感覚よ」 自分の手と倒れた木を見比べながら言うナルトは、だんだんとその感覚を実感してきたのか顔を明るくさせていく。仕舞いには「これならいける!」と拳を握った。 「サンキューだってばよ!アリス!さっそく試してくる!」 「あっ、お待ちなさいなナルト!もう少し体を休めないと」 「大丈夫だって!早くしなきゃこの感覚忘れちまう!」 「根を詰め過ぎるのは逆効果なんだから。それにヤマト隊長にも休憩が必要でしょう」 止めるアリスもなんのその、ナルトは自信満々に「大丈夫大丈夫!」と笑って言うと滝へと駆けて行く。 アリス達三人は顔を見合わせて呆れたように苦笑いを零した。
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