「あら、ナルトじゃない。帰っていたのね」 「ん?おっ、アリスとサスケじゃん!」 サスケと共に道を歩いていたアリスは階段に座っているナルトを発見して声を掛けた。此方を向いたナルトは片手をあげてニカッと笑う。しかし任務はどうだったかとサスケに問われた途端眉を下げて顔を俯かせた。言い辛そうにしているところを見ると良い結果ではなかったのだろう。 「あー・・・その、サソリの部下ってのがカブトで・・・でも大蛇丸もついてきてて・・・カブトは本当に大蛇丸の部下になってて・・・サイがダンゾウの命令であいつ等についてって・・・アジトに行ったけど結局逃げられちまったってばよ」 「・・・相変わらず頭が悪い上に要領を得ない説明の仕方だな」 「なにお「はいはい喧嘩しない」ちぇー」 「取り敢えずカブトは完全に大蛇丸側の人間になっていて、ダンゾウの命令でサイが大蛇丸と共にアジトへ行ってしまって、追跡したけど押さえられず逃してしまったのね」 「そうそれ!あ、サイは帰ってきたってばよ」 漸くまとまった話にサスケは「ウスラトンカチ」と小さく呟く。そこからまた喧嘩に発展する前に、アリスはナルトに今から何かあるのか問うた。 「サクラちゃんと待ち合わせしてカカシ先生の見舞い!」 「あら・・・それならわたくし達はお邪魔かしらね」 「へへっ、そんなんじゃないってばよー」 「じゃ、ついていくか」 「えっ、」 「冗談だ」 笑顔のまま固まったナルトにそう告げて鼻で笑えば再びナルトが騒がしくなる。何故こうも会うたびに一触即発な雰囲気になるのか。アリスはもつれ合いになる前に二人の間に入った。 「こんな短い時間に何度も喧嘩しないでちょうだい」 「だってサスケが!」 「俺は何もしてない。お前が勝手に突っ掛って来るだけだろ」 「ムキー!!やっぱそういう人の気に障ること言うところサイにそっくりだってばよ!」 「もうっ!わざわざ騒がないでったら。サスケも挑発するようなことを言わないの」 少し怒ったように注意するアリスに、二人は今一度睨み合うと「フン」とそっぽを向く。相変わらず反発しあう二人にアリスがため息を吐いたところで少し離れたところからサクラの声が聞こえた。 「あぁ、サクラ・・・と、あら?」 「なんだってばよ。サイも一緒かよ」 サクラの後ろにいるサイを見たアリスは首を傾げ、ナルトは少し残念そうに不服を口にする。それを聞いたサスケが「あいつがサイか」と無感動に呟いた。 「図書室で偶然会ったのよ」 「なぁんだ!せっかくサクラちゃんと二人っきりでデートっぽく歩くプラン練ってたのによー!」 よくあんな堅苦しいところに行けると不貞腐れたまま言うナルトにサクラは体ばかりではなく頭も鍛えた方が良いと呆れ半分に助言する。そんな二人をじっと見ていたサイを、更にアリスが見つめていた。 「“根”の人間が配属されたと聞いて心配していたけれど思ったより悪くないみたいね」 「あ、あぁ・・・挨拶が遅れて申し訳ありません。“根”に所属するサイと申します。アリス様の事はダンゾウ様から「待って待って!膝もつかなくていいから!」しかし・・・」 その場で素早く膝をついて挨拶の言葉を述べ始めたサイをアリスが慌てて止める。渋るのを宥めてナルト達の力も借りて、彼は漸く立ち上がった。 「貴方もカカシ班の一員なんだから敬語なんていらないわよ」 「はあ・・・」 「まぁこれから慣れてくれたらいいわ。改めまして、アリスと申します。それとこちらが──」 「うちはサスケだ。・・・アリスから聞いた話じゃお前、ナルト達とそりが合わなかったらしいが」 「確かに初めは最悪だったけど、でも変わったのよ。今はサイなりに仲間として歩み寄ろうと努力してるわ。さっき図書室で会った時も人間関係とかコミュニケーションの本を読んでたもの」 「サ、サクラ・・・!」 あまり知られたくはなかったことをバラされてサイが焦ったようにサクラを呼ぶ。アリスはそれを聞いて「それなら」とにっこり微笑んでサイを見た。 「わたくしが読んだ中でお勧めの本があるから、近いうちに教えてあげるわ」 「アリス様が・・・アリス、が、読んだ本ですか?」 「えっ、アリスもそういうの読んでたの?」 「えぇ。火影代理をしていた時にね。昔はわたくしも人間関係を築くための知識なんて真っ新だったから、とにかく片っ端からそういった本を読み漁っていたわ」 「・・・意外です。アリス様は何でも卒なくこなす方だと思っていましたので」 「サイ、敬語になってる。まぁ呑み込みは早い方だと自負しているけれど流石にない知識を使うことは出来ないから・・・」 両手を上げて肩を竦めれば、ナルト達が昔を思い出して納得した表情になる。過去のアリスはそれはもう酷いものだった。 遠慮や気遣いなど一欠けらもない。思ったことはそのまま相手へ。言葉で追い詰めるのは御手の物。人の意見など何処吹く風。 今思えば良く此処まで変われたものだとしみじみ思う。そして同時に、人は此処まで変われるのだと実感できる。 「あ、そうそう。人間関係を学ぶにおいて本を読むよりも効率の良い方法があるのを知っている?」 「え・・・いえ、」 「ふふ、簡単よ。 実際に人と触れ合えばいいの」 言うと同時にサイの手を掴んで歩き出すアリス。慌てるサイを振り返ってクスクス笑う様子に、ナルト達は顔を見合わせて彼女達に続いた。 「それで、本を読んで何か学べることはあった?」 「あ、はい。名前を呼び捨てにしたり、あだ名や愛称で呼べと。そうすれば親近感が出てすぐに仲良くなる、と」 「へぇー。なんだ、お前もそんなこと気にするんだな!」 先程の事を思い返して恥ずかしそうに言ったサイは、取り敢えずナルトとサクラのあだ名や愛称を考えたが中々に難しかったと眉を下げた。 自分から歩み寄ろうと努力する姿を見て任務前の彼を知っている二人が頬を緩める。 「愛称とかあだ名なんてその人の特徴とか言えばいいのよ。例えばほら、ナルトなら・・・馬鹿ナルト、とか、阿呆ナルト、とかね!」 「ってサクラちゃん、それは飛び過ぎだってばよ・・・」 歩きながら器用にズッコケる真似をするナルトにアリスとサクラは笑い、サスケは鼻を鳴らし、サイは成程と考え込んだ。 数秒おいて良い案が浮かんだのか改めてサクラに目を向ける。 「ありがとう、コツがわかったよ。 ──ブス」 ピキーンと、場の空気が固まった。ナルトは隠すことなく顔を驚愕に染めて、普段表情を崩すことが少ないアリスやサスケさえも「まずい」と顔を引き攣らせる。 直後── 「しゃーんなろー!!」 「サ、サクラ落ち着いてっ」 「サイ!そりゃぶっ飛び過ぎだってばよ!」 「え?何がです」 「ウスラトンカチ共・・・」 荒れ狂うサクラを身を挺して止めるナルトと遠巻きに宥めるアリス。悪気など欠片もないサイと彼等に呆れてため息を吐くサスケ。 そして、良く晴れた青空にナルトとサイを引っ叩く小気味良い音が響いた。
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