巡り会いてV | ナノ

サソリを倒して洞窟を出たアリス達は、走っている途中に起きた地鳴りに進行方向を変えた。暫くすれば見知った三人が見えて胸を撫で下ろす。

「漸く会えた・・・」
「サクラちゃん」
「よくここが分かったな」
「先ほど凄い地鳴りがあったでしょう。サスケとカカシ先生はあまり目立つ戦い方をしないから、ナルトかデイダラだと思ってね」

思い出して肩を竦めて言うアリス。辺りを見渡せばデイダラの姿はなく、まだ決着がついていない様子だった。
さてどうしたものかと考え始めたその時、少し離れたところで金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

「何・・・」
「恐らくガイ班だ」
「そういえばガイ先生達は今までどうしていたの。てっきり参戦しているものだと思っていたのにいなかったじゃない」
「少し敵のトラップに嵌ったらしくてな・・・」

簡単な説明を聞いている間に、ガイ班に追い詰められたデイダラが落とされた鳥の胴体に辿り着いた。一口それを噛み千切って再びガイ達と対峙する。

「俺の究極芸術を見せてやろう」

咀嚼した起爆粘土を呑み込めば途端に膨張していく身体。ここから離れろと、ネジの声が響く。

「芸術は爆発だ──喝!!」

轟音と共に迫りくる熱が近い。逃げられないという判断は早くて、明るくなる視界に息を呑んだ。


──数秒後、そこは静かだった。爆発元では土煙が上がり空間が捩れている。しかしそれもすぐに元に戻って少し抉れた地面だけが残った。

「一体何をしたの・・・?」
「爆発ごと、別の空間に飛ばした」

サクラの問いに疲労困憊しながらも答えるカカシ。そして皆無事かと辺りを見渡せば、我愛羅を抱えたナルトが木から降りてきた。

「サクラちゃん・・・」

皆まで言わずとも伝わる言葉にサクラが頷く。その場ですぐに始めようとしたがしかしガイが暁のアジト周辺では危険だと窘めた。

「せめてこの森を抜けよう」
「そうだな」
「それなら貴方達は先に行っていいわよ」

飛び込んできたアリスの言葉に全員が振り返った。当人は木に寄りかかって少し険しい顔をしている。
何を言っていると反論したサスケだがそこで気付いた。此方を見るその瞳は焦点が合っていない。ついでに手足も痙攣したように震えていて、サスケは弾かれるように駆け寄った。

「おい大丈夫か!」
「えぇ・・・痛みはないの。ただ、視界が少しブレて・・・手と足が思うように動かないだけ」
「サソリの毒が効いてきたんだわ」
「解毒薬は、」
「あるわけないでしょう。砂に戻ってサクラにわたくし用のものを調合してもらわなければならないわ。まぁ今のところ命にかかわる程ではないし、気にしなくても大丈夫よ」

焦点が合わず揺れる瞳でサスケを見るアリス。「そうか」と小さく呟いたサスケは何の前触れもなくアリスを横抱きにして立ち上がった。

「ちょ、ちょっと・・・!」
「こんな所に置いていけるわけないだろ」

浮遊感が加わり慌てるアリスを尻目にサスケはカカシ達に移動を促す。初めこそ降ろしてほしいと訴えていたアリスだが暫くしたら諦めがついたのか大人しく体を預けたのだった。

──────────

サァ...と風が駆け抜ける草原で、我愛羅を横たえたナルトはサクラに場所を譲った。胸部に手を当てて暫く確認していたサクラだが脈を打っていない彼に暗い表情のまま首を振る。

「──なんで、我愛羅が・・・我愛羅ばっかりが・・・こんなんで死んだんじゃ・・・!風影になったばっかじゃねェか・・・!」
「冷静になれ、うずまきナルト」
うるせェー!!!
 お前等砂の忍が!我愛羅の中に化け物なんかいれなきゃこんな事にはならなかったんだ!! お前等、我愛羅が何を思ってたのか少しは聞いたことあんのか!
 何が“人柱力”だ。偉そうにそんな言葉造って呼んでんじゃねェ!」

ボロボロと頬を伝う涙が地に吸い込まれていく。
孤独から抜け出して、頑張って頑張って頑張って漸く認められたのに。まだまだこれからだったのに。こんなのあんまりだ。

「落ち着きなさい、ナルト」
「でも!アリスだって我愛羅がどれだけ努力してきたか知ってんだろ!その結果がこんなんじゃ浮かばれねェってばよ・・・!」

ぐずぐずと泣きじゃくるナルトを見たアリスは目を閉じて息を吐く。

「・・・サクラ、我愛羅の治療をして」
「え・・・で、でも」
「いいから。仮死からの蘇生術を」

気だるげながらも静かに言うアリスに、サクラは戸惑って我愛羅とアリスを交互に見る。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬと聞いたし今さっき自分で確認したのだ。間違いはないはず。
それでも無言を持って促されて疑問が残るまま我愛羅の隣に膝をついた。かざした手に淡い光が灯る。

「な、なぁアリス、どういうことだってばよ」
「我愛羅は死んでいないわ・・・たぶん」
「なんで!だってさっきサクラちゃんが・・・!」
「──もともと」

少し間を置いて静かに切り出したアリスの双眸がナルトを捕らえる。焦点は合わないはずなのに、何故か今は揺れることなく目が合っていた。

「もともとこの術はナルトのために造っていた術でね」
「俺のため・・・?」

怒りの代わりに疑問で埋め尽くされたナルトが濡れた頬をそのままにキョトンとアリスを見る。

「一度暁が里を訪れたことがあったから九尾が狙われていたことは早い段階で分かっていたでしょう。だから、いつか来るかもしれないその時に備えてずっと考えていたのよ。
 複雑なところを省いて説明すると、尾獣の力の一部を切り離して人柱力自身に接合する術なのだけど」
「キリハナシテ、セツゴウ・・・」
「・・・つまり九尾が抜かれたとしてもその一部がナルトの中に残るようにするのよ」
「そうすると何が良いんだ?」
「あぁもう・・・頭は三年前から成長していないのね。
 人柱力は尾獣を抜かれたら死ぬのでしょう。だからそれを回避するために尾獣を一部分だけ独立させておくの。そうしたら本体が抜かれてもその欠片が残るから命を落とすということはなくなるはず、という論理よ。この説明で理解・・・出来たらしいわね」

途中から明るくなっていくナルトの表情にアリスは呆れたように言葉を締めくくる。分かりやすい人だ。

「じゃあさ!じゃあさ!もしかして我愛羅ってば・・・!」
「試験的に施しただけだし予定とは違う結果が出ているからまだ分からないけれど、全く望みがないわけではないわ」
「さっすがアリスだってばよ!」

少しでも可能性があると聞いて喜ぶナルト。しかしサスケは“試験的”という言葉が引っかかったのか此方を見ている。

「・・・完成しているわけじゃないのか」
「えぇ、まぁ。人柱力に施すこと自体初めてだから・・・それに本当は尾獣を抜かれた後もある程度は動ける予定だったのよ。欠片の方に掛けた術が甘かったのかもしれないわ」

ここまで喋ったアリスは疲れた表情で息を吐いた。毒がじわじわと効いているのかもしれない。医療に関してはサクラがいるし、もしそれで駄目なら今の説明を聞いたサスケがどうにかしてくれるはずだ。後は任せよう。

「サスケ、わたくしは少し休むわ。何かあったらお願いね」
「は・・・あ、あぁ。分かった」

頷いたサスケを確認したアリスは静かに目を閉じた。


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