マダラ達が消えた後、ようやく緊張状態が解かれたわけだが、突然ナルトが青い顔で倒れた。何事かと思えばサクラの毒付きのクナイが頬を掠ったらしい。取り敢えず橋に上がってナルトを解毒してついでにアリスの胸元の傷も治療してもらって、そこにカカシが香燐を背負って連れてきた。 「香燐大丈夫?怪我しているの?」 「ダンゾウに人質に取られたときにウチごと・・・お前こそ胸元やられてたくせに元気だな」 「あれくらいで倒れていては務まらないもの。あ、だからと言って痛くないとかそういうわけじゃないのよ? 普通に痛みはあるし貧血になるし、辛いことは辛いんだから」 「はいはい、アリス。一応この子は敵なんだからあまり仲良くしないでちょうだいよ」 仲良さげに話す二人をカカシが間に入って止める。手負いだし特に何かをしてくる事はないだろうが一応敵は敵だ。情が湧いたりしては困る。まぁサスケとの対話を聞いている限りそんな心配はないだろうが。 ────────── その後、ナルトを追ってきたヤマトを宥めたり、曰く“忘れ物”のキバ、サイ、リー、赤丸を回収したり、ダンゾウの死をサイや駆けつけた暗部に説明したりして帰路についたアリス達。 その道中ナルトはアリスに先程のサスケへの対応にぐちぐちと不満を漏らしていた。 「ナルト、もういいじゃない・・・結局貴方の要望通り手を引いたんだから」 「いーや!アリスってば何年サスケと一緒にいたんだってばよ!さっさと手ェ切っちまうなんてあんまりだろ!」 うんたらかんたらと続く説教のような文句にアリスは困ったように眉を下げた。カカシに目で助けを求めてナルトに制止をかけてもらったがそれでも「今回ばかりは」と一蹴されて、再び言葉が並ぶ。流石に不憫に思ったのか今度はサクラが止めればナルトは少し言葉を濁した。 「でもナルトの言い分にも一理あるわよ、アリス。サスケ君の気持ちだって分かってるでしょ」 「里想いもここまで来ると厄介だね。まったく、親から継いだのかそういう性質なのか・・・」 「仕方ないじゃない。一族全員こんな感じなんだから」 害する者は内外問わず即刻切捨て。守るのは己の国のみ。それ以外には情が湧かぬように、国を乱さぬように。国と国民のために生きるように。 強い力を無闇に使わないよう思想という“枷”を遺伝子に組み込んだ。 「なぁんか殺伐としてんな・・・アリスの家って」 「そんなことないわよ。そういう面もあるってだけで普段は冗談言ったりお茶会開いたり、家族仲はとても良いんだから。それに権力争いだとか反逆者だとかも数百年に一度あるかないかくらいで・・・戦争だって過去千年以上ないようだし、他国やこちらと比べると凄く平和だと思うのだけれど」 母から聞いた話や本からの知識を思い出しながら言葉を並べるアリス。 確かにそれを聞くと平和だ。そういえばアリスの母親も随分と穏やかな人間だったし基本は争いの類は好まない人種なのかもしれない。 しかしその分いざこざがあった時は対処が大変だなと、キバが頭の後ろで手を組みながら言葉を零す。が、アリスは少し考えるように首を捻った。 「確かにその時まで発覚しないと少し厄介らしいけれど、大抵は先見の能力を持つ方が予言するから実際は予言された時点で即刻排除されて大きな問題にはならないわ。予言された方もその時点では進んで首を差し出すことが多いようだし」 「・・・わっかんねーってばよ、アリスの一族って。しかも占いでそういうの決めちまうって」 「占いではなくて先見よ。五百年くらい先までなら秒単位で分かるらしいわよ」 「なにそれ怖ェ・・・」 他にも生と死を司る能力だとか、過去を書き換える能力だとか、有と無を司る能力だとか、運命を司る能力だとか、まぁ珍しい能力がごろごろいる。中には普通に水だったり炎だったりと一般的なのも存在するが。母は鏡だったし。 指を折りながら教えてくれるアリスに物珍しげに相槌を打つナルト達。 「じゃあアリスは薔薇なのね。比較的よく見るし家にもたくさん咲いてるし」 「うーん・・・まぁ、そうとも言うかしら」 「中途半端だなー。あ、でもさでもさ、思ったんだけどアリスのかーちゃんの国って平和なんだろ? それって凄い能力持ってても殆どの奴が宝の持ち腐「ナルト、それ言っちゃダメ」お、おう」 何気なく言ったはずの言葉に思った以上に迫ってきたアリスに、ナルトは顔を引き攣らせて返事を返した。 ────────── 「カカシ先生、ちょっと」 「うん?」 長い道のりを歩いて途中で休憩を取った時、アリスはカカシを呼んだ。なんだと首を傾げるカカシを連れてその場から少し離れると五つの小振りな巻物を目の前に掲げてみせる。 「ダンゾウが無くなった情報を各隠れ里と共用した方が良いと思ってね。わたくしの口寄せよりもカカシ先生の犬の方が勝手が良いと思って」 少し暗い表情でそう告げるアリスはダンゾウの死に落ち込んでいるのだろうか。 取り敢えず「そうか」と返事をするとクナイで指を切って印を組む。五匹の犬に巻物を括り付けて送り出すとアリスは小さく息を吐いた。 「・・・戦争は始まるわダンゾウは亡くなるわ、一気に忙しくなるわね。“根”の統制もどうするか考えなくてはならないわ」 「オレも急に火影になってしかも初っ端の仕事が仕事だからな。三代目とアリスには色々と手伝ってもらわなきゃならないかもしれない」 二人そろって険しい顔で遠くを見ていると、そこにナルトが草の根をかき分けてやってきた。どうしたんだと問うナルトに各隠れ里に伝令をと伝えれば「ふーん」とも「へー」とも取れない中途半端な返事が返ってくる。 戦争に参加させられない彼が来てしまっては深いところまで話し込むことは出来ず、三人は皆が体を休めているところまで戻っていった。
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