巡り会いてV | ナノ

それから数日後、アリスの家の一室でイタチが静かに意識を取り戻した。
酷使して光を失った目では状況を判断出来ないが、覚えのある匂いに小さく身動ぎして辺りの気配を窺う。手元の書類に目を落としていたアリスがその動きに気付いて顔を上げた。

「・・・どういうことだ」
「お、はよう。体の具合はいかが?」
「良くはない」
「そう・・・無事──とは言い難いけれど、意識が回復して良かったわ。状況説明はもう少し落ち着いてからの方が良いかしら」
「いや、今からで問題ない」

とは言うものの辛そうに息を吐き出すイタチだ。体調が芳しくないのは確かな事。なるべく手短に済ませた方が良いだろう。

「まずここは木ノ葉のわたくしの家よ。貴方がいると知っているのはヒルゼン様と治療に協力した綱手姫のみ」
「俺が生きているのは」
「ずっと前に貴方に鏡を渡したでしょう。あれは魔法具でね、貴方が死ぬ前に鏡の中の偽物とすり替わったわ」

その言葉にイタチが表情を歪めれば、言いたいことを汲み取ったアリスが軽く両手を上げて待ったをかける。

「サスケはイタチが死んだと思っているはずよ。それに偽物の方も体は土遁で出来た土塊だけれど目は正真正銘貴方の物。

 一度貴方と直接戦ったじゃない?その時に採った細胞を培養しているからサスケが移植しても問題ないわ。

 大丈夫よ。元々はあの大蛇丸が完成させた研究なんだから間違いはないはず・・・たぶん。あぁ、因みに写輪眼に関する情報も大蛇丸からね。それと貴方の目もほとんど見えていないとカカシ先生から聞いたから、同じようにして作ったサスケの目を綱手姫に移植してもらったわ」

表情で問うてくるイタチにゆっくり返していくアリス。しばらく大人しく説明されていた彼だが「そういえばサスケの事だけど」と話を切り出した途端ハッとして体を起こした。ベッドの上で蹲るイタチをアリスが慌てて支えて横たえる。

「すまない・・・」
「心配なのは分かるけれど貴方の身体もギリギリだったのよ。綱手姫がいなかったら疾うに棺桶の中だったんだから」
「あぁ・・・それで、サスケがどうした」
「あれから結構経つのに帰ってこないわ。連絡もないの」

アリスが困った顔で溜め息を吐き、イタチも面の男を思い出して苦い表情になった。
まさか自分の事をバラされたか。念のため天照を仕込んでおいたがサスケが帰っていないのを見るにそれも失敗らしい。あの男だけには近付けたくなかったのに。

「あー・・・それで、ね・・・イタチ」
「なんだ」
「その、必要な連絡はなかったけれど、メッセージと届け物なら届いているわ」

思考を巡らせていたイタチにアリスが渋い顔で近くの棚に目をやる。先を促せばアリスはその引出しの中から額宛を取り出した。

木ノ葉のマークには抜忍の証である傷が入っていた。

「・・・サスケの物か」
「えぇ。それでね、手紙の方には・・・まぁ、『今の木ノ葉には希望を見出せない。うちはの未来を切り開くために里を抜ける』というような事が書いてあったのよ」
「随分と聞こえが良いようにまとめたな。要するにどうしたんだ」
「テロリストに転職しました」

しーん、と静かだった部屋が更に痛いほどの沈黙に支配される。殺されなかったのは良かったがまさかの里抜け。となるとマダラから真実を聞かされたな。
イタチは頭が痛いとでもいうように眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。

「目的は木ノ葉隠れへの復讐か。そして戦力不足の“暁”がそれを利用しないわけがない。・・・手を組むだろうな、あいつ等は。
 アリス、俺が生きているとサスケに伝えて「少し落ち着いて貴方らしくない」」

珍しく冷静が欠けているイタチをアリスが静かに諭す。
イタチが生きていると伝えられるならば最初からサスケを連れ帰っていた。出来ないからこんなことになっているのだ。

「世間から見て貴方は既に討伐済みになっているわ。そう簡単に生きていたと公言することは出来ないし、サスケに伝えるなら“暁”と手を組む前でなければ裏切り者として粛清の対象となる。かといってあの時サスケも貴方も連れて帰ったのでは完全にマダラのターゲットになる。
 しかもマダラはイタチが生きていると気付いていて、わたくしが匿っていることも知っているからね・・・世間にそれを公開されてはわたくしの信頼は勿論、木ノ葉隠れの立場も大きく揺らぐわ。
 今の状態に持ち込むのが一番良かったのよ」

苦い表情で説明するアリスにイタチが落ち着きを取り戻してきた。
今のサスケを取り戻すのが無理なら自分が里を守りながらチャンスを待つしかない。
そのためにはまずこの身体を治さなければと、目元に巻かれた包帯に触れて小さく息を吐く。
失われる一方だった光は思いがけなく回復することとなった。また里のために戦える。

「これだけは大蛇丸に感謝しなければならないな」
「そうね。今度こそ自分を大切にして、サスケを悲しませないようにお願いするわ」
「・・・・・・・・・善処しよう」
「その答え、わたくしも使っているから分かるけれど信頼なくてよ」

アリスの言葉にしばらく沈黙が続いて、取り敢えず動けるようになるまではここで療養するという事で話は落ち着いた。


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