吹き出した炎と無数の紙がぶつかり合う。燃えずに炎を押し返すそれにアリスは小さく目を細めた。 「(決着には時間が掛かりそうね・・・)」 早く自来也の援護に回らなければならないのに。 火遁の術を解いて小南に向かって地を蹴る。そして紙が肌を掠った瞬間、アリスの体が花びらに変わって姿を消した。辺りを舞う花に小南が警戒して気配を窺う。その後ろ、死角になる壁に姿を現すアリス。 宙に浮く小南にクナイを振り下ろした。 ──が、刺した瞬間呑み込まれるようにして体に紙が貼りついていく。身を引こうにも空中では叶わず紙に巻かれた状態で地に落ちた。 「殺しはしない・・・。貴方は大切な暁の戦力になるのだから」 「ならないと言っているでしょうに」 「・・・影分身」 包んでいた紙に手ごたえが無くなり、代わりに後ろから刀で胸元を貫いたアリスを横目に呟く。 対するアリスも血の流れない小南の身体を見て軽く肩を竦めた。 「流石暁構成員。ただ単に刺した切ったじゃ死ぬことはないようね──っと」 振り向きざまに振るわれた凶器にまたもアリスの体が散る。すぐ隣に再構成されたアリスが掌にチャクラを集めて、乱回転するそれを小南に打ち込んだ。呑み込まれるところで弾けた螺旋丸の風圧が紙を吹き飛ばし今回は事なきを得る。 距離をとって凶器を手に踏み込んで散って形成して切って貫いて──紙と花びらが薄暗い通路を華やかに彩る中で、二人が幾多の攻防を繰り返す。 そして、それだけやっていれば互いの術の特性が分かってきた。 「(あの紙の術は回避と攻撃が同時に出来るのね・・・。こちらの攻撃は当たらないのに小南の攻撃は当たるだなんて厄介な)」 「(あの術、回避専用か。攻撃に回るときは必ず実体化する・・・あの男と同じね)」 向かい合って相手の動向を探りながらそれぞれが思考を巡らせる。 アリスも小南も似たような術で攻撃が当たらない。決着がつくとしたらアリスが隙を突かれるか小南がチャクラ切れになるかのどちらかだ。つまりどうしても長期戦は免れない。 さてどうしたものか。 短い硬直状態の末、先に動いたのはアリスだった。印を組めば建物に沿うパイプから水が噴き出て球体となって小南を閉じ込める。 別に決着を付けなくとも自来也の元へ行ければそれでいいのだ。 じっとこちらを見る小南に背を向けてもう一つの戦場へ行こうと背を向ける。が、曲がろうとした角から姿を現した小南に足を止めた。 「・・・紙分身」 「あぁ」 再び睨み合う状態になるが今度は小南の方が早かった。振り下ろした腕から何十もの紙手裏剣が放たれて、アリスが地を蹴って後ろに下がり印を結んだ、瞬間。 すぐ近くにあった水球の中にいる小南が大爆発を起こした。 鮮やかな花びらが爆発に呑まれて散り散りになる。離れたところで形を成したアリスは胸を撫で下ろした。 「本当、油断も隙もない。そろそろ自来也の所に行きたいのだけれどね」 「敬称はもういいのか」 「一人で突っ走って無茶するお馬鹿さんには必要なくってよ。帰ってから綱手姫に大目玉を喰らえばいいんだわ」 「里へは帰れない・・・自来也先生も、貴方も」 抑揚のない声で告げて手を向ける小南。はらりはらりと舞う白い紙にアリスは小さく息を吐いた。 「・・・ここは暗いわね」 さり気無く体勢を変えて後ろに回した右腕の袖から何かが落ちる。怪訝そうに様子を窺う小南に口角を上げるだけの笑みを見せると腕で目元を覆った。次の瞬間目を刺すような閃光が走って辺りを白く染め上げる。「しまった」と、強い光に当てられて失明を起こした小南が小さく呻いた。 視力を取り戻さないうちにと起爆札をばら撒いてその場から離れるアリス。 その後、小南の追跡や妨害はなかった。 ──紙分身がやられたわ ──そうか、分かった [ back ] |