水音が響く塔と塔に挟まれた薄暗い路地。自来也と口寄せのガマケンは無限に増殖する犬から逃れるためにそこへ入り込んでいた。 「これじゃキリがないのォ」 「頑張ってはいるんですがね・・・」 「叩いても叩いても無尽蔵に分裂するんじゃ努力のし甲斐がないのォ」 はぁ、と溜め息を吐く自来也は不意に何者かの気配を感じて上を見上げる。近くに降りてきたそれに一瞬身構えるが、見覚えのある顔に驚いた表情になった。 「ご機嫌麗しく・・・は、ないようね」 「アリスじゃないか。なんだってこんなところに」 「綱手姫が随分と心配していたわよ。まさかもう戦闘になっているだなんて」 「ったく・・・」 里を出る前に見た元チームメイトの表情を思い出して自来也が呆れたように息を吐く。しかしすぐそこに聞こえた低い獣の唸り声に再び顔を険しくさせて辺りを見渡した。アリスも眉を寄せて自来也の視線を追えば二頭の犬が目に入る。 「増幅口寄せ、と、輪廻眼・・・。これはまた奇抜な口寄せ動物だこと・・・」 「輪廻眼を知っているのか。いやはや、お前の知識量と情報収取能力にはいつも驚かされる」 「冗談を言っている場合ではないでしょうに。・・・まぁわたくしはペインに会ったことがあるから。少し調べてみただけでそう沢山の事を知っているわけではないわ」 分裂する犬から視線を外さずに会話する二人。 睨み合って睨み合って、先に動いたのは犬の方だった。風を切って襲い掛かってくる口寄せに自来也が蝦蟇から飛び上がって数頭を蹴り倒し、一方のアリスも土遁の術で周囲に迫った犬達を串刺しにする。 一瞬動きは止まったがすぐに刺されたところから裂けるように分裂する口寄せの犬達。 「キリがないわね、本当。どうするの自来也殿。貴方の口寄せももう傷だらけじゃない」 「自分、不器用ですから・・・」 「それもそうだのォ」 ガマケンの頭に戻ってきた自来也が「二大仙人様を呼んでいる暇はないか」と今まで合わせていた両の手を解く。お手上げだと、掌を上げて肩を竦めるというお決まりのポーズをする姿にアリスが困った顔になるがしかし。 「心配いらん!妙木山の大蝦蟇にかかりゃあ、これくらい一飲みよ!!」 啖呵を切って手をついた蝦蟇の頭に術式が広がり、周囲の犬を巻き込んでその場から消え去った。 ────────── 姿を消すカメレオンの口の中で戦況を窺っていたペインは自来也達が消えたことに気付いて目を細めた。 「消えた・・・犬諸共。一先ず逃げたか」 ついでに、自来也側に一人加わっていた。口寄せではない・・・加勢か。 思考を巡らせていたその時、後ろから気配がして、そして。 「逃げとりゃせん!!」 振り返ったそこには、嘗て師を仰いだ自来也と見覚えのある鮮やかな金色があった。 「長門、まだ詰めが甘いのォ!後ろを取られるとはな!!」 飛び降りてきた蝦蟇が持っていた刺又で逃げるカメレオンを捕らえる。が、奇声を上げたと思えば煙を撒いて消えた。 「何・・・!?お前も影分身か!」 「自来也!八時の方向!」 「口寄せ!」 敬称を言う時間も惜しいと叫ぶように言ったアリスに自来也が振り返るが、こちらが動く前に口寄せされた歪な姿の巨大な鳥が突っ込んでくる。自来也に呼ばれたアリスが印を組めば、一直線に迫る鳥に吹き出した暴風がぶつかった。が、身体を縮めて風の抵抗を少なくした体勢で突っ込んでくる。 一瞬後には大皿を構えて衝撃に備えたガマケンの体が大きく飛ばされた。 先に飛び降りたアリスと自来也が体を起こそうとしている蝦蟇を振り返る。 「ガマケンさん!大丈夫か!」 「はい、何とか・・・」 「流石にあのスピードは殺しきれないわ・・・相殺するよりも軌道を逸らす方が賢いかもしれない」 そう話している間にもUターンして戻ってきた鳥が、今度は二人に向かって飛んでくる。自来也が焦ったように顔を歪めた。 「おい、また来たぞ!」 「・・・ふん、空を飛ぶのは厄介だから、やはりさっさと片付ける。あのスピードを利用するわ」 バチバチとアリスの掌で雷が弾ける。無駄に術を使わずとも心臓を貫いてしまえばそれで終わりだ。あのスピードでは急な方向転換は出来ないだろうからきっと一撃で片が付く。突っ込んでくる巨体は心臓を殺ってからギリギリで躱せばいい。 弾ける雷を槍状に形態変化させようと腕を突き出した──その瞬間。 「──っ、紙、手裏剣…!?」 横から飛んできた何かに反応して飛びのいたアリスは、立っていた所に刺さっていた紙手裏剣を見て目を見張った。顔を上げれば翼に見立てた無数の紙を纏う小南の姿がある。 「貴方の相手は私がする」 「・・・わたくしは自来也の応援に来たのだけれどね」 迫りくる鳥から逃げるように駆け出した自来也を横目にアリスが呟く。一瞬付いて行くことも考えたがどうせ追いつかれるだろう。無駄なチャクラは使いたくない。 何処か遠くで爆発音が鳴り響く中、二人は向かい合った。 「最後にもう一度言う。アリス、暁に協力しなさい。私もペインも貴方の実力を買っているわ。・・・貴方ならペインの考えを理解できるでしょう」 「確かに理解は出来る。けれど、わたくしは世界平和には興味ないの。守るのは自国の人間だけ・・・確実に手の届く範囲に限定されるわ。それ以外は生きようが死のうが知ったことではない」 「意外と排他的ね」 「思想自体が遺伝子に組み込まれているようなものだからね。だからペインの考えは理解できるけれど、それに沿うことは出来ないわ。わたくしにはわたくしの──代々より継がれる家の理念がある」 しんと静まり返る二人だけの空間。そこで睨み合うようにしていたアリスと小南は、一瞬の後、動き出した。 [ back ] |