巡り会いてV | ナノ

布団に身を起こす年配の女性が、ものすごい勢いでどんぶりをかき込んでいた。それに伴って皺を刻んだ色の悪い肌は徐々に血色を取り戻し瑞々しさをたたえていく。

「綱手姫・・・そんなに急いで食べなくても食事は逃げないわよ」

余りの勢いに、駆けつけたアリスは少し引き気味に言うが全く聞く耳を持たない。
逃げる逃げない云々ではなくエネルギーを補給しなければ老女の姿から脱することが出来ないのだ。
食べるというより呑み込んでいると言った方が正しい表現ではあるが、徐々に徐々に、見慣れた綱手の姿に近付いていくのを見てアリスとシズネは呆れ半分嬉しさ半分の表情を浮かべていた。



それから二時間も三時間も経った頃、アリスから五影会談の話を聞きながら食べ続けていた綱手の目の前には重ねられた空の大きなどんぶりが山をつくっていた。もう片付けた分も考えると大よそ人とは思えない程の量を平らげている。
それでも尚食べ続けている綱手の腹は如何程か。

「あの、綱手姫、そろそろ落ち着かないかしら。せめてもっとゆっくり・・・」
「まだまだ足りん! チャクラも元には戻ってない!! もっと食い物を持って来い! 気を抜くとババアに戻っちまう!!」
「火影室の食材はもう底をつきました・・・。今から食材を仕入れてきますので少し食休みをしてはいかがですか?」

苦笑いを浮かべて言うシズネだが、フと綱手の視線が腕の中のトントンに向いていることに気付いて顔色を変えた。この子は駄目だと、必死に庇うシズネに綱手は何を言っていると零して部屋の入口にいる人物に改めて目を向ける。
振り返ったシズネとアリスはその人物──カカシを認めてホッと肩の力を抜いた。

「お元気そうでよかったです。危うくオレが火影になるところでしたよ・・・。ま、オレは火影って柄じゃないし、今のこの状況下では顔の利く綱手様が火影でいてくれないとね」
「アリスから話は聞いている。しかし忍連合とは驚いたな・・・土影や雷影もそうだが、アリスが賛成するとは思わなかった。
 ・・・また、戦争か。うちはの因果が忍全てを苛む事になるとはな」

少し憂いた表情の綱手は口元を手の甲で拭うとキッと顔を上げる。
食後すぐに会議を開くと、戦争の準備だと、強く言った。

──────────

「これより戦争に向けた作戦会議を始める」

広い会議室にすっかり元の姿に戻った綱手の声が響く。その両隣にはそれぞれ二人掛けの机が設置されていて、コハルとホムラ、アリスと三代目が腰かけている。

「まずは忍具・食料の備蓄を始めよ。忍を戦闘部隊と支援部隊に二分割して戦闘部隊の小隊の組み方を検討するのじゃ。全ての忍のリストをここへ」

コハルの指示があり、担当の者が次々にリストを持って前に出てきた。流石に“全て”とあってその数は山になる程多い。これが五大国分ともなればそれこそ途方もない数値となるのだろう。
本当に“うちはマダラ”が相手ならばこの数でも不安を覚えるが。

リストが手渡されていく様子を見ながらさり気無く出席している忍達を見渡してみれば皆一様に張りつめた顔をしていた。いつもは気だるげだったり面倒くさそうな表情を浮かべているカカシやシカマルでさえもだ。

やはり多少無理してでもあの場でマダラを殺しておくべきだったかと少し後悔した──ところでリストの収集が終わったらしい。「先にアリスから話しておくことがある」と綱手の声が聞こえて顔を上げた。

「──今回の戦争、わたくしは後方支援に回る。戦場に出る事はないからそれを頭に入れておいて」

がやがやと動揺を含んだ波紋が広がる。戦力の大部分を担うはずのアリスが戦場に出ないなど、彼女の性格から考えても想定外らしい。顔を見合わせてどういうことだと憶測を飛び交わせる忍達にアリスも苦い顔になった。
自分だって好きで後方支援に引っ込むわけではない。最前線に立って一番に突っ込んでいく覚悟だったのに。

マダラに言われたことを思い出したのか怒りと悔しさにギリ、と歯を噛むアリス。忍達はその顔に察するところがあったらしく何とも言えない表情で静まり返った。
触らぬ神に祟りなし、である。


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