事の発端は第八班紅班の一員・油女シノの証言である。 「アリスがキスしていた」 よく晴れた絶好の修行日和。本戦に出場するシノのため演習場に集まった紅達は、まさかの情報に動きを止めた。 「・・・・・は?」 間抜けな声を出すキバにポカンとしているヒナタ。口元に手を添えて信じられないといった表情をしている紅。 そんな中、赤丸がズボンの裾を引っ張ったことでキバはハッとなった。 「アリスがっ!キッ、キキキキスッ!してただと!?」 「キバ、どもり過ぎだ」 「いやっ、だって、ちょ・・・!アイツだぜ!?あの人を褒める事すら珍しいアイツが!キッ、キス!俺なんて手ェすら繋いだことねェってのに!あり得ねェだろぉ──!!」 「キバ君、お、落ち着いて・・・」 「落ち着いてられるか!誰だ・・・相手は誰だ!シノ!」 「ちょっとキバ、シノが苦しそうよ。止めなさい」 シノの胸ぐらを掴んでガクガクと揺さぶるキバを紅が止める。 「うあぁぁぁ」と頭を抱えている様子を見るに、アリスがキスをしたという情報は彼に相当な衝撃を与えたようだ(“好きな子が”という事と“あのアリスが”という事の二重の意味で)。 「そ、それでシノ君、相手の男の子は誰だったの?」 「・・・俺は相手が男だとは一言も言ってないが」 「なに!?ま、まさかアイツ・・・!」 「いや、(体系的に)男だ」 「、はー。驚かせんなよな・・・」 脱力したキバは気を取り直すようにして「んで」と切り出した。 「結局誰なんだよ」 「分からない」 「あ?」 「なぜなら見たことのない男だったからだ」 その一言で再び固まる三人。そしていきなり走り出すキバ。と、追いかける赤丸。 演習場から出て行き、どこかへ去っていったと思ったら遠吠えが聞こえてきた。・・・人の。 次いで響いた犬の遠吠えでそれらがキバと赤丸だと分かる。 「キバ君・・・」 「全く、なにやってるんだか」 呆れながらも声がした方へ足を進めると、そこにはキバと共にアスマ率いる第十班がいた。 呆然としているチョウジとシカマルとアスマ、顔を輝かせているイノ。 近付いていくと興奮してキバに詰め寄るイノの声が聞こえてきた。 「ねぇホントにホントなの!?アリスがキスしたって!!あーもう!相手が分からないってどういうことよ!!あのアリスが!あのアリスがキスよ!!なにがどうなったらそうなるのかスッゴイ気になる!」 「イ、イノちゃん」 「あ、ヒナタ達じゃない!キバと同じ班なら聞いたわよね!アリスの彼氏って誰だと思う!?」 「かっかかか彼氏っ?」 「情報を提供したのは俺なんだが・・・」 「(シノスルー)だってそうでしょ!あんな性格してるアリスがそういう仲以外の人とあんなことやこんなことするわけないでしょ!?」 色々な感情が渦巻きカオスとなった中、アスマがパンパンと手を叩いて注目を集めた。 「まぁ落ち着け。んなに気になるなら本人に聞けばいいじゃねェか」 「それもそうね!ほら、シカマル、チョウジ、固まってないでアリス探すわよ!」 「あー・・・オレはパ 「いいから行く!」はぁ・・・」 「でも本当に本当なのかな・・・」 「だからそれを調べに行くんでしょ!」 「おい待てよ!俺も行くぜ!」 イノとキバを筆頭に探し始める一同。 だがしかし・・・ 「探すと言ってもどこを探すの?」 「そうだな・・・可能性としては演習場じゃねェか?」 紅の問いにアスマがタバコの煙を吹きながら答える。シカマルもそれに頷いた。 「サクラ以外は本戦に出場だしな。・・・まぁアイツ等が一緒に修行しているかは知らねぇが」 「取り敢えず行くわよっ」 ────────── ──────── ────── 「やったぁ!いきなりビンゴ!」 一番近い演習場へ向かうと運良く第七班がいた。 積極的にサスケに向かうナルト、適度に打ち込むサクラ、木陰で読書中のアリスを気にしながらも二人の相手をするサスケ、そしてそれらを眺めているカカシ(イチャパラ装備)。 あの様子だと、 ナルトが修行のため演習場へ向かう ↓ サスケを発見 ↓ 道連れ ↓ 何らかの理由で外出中だったサクラが2人を発見 ↓ サスケについて行く形で参加 ↓ 恐らくこの辺でフラリとカカシ先生登場 ↓ なんやかんやでついて行く ↓ 図書館帰りのアリスと遭遇 ↓ スルースキルを発動したけどナルトが確保 ↓ 連行 ↓ 演習場到着 といった感じだろう。 「・・・ん?」 ふとカカシが振り返った。目に入った彼等に少々驚いた表情をする。 「あれまぁ、皆さんお揃いで。どしたの」 カカシの言葉で七班の視線が集まった。アスマが頭をかきながら口を開く。 「修行中に悪ィな。ちょっと気にな 「「ちょっとアリスに用事が!」」」 「・・・わたくしに?」 首を傾げるアリス。イノとキバの勢いに引き気味だ。 「なぁアリス、お前にそのっ、あー、あれだ、あー・・・」 「なんなんだってばよ」 「アンタ達意外と落ち着いてんのねー。もっと大変なことになってると思ったのに」 イノが怪訝な表情で息を吐いた。 「あぁもうっ、いきなり来たと思ったら何?ケンカ売ってるの!?」 「悪いけど今回はデコリンに構ってる暇なんてないの」 「なんですって!?」 「いいからアンタは黙ってなさい!アタシ達はアリスに聞きたいことがあるのよ!」 「ちょっとなんなのよその言い方!」 「仕方ないじゃない!アリスに彼氏が出来たって聞いて驚いてんだから!」 「はぁ!?そんなこと、で・・・・・、「「「は?」」」 【彼氏】女性が男性を想い、相手もその気持ちを受け止めた状態の時にいう間柄の名称。なお、そうなるまでにはいくつもの戦いがあり、中には奇声を発するなど奇行に走る者も少なからず出てくる。 (アカデミーにて女の子達の恋愛戦争(サスケ関連)を見てきたアリスの脳内Wiki参照) ピシリと固まった空気。既に興味を本へ戻していたアリスもページをめくる途中で手を止めていた。 「・・・・・なん、だと」 心なしか青い顔をしたサスケが小さく呟く。視線が集まったアリスは居心地が悪そうに眉を顰めた。 「あれ?もしかして知らなかったの?」 「は、初耳よ!アリスにっ、アリスに彼氏なんて!」 「そうだそうだ!アリスも水臭ェってばよ!」 「相手は誰だっ。この様子じゃここにいる奴等じゃねぇだろ」 「・・・そのようなこと言われても、わたくしだって初耳よ」 少し呆れたように言うアリス。ナルト達が更に詰め寄ろうとしたところでカカシが口を開いた。 「はーい、ちょっとストップね」 「なんだってばよカカシ先生!」 「いやいや、少しカオスになってたからさ。一旦整理しようか」 「アリスの交際疑惑だけど、まずはその真偽を・・・はい、本人からどうぞ」 「あり得ないわ」 「という事です。では次・・・何故そんな話が出たのか。はい、未だ落ち着きのないイノとキバからどうぞ」 「そりゃ・・・」 「ねぇ・・・?」 「「アリスがキスしてたから」」 「「「・・・・・、」」」 「・・・あらま」 「・・・?」 「「「・・・はあぁぁ──!?」」」 短いとも長いともつかない沈黙の後、ナルト達三人の悲鳴のような叫び声が上がった。
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