「だが、安易に強要することは出来ん。無闇に攻撃して周りを巻き込む自爆技などを使われては困る」 まぁ確かに暁に入って木ノ葉を敵に回すくらいならば此処にいる奴等のなるべく多くを巻き添えにして消え去ってやりたいけれど。 でも、 「そんなこと、しないわよ」 帰ると約束したのだから。 サスケには術の考案を課した。我愛羅には砂の里へ行くと言った。サクラ達とは中忍になったら忍服を新調しようという話が上がっている。 「まだ死ぬわけにはいかないもの」 湯呑に入っているお茶を睨むように見ながら、そう口にした。 ──不意にその視界に包装されたクッキーが滑り込む。それを持つ白くて細い手を目で辿り顔を上げると暁の紅一点が淡く微笑んでいた。 「ごめんなさい、ペインが少し事を急いてしまったわね。甘いものでも食べて気持ちを落ち着かせましょう?」 「え、えぇ・・・ありがとう」 素直に礼を言ってクッキーを手に取る。一口大に割って口に運んで咀嚼すれば程良い甘さと芳ばしい香りがフワリと広がった。 「美味しいわ、とても」 「フフッ、所用で出かけた時に買ってみたのよ。気に入ってもらえて良かったわ」 嫋やかに微笑む二人はとても腕の立つ忍と思えない。 「良い眺めだわー」 「変なこと考えていたら塵にするわよ」 ニヤニヤしている飛段に釘を刺す。慌てて否定する彼の額に紙手裏剣を見舞った小南は、気を取り直すようにお茶を一口飲んだ。 「大丈夫なの?」 「えぇ。あれくらいやらないと反省しないもの」 「アイツの辞書に反省という言葉が載っているか分からんがな」 「・・・確かにそうね」 呆れたように溜め息を吐く角都。共にいる時間が長いぶん苦労しているのだろう。少しだけ同乗する。 「・・・それはそうとアリス、何故暁に入ることをそこまで拒むの?やはり犯罪者になるのがイヤだから?」 小南の質問に顔を顰めたアリスだが、彼女の表情から何の含みもない純粋な問いだと判断して嫌悪感を払った。 「もちろん犯罪者なんて不名誉なレッテルを貼られるのは避けたいわ。でもそれだけではないのよ」 「里のためか」 「えぇ、そうよイタチ。多くの仲間がいるし、一生かかっても返しきれない大きな恩があるもの」 「そう・・・。貴方がこちら側の人間なら何の打算もなく仲良くできたのに」 「それはわたくしのセリフでもあるわ。貴方が敵だなんてとても残念」 フゥ、と二人が溜め息を吐く。年齢は一回り以上違うが随分と話が合うようだ。 「んなに残念なら暁入っちまえよなァ」 「俺は別に入んなくても良いと思うぜ」 「サソリさん、それは貴方の都合でしょう・・・」 「アリスは暁に入れる。確実に取り込むまでは警戒を怠るな」 「本人の前でそんな話されても困るわ・・・。それにしても」 ここでアリスの双眸が真剣みを帯びた。 「いくら魔法を警戒しているからと言っても、ここまで何もないのは少々不自然ではなくって?」 「それは俺も思っていたところだ。デイダラの時はかなり手荒かったからな・・・。いくら何でも自由すぎる」 アリスに同意してペインを訝しがるサソリ。その様子を見てペインは小さく溜め息を吐いた。 「こっちにも色々と都合がある」 「・・・まぁいいわ。今の課題はあの粘着男だもの」 「随分と嫌われてますね、彼」 「嫌にもなるわよ。あれだけ拒否しているのに全く諦めないんだから。サソリ手製の装飾品型暗器も何だかんだ全て回避されてしまうし・・・。部屋に入ってこられないのが唯一の救いだわ。貴方方と生活を共にして一番役に立っているのが結界というのも可笑しな話ね」 アリスはそう言ってお茶を一口飲む。 「いっそのこと必要な物をそろえて部屋に籠城してしまおうかしら」 「お!じゃあ俺の部屋来いよ!退屈させねェぜ?」 「何故避難先が貴方の部屋なのよ。自分の部屋で結構」 「おい、お前が籠もっちまったら任務のねぇ俺が暇になるだろ。俺んとこにしとけ」 「貴方の都合なんて知らないわよ。わざわざ殺されに行くわけないわ」 呆れたように二人の誘いを断るアリス。鬼鮫がそれに苦笑いを零した。 「お二方は自分の欲望に素直ですねぇ」 「全くだわ。・・・アリス、私が言うのも何だけど気を付けて」 “気を付けて” 彼女は険しい顔でそう言った。その言葉は誰に対してだろうか。 飛段かサソリかデイダラか、それとも・・・。敵ではあるが気の合う少女へ、ささやかな警告。 アリスは首を傾げながらも小南に礼を言ってトビとデイダラが帰ってこないうちに部屋へ戻っていった。 ────────── 「ただいま戻りましたー!」 アリスが席を立って数分後、出ていく前よりも焦げたコートを羽織ったトビとまだ不貞腐れた様子のデイダラが帰ってきた。 「あれれ?アリスちゃんいなくなってるじゃないですか!」 「アイツならさっき部屋に戻った」 「えぇ〜!まだ装束渡してないのに・・・。デイダラさんのせいッスよ!」 「テメェがオイラの芸術バカにするからだろ!うん!」 ゴツンと音を立ててデイダラがトビの頭を殴る。そして痛いと言いながら蹲るトビを鼻で笑って部屋へ戻っていった。 「もう、デイダラさんったら短気なんだからぁ」 「どう考えても貴方が悪いでしょう、トビ」 「んで?結局その装束どうすんだよ。アイツお前がしつこ過ぎるせいで部屋に籠もるとか言ってんぞ」 「結界あるから入れねェんだよなぁ」 「うへ〜、マジっすか?部屋に籠もっちゃうかー・・・あの結界、忍術じゃないから解けないんスよね。厄介だなぁ」 顎に手を添えて少しだけ考える素振りをする。 「んー・・・ま、何とかなるっしょ!」 「随分と楽観的だね」 「イツモノ事ダロ」 「何とかなるも何も結界があるんじゃどうしようもねぇだろうが」 「サソリさん、僕だって暁メンバーの候補ッスよ?それなりに能力だって持ってるんですから心配ご無用ッス!」 「わかったから黙れ。心配なんざしてねぇしそのテンションうぜぇ」 「信じてないッスね!?ぜーったい渡しますから見ててくださいよ!」 「・・・・・」 ぎゃいぎゃいと騒いでいるトビを、イタチは眉を顰めて見ていた。 [ back ] |