15-2 大人になると時が過ぎるのが早い早い。 皆さんクリスマスやお正月はどうお過ごしだっただろうか。 私はそれはもう賑やかに過ごした。 言わずもがな、見目だけは麗しい奴らとの季節イベント(笑)である。 ちなみにクリスマスは御馳走を持って乗り込まれ、トナカイの角のカチューシャとサンタ服と髭眼鏡を着用した陸奥守から、ケタケタ笑うピエロの人形を貰った。超絶いらねぇ。 正月はおせち料理と酒を持って乗り込まれ、昼間から飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。 ちなみにタイキックが流行ってた。こいつら昨日ガキ使見たな。 で、そんな一月とついでに二月も飛ぶように過ぎたのだが。 年末年始の様子からお察しの通り、奴らはそれはもう遠慮なく頻繁に押しかけてくるようになった。 今剣が私と再会したことをバラさなかった理由がよくよく分かった。 「ねー主ー、いつになったら審神者になってくれるの?給料良いし三食おやつ付きだよ絶対なったほうがいいって。というか俺のためにお願いだから審神者になって じゃなきゃ俺もう無理立ち直れない」 知らんがな。 仕事帰りで今日も今日とて乗り込まれた部屋で、夜ご飯を食べながら加州の泣き言を聞き流す。 何故こんなにも訪問頻度が高くて私も家に入れてしまっているかというと、この時代と本丸をつないでいる場所が粟田口がいるお隣さんの部屋にあるからだ。 まぁつまり拠点がそこなものだから毎日私が帰る頃になると奴らは部屋から出てきて一緒にこっちの部屋についてくるのである。 あー、なんかもう奴らが家にいることが日常になっちゃってるよ。 奴らに会う前の日常カムバック。 ぼんやりとそんなことを考えていると、何気なくつけていたテレビで火災のニュースが流れているのが目に入った。 ──夕方から続いている火災は未だ火の勢いが衰えず、消防車両などが三十台以上出動して懸命の消火活動が続いています。 「よく燃えていますね。あの日を思い出します」 気だるげにテーブルに肘をついてテレビを眺めている宗三が眉をひそめて言う。 同じく家にいた薬研や一期一振も表情が曇っているが、火事に良い思い出がないのだろうか。 しかしまぁ結構シリアスな雰囲気なところ悪いのだけど、宗三が手に持っているカップアイスは私が週末に食べるためにストックしてある有名メーカーのものなんですよ。 なんでお前らはいつもいつも狙ったようにちょっとお高いものを掻っ攫っていくんですかね。 ジトッとした目を向けていると、こちらに気付いて顔を向けた宗三が何か納得したように「あぁ」と呟いて我が家の冷蔵庫を指さした。 「あいす ならまだ冷蔵庫に入っていますよ。食べたければどうぞ」 「いや入ってますよっていうかここ私の家」 むしろ許可とらなきゃいけないのはお前だからな。 じっとりと睨むもどこ吹く風の宗三にこめかみを引き攣らせたところで、不意に加州が「あ」と声を上げた。 何だろうかと目を向けると彼はテレビを見ている。 「暗くて気付かなかったけど俺ここ知ってる。主を探しに行ったときに近くまで行ったところだ」 「うん?あぁ、火事の・・・本当だ、市内だね」 画面の端に書かれていた住所の一部を見て、意外と近いなーなんて呑気に考える。 どこらへんだろう。知ってるところかな。 少し気になって場所を特定できないかとジッと画面を見ながら考える。 ──考えていた、のだが。 カランカラン 軽快な音をたてて持っていた箸が転がった。 テレビを見ていた彼らがこちらを振り向くが、箸を拾うこともなく固まったままの私を不審に思ったらしい。 大和守が目の前でヒラヒラと手を振った。 「どうしたの?主?」 「あ、え・・・いや・・・あの、あそこ、わたし、の、かいしゃ」 呆然とテレビを見たまま拙い言葉が転がる。 そう、私が勤めている会社が入ってるビル。 私の言葉に驚いた声を上げた彼らが再びテレビに目を戻せば、ヘリから撮られているであろう既に半分以上炎に包まれているビルが映っている。 「・・・主の、職場?」 「うん・・・あれもうダメだぁ・・・会社が入ってる階、燃え散らかしてるよ・・・」 すっかり炎に包まれて既にもっと上まで火の手が回っている様子に、椅子の背にもたれて手で顔を覆った。 向かいに座っていた宗三も流石に嫌味を言うことなく憐みの目を向けている。 「・・・まぁ良かったじゃないですか。ほら、これであなたも籠の鳥ではなくなりましたよ」 「お前それ慰めてるつもりか。人間は籠から出て万が一次の籠が見つからなかったら貧困一直線なんだよふざけんな」 しかしなんであのビルで火災が起きているんだ。 放火か?犯人がいたら名乗り出ろお前の頭も燃え散らかしてやる。 ──なお犯人はすでに拘束されており、動機について「交際相手に一方的に別れを告げられた怒りで火をつけた」と犯行を認めています。 「はあぁ!?別れ話で放火すんな炎上させるのは恋心だけにしとけよ!」 「身勝手なやつだよね。まぁ主がいる間に火が上がらなくて良かったけどさ」 犯人に怒りを燃やす私とは反対に、彼等は落ち着きを取り戻してテレビを見ている。 画面の中ではヘリコプターからの映像が流れていて見慣れたビルが炎上している様子や消防の対応、被害者の有無などが中継されている。 「いや私どうなんの?明日も仕事なのに職場が消し炭になったんだけど」 どうしよう、と顔を引き攣らせていると不意に廊下の向こうから玄関のドアが開いた音がした。 帰ってきたときに私に続けて入ってきた加州達、鍵かけてなかったななんて思っているとリビングのドアを開けて髭切と膝丸が入ってくる。 「遅くなってすまない」 「お疲れ様です、お二人とも」 「ただいま。あ、その火事まだ続いていたんだね」 「なんだ旦那方、知ってるのか?」 未だショック状態の私を置いて彼らが会話を始める。 聞いていると、どうやら二人は少し前に現場にいたらしい。 たまたま居合わせたため一応遡行軍の仕業ではないか確認していたそうだ。 「それで?彼女はどうしたのかな。あまり穏やかじゃないように見えるけど」 「火事になったあの建物、主の職場だったんだって」 私が平常心ではないことを察して大和守が簡潔に話すと、二人はそれぞれ驚いた声を零した。 次いでテレビと私に順に目をやって複雑そうな表情を浮かべる。 「お前、いくら仕事に不満があったからといって、やりすぎだろう・・・」 「話なら聞いたのにねぇ」 「言っておくけど私犯人じゃないからな?」 盛大に落ち込んでる被害者への追撃が容赦ない。 うなだれて大きなため息をついたところで、スマホが着信を告げた。 彼等の目が集まるなか画面を見れば会社の上司の名前。あぁ、火事の件ですね分かってます。 [ back ] |