14-4 場所は変わってマンションの一室。 古風な衣服を着て刀を持っている今剣をそのまま外に置いておくわけにもいかないため、荷物を回収してとりあえず私の部屋に招くことにした。 私は混乱したままだったし彼も何も言わないので重い空気が続く。 ようやく私が口を開いたのは部屋に入って荷物を置いて、二人分のお茶を用意して食卓に腰を下ろしたころだった。 「・・・ええっと。じゃあまず確認だけど、君は私が本丸にいた時に知り合った今剣でいいのかな?」 「はい。いれかわったあるじさまの ひとふりめです」 まじかぁ・・・。 いまだにドキドキしている心を落ち着かせるためにお茶を一口飲む。 しかしなんで私があの時入れ替わっていた人だとわかったんだろう。 誇張でも謙遜でもなく、本当に平々凡々だから特定するにはかなり難しいと思うんだけど。 そんな疑問を話の流れで振ってみると今剣は背筋を伸ばして得意げな表情になった。 「みなさんに はなしを きいたのです」 彼曰く、私と知り合いの刀剣が多いことが分かったからいろいろと話を聞いたと。 それでもって何度か会っている者もいるのに誰も私の名前を知らなかったからこれは怪しいぞと思ったと。 あと髪を乱すような遠慮ない頭のなで方が一緒だったと。 「なにより、はなしかたが あるじさまでした!」 「はぁ、話し方・・・。私そんなに特徴ある話し方してるかな」 訛りとか口癖を指摘されたことはないんだけどなぁ。 「いえ、そうではなくて。ぼくたちが わかることばを つかってくれていました」 「あ〜そういうこと。確かに横文字はなるべく使わないようにしてたかも」 「たくさんの ひとと はなしましたけど、そういう はなしかたを してくれるひとは あなただけでしたから」 彼女との会話だけは意味が分からなくなることも返答に困ることもなく、色々な意味でとても話しやすかったのが、どの刀剣男士にとってもすごく印象的だったから。 「ぜったいに あなたが あるじさまだと おもったんです」 「・・・なんというか、ずっと探させちゃってすみませんでした」 私が初めから彼らのことを知っていると伝えてちゃんと話を聞いてたら、何ヶ月も早く終わってたってことだもんね。 すれ違いってコワーイ。 「すぎたことは しかたないですし、みつかったので よしとします。それに ぼくが いちばんのり でしたし」 「うーん、本当ごめん。・・・でもなんで私を探してたの?私が入れ替わってた女の子は・・・もしかして、前に発表された本丸運営の透明化計画に引っかかった?」 「そのとおりです」 私と彼女の中身が元に戻った後。当然審神者の集まりに行っていない彼女は透明化計画のことを知らない。 それで入れ替わっていた時のストレスも相まって再び好き勝手始めてしまったため、管狐が配属されて早々にブラック認定されて審神者解任の流れになってしまったらしい。 おそらく何が何だか状況が呑み込めないまま連れていかれてしまったであろう彼女には少しばかり同情しないこともない。 ざまァみろ。 「・・・それで、どうしますか」 「うん?何が?」 「ぼくたちは せいしきなさにわに なってもらうために あなたを さがしていました」 「あー・・・なるほど」 前にやっていたから分かるけど審神者は住み込みの正社員で公務員だ。 つまり今の仕事を辞めて新たに審神者業に就くという、いわゆる転職をしないといけない。 「確かに君らのことは気になってたけどね・・・でも私、今の生活に満足してるからなぁ」 「へんじは いそぎません。あなたの こんごの じんせいを さゆうしますから」 「もし私が審神者にならないって言ったら、あの本丸はどうなるの?」 「それは・・・わかりません」 もし政府が選出した審神者を受け入れることができたら存続できる。が、それが無理なら解体かもしれない。 彼はそう言った。 さて困った。どうしたものか。 「・・・わかった。ちゃんと考えるから時間をちょうだい」 「もちろんです。それでは じかんもじかんですし そろそろ おいとま しますね」 椅子から降りた今剣は空になったコップをキッチンに置いてから玄関に向かう。 私も同じように戻して彼の後を追った。 「平日は仕事があるから夜しか家にいないけど、休日は家にいることが多いから。気が向いたらいつでもおいで」 「はい!また あそびに きますね!」 最後は明るく返事をして帰っていった今剣。 扉が閉まって数秒で、大きなため息が出た。 ああ、本当にどうしよう。 [ back ] |