捜索記 | ナノ

14-2

もうどうにでもなれと色々諦めて無になった私をよそに、目の前の二人は和やかに談笑を始めてしまった。

「──そういえば髭切殿、なぜこちらに?確か今日の捜索範囲は私たちの家の近くでは」
「うーん・・・そうなんだけど、外が暑くて電車に避難したらいつの間にかここにいたんだよねぇ。なんでだろう」

そりゃ電車は動くからね!で、この駅で降りたからだね!

ボケが渋滞しすぎて突っ込みが追い付かないんですけどどうしたもんですかね。
一期一振も「大変でしたね」なんて言ってないで突っ込んで。

どう対応したらいいかと真剣に考えこんでいたのだが、答えが出る前に髭切が「ねぇ君」
こちらを振り向いた。

「子供たちを探しに行くんだろう?彼は僕がついてるから行ってきていいよ」
「いやアンタが一番心配なんだよ。弟丸はどうした」
「弟丸・・・?あぁ、日の丸のこと?」

アイツはいつの間に日本を背負ったんだ。

「髭切殿、"膝丸"です」
「そうそう、膝丸だ。膝丸は・・・どこかにいるんじゃないかな、うん」

どこかじゃなくて早くこの二人を回収しに来てください。
髭切いるところに膝丸あり、って印象だからしばらくすれば見つけてくれるかもしれないけど、それまで動けないのも困る──いやもうこれは彼らの問題だからと割り切って私は帰るか?
そんな考えが浮かんだところで。

「──おっ、ここにいたのか。相変わらずここは広くて人が多いな」

噂をすれば影。ということわざ通り、こちらに投げかけられた声に今度こそ助かったと振り返った。

鶴丸国永がいた。

「問題児追加・・・!!」

再び頭を抱えた私に三人が首をかしげた。
そして鶴丸は一瞬だけ考える様子を見せて、すぐに思い出したように顔を明るくさせる。

「あぁ、見覚えがあると思ったら君か!」
「うわ覚えられてる・・・何でここにいるんですか」

じっとりとした目を彼に向けて尋ねれば、どうやら彼曰く髭切を追いかけてきたらしい。
しかしこの人の多さに見失ってしまい探していたとのこと。
あらかた鶴丸の話を聞いたところで、今度は彼から何をしていたのか質問が来た。

「僕もさっき来たんだけど、彼女、粟田口の子らを迎えに行きたいんだって。でも一期一振を一人にするのは不安だからって言ってて、それなら僕がついてるから行っておいでって話していたところ」

おい髭切、言っちゃってる。一期一振って言っちゃってる。

「ほう。それなら俺は彼女についていくとするか。これだけ人が多いと不届き者もいるかもしれないしな。それに子供達を探すなら人手があるほうがいいだろう」
「人手は欲しいけど貴方はお呼びじゃないよぉ・・・面倒事が起こる未来しか見えない・・・いやでも三人をここに置いていくわけにも・・・」

戻ってきたら全員いなくなってる可能性が高い。
じゃあ三人とも連れていくか?・・・いや、それこそ人波に呑まれて散り散りになるのが目に見えてる。

「八方ふさがりだ・・・」
「そう悲観的になることないさ。大船に乗ったつもりで行くといい」
「泥船の間違いだろ」

誰か頼れる人が来るまで待つか、それとも子供たちが自力で帰ってくるのを待つか・・・。
そういえば、移動してしまったけど一期一振はビルの一階で待っていたというのだから一旦そこに戻ったほうがいいかもしれない。
もしかしたら自力で戻ってきているかもしれないし。

三人にその旨を伝えると賛成を得られたため、一度元の場所に戻ることにした。

──────────

果たして、子供達はそこにいた。

長兄がいないためか焦った様子で相談している彼らに、一期一振がホッとした表情を浮かべる。

「あの、荷物持っていただいてありがとうございました。子供たちのところに行ってあげてください」

今にも駆け寄ろうとしていた彼から荷物を受け取って、彼らのところに行ってあげるよう促す。
足早に前を行く一期一振を横目に今度は髭切と鶴丸に目を向けた。

「子供たち帰ってきたし、私そろそろ行きますね。二人とも彼らから離れないようにしてください逸れると大変だから」
「おや、一人で大丈夫かい?」
「大丈夫ですよまだ明るいし」

家に着くころにはだいぶ暗くなってると思うけど。

彼らによろしく言っておいて、と言って手を振って人混みにまぎれた。

──────────
────────
──────

その帰り道。
マンションが見えたところで、あとちょっとだと重い両手の荷物を持ち直した。
本当は重量のあるものはネットで買えばいいのだが、私は手にとって見て考えて買いたい店舗派なものだから仕方がない。

生暖かい風が吹いて、まっすぐ続く道を遠くに沈みかけた太陽が薄暗く照らす。
なんだか寒気がして落ち着かない。冷えた室内と暑い外を行き来してるから風邪でも引いたかな。

不意に少し先の曲がり角から数人の人影が現れたのが視界に入った。
妙に気になって、足を止めてじっと見つめる。

ゆるり。こちらを振り向いた"奴ら"の赤い双眸と、目が合って。
そしてその瞬間、先ほどとは比べ物にならない悪寒が体を駆け巡った。


──最近この時代も物騒な話があがってるので気を付けてくださいね

──こういう時は変なのが現れやすいからな。何かあったら遠慮なく俺達に教えてくれ

──様子がおかしかったり普通の人間とは思えない動きをしていたりする人とか・・・


見つめあう私と"奴ら"。
骨だったり笠かぶってたり・・・刀持ってたり。

しばし時が止まったような感覚がして、そして最初に動いたのは私だった。
固まって動けない体に息を吸い込んで、小さく口を開いて、何をトチ狂ったか震える声で一言。

「かっ・・・観光、ですか・・・?」

絶対違う。


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