14-1 夏なのに梅雨という高温多湿な七月が終わってから急激に気温が上がった八月。 長いお盆休みも終わり、休日に慣れてしまった体に鞭を打って仕事に行く日々が続いていた。 まぁ職場のほうがずっと冷房がついてて快適だけどさ。でも朝起きて暑いなか身支度して外に出るってのが憂鬱だよね。 しかし。しかしだ。今日の私はすこぶる機嫌がよかった。 というのも、毎年楽しみにしている大セールの期間が始まったからだ。 そう、東急〇ンズが年に一度開催するハン〇メッセ! 八月終わりのこのセールをどれだけ心待ちにしていたことか・・・平日だけど仕事が終わってから行こうと決めていた。 定時上がりに向けていつも以上に仕事を頑張って。 そして終業時間になると、席を立つ他の人たちに挨拶をして足早に職場を出た。 ────────── ──────── ────── 時を進めてただいまハンズが入っている駅ビル。 流石年に一度の大セール──平日と言えど人の数がえげつない。 目的の階に上がっていく間に、おそらく私と同じように仕事終わりに来たであろう人をたくさん見た。 そのあとはもう、あっちで揉みくちゃにされ、こっちで揉みくちゃにされ、買い忘れを思い出してまたあっちに戻って人の波に加わり──満足に買い物を終えた時には達成感と疲労感に満ちていた。 真夏と言えどそろそろ外が暗くなる時間だし、何か飲み物でも買って帰ろう。 両手に荷物を持って、今年もよく買ったなぁ、なんて思いながら。 そういえば今回のイベントは彼らに巻き込まれずに終えることができたなぁ、なんて振り返りながら。 一階まで下りてきてお店から出たら。 視界に鮮やかな水色が入った気がして二度見して、そして帰りの分の気力が霧散したのを感じた。 お前ホント、なんでよりにもよって人が多くなるセール中、帰宅ラッシュの時間、人の通りが多いこの場所にいらっしゃるんですかね、一期一振。 しかもまた女の子に捕まってるとか。 一年前の夏を忘れてしまったのでしょうか。今年の夏も暑いもんね。記憶くらい飛ぶことあるよね。 私はあの時の面倒事、忘れちゃいねぇけどな! 少し引き気味に、しかし無碍にできずに彼女らと接している一期一振に心の中で悪態をついて、身も心も疲れたまま彼のところに歩いて行った。 仕方ねぇ。助ける代わりにこの両手の重い荷物を押し付けてやる。 「──おーい、お待たせ」 「えっ、あぁ、えっと」 「人めっちゃ多いし買いたいものもたくさんあるしで遅くなっちゃった。 ──で、その人たちは?知り合い?」 連れを装って話しかければ、一期一振を誘っていた女の子達は気まずそうに「彼女さん一緒だったんですね」と言葉を濁して去っていった。 彼女さんではないけど諦めが早くて助かります。 「あの、今回も助かりまし」「はい、これ持って」「はい?」 彼のお礼の言葉もそこそこに、両手に持っていた袋を押し付ける。 思わず受け取ってしまった一期一振に背を向けて「こっちこっち」と誘導すれば状況が呑み込めないという表情をしながらもついてきてくれた。 ────────── 「そいで?今回はどうしてあんなところにいたんですか?」 コンビニでお茶を二本買って、一本を彼に渡しながら質問を投げる。と、彼は疲れた様子でため息をついた。 「乱が、"はん〇めっせ"とやらに行きたいと・・・。それでみんなで来たのですが」 「お前らマジ懲りないな」 なんでこう、人が集まるところに突っ込んでいくんですかね。 せめて昼間に来たらいいのに・・・なんでわざわざ人の多い時間に来るんだ。いやまぁこの期間はいつでも混んでるんだけどさ。 いくらあの子らが行きたいと言ったからって── 「・・・あれ?じゃあ子供達、今現在あそこに行ってるってこと?」 「えぇ。人が多そうだから私はやめたほうがいいと言われて、下で待っていました」 「うわあ・・・まじか」 思わず頭に手をやって言葉を零した私に、一期一振がどうかしたかと声を掛けてくる。 どうしたもこうしたも、階によってはバレンタインの時と同じで恐ろしい人口密度なんだよなぁ。 子供達じゃ人波に呑まれて散り散りになってるかもしれないんだけど・・・いや心配して突入しそうだから彼には言わないけど。 「少し遅いようなので様子を見に行こうか迷っていたのですが」 「えっ、それはちょっと、ほら、人が多いから・・・ええっと、私迎えに行きましょうか?あ、いやでも貴方を一人にしてまた女の子に捕まったら大変だしな・・・」 「じゃあ僕が一緒にいようか?」 別の声が聞こえて、反射的に彼らの仲間が来た助かったと思いながら振り返った。がしかし。 「なんでだ・・・!」 いつの間にか傍にいた髭切に思わず頭を抱えた。 膝丸はいないのかと周りを見渡してみるも影も形もない。 問題児お一振り様追加でーす! [ back ] |