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15

オークションを終えたツバキ達は再び檻に入れられたまま裏の部屋へ運ばれていた。純血の東洋人のお蔭で過去最高の高値を叩き出した商人達は酷くご満悦なようで鼻歌を歌っている。

「あーあ、俺もあの東洋人と一発ヤってみたかったなァ」
「そう言うなって。女なら他で買えばいいしこれで大金入ってくんだから文句ねぇだろ」
「まぁな!」

ハハハと笑う男達に檻の中で静かに見ていたツバキは小さく息を吐いて、前を行く仲間が入っている檻に目をやった。緊張を孕んだ様子の少女を見て口パクで「大丈夫」と言えば少女は小さくコクコク頷く。
移動した檻は少し歩いた控えの部屋に入れられていった。話を聞くに引き渡しの手続きを終えた落札者がここに迎えに来るらしい。

コンコンコン、ノックが部屋に響いて談笑していた男達が腰を上げた。
「少し早いな」などと零しながらドアを開けるのを競りにかけられた檻の中の少年少女が不安げに目で追う。
しかし次の瞬間、その男は殴り飛ばされて宙を舞った。

「なんだテメェ!」

怒鳴る男達の前に現れたのは十人ほどのローブを着こんだ輩。全員が顔を隠して首にはチェスの駒を彫った首飾り。
部屋に入ってずらりと並んだ彼等の中から代表と思われる者が進み出た。

「我がファミリーに手を出しておいて、のうのうと笑っていられると思うなよ!問答無用で関係者全員有罪だコノヤロー!」

ビシッと指差して啖呵を切った青年らしき彼が突っ込んだのを始まりに、全員が男達に飛び掛かる。
あっという間に部屋の商人達を伸して鍵を奪うと檻を一つずつ開け始めた。その中で大きな檻二つを開けると少女はホッと肩を撫で下ろし、ツバキはにこやかに「ありがとう」と礼を言う。
そして受け取ったのはフードつきのローブと、“キング”の首飾り。素早く着込んで首飾りを首に下げると商品となっていた人間も逃がして静かになった部屋の中を見渡す。仲間達が揃ってこちらを見ていた。

「徹底的にこの奴隷商の組織を潰す。作戦通りそれぞれ各班に合流、奪還成功の報告をしてそのまま館にいる商人共を叩け」
「了解!」

──────────

全ての競りが終わり締めの言葉を言った司会者が裏にはけて、その日のオークションは幕を閉じた。
リヴァイによると落札された商品はこの後別室で貴族に引き渡されるらしい。引き渡しまでの時間が少しあるため二人いっぺんに攫って行くなら今しかないという。

「確かこっちだったはずだ」
「よく覚えているな」
「昔仕事で何度か来たことがあるだけだがな」

関係者以外立ち入り禁止の区域を走りながらリヴァイの記憶を頼りに引き渡し準備中の少女達の部屋を目指す。
その途中、倒れている男がいて二人は足を止めた。

「殴られている。何かあったのか」
「俺達の他にも侵入者がいるってことか?」
「・・・だとしたら、奴等に決まりだな。先を越された」

顔を顰めたエルヴィンの言葉にリヴァイも舌打ちを零す。来るとは思っていたが一足相手が早かった。
直後、奥の方の部屋から出てくる五、六人の集団に二人は警戒の体勢をとって彼女達と向き合った。

「おや、これはこれは調査兵団の団長殿と兵士長殿ではありませんか。このようなところで会うとは」
「君達こそ、攫われた子がいると聞いたがファミリーの頭である“キング”自らが赴くとは思わなかったよ」
「そんなことないだろう。私達は“ファミリー”なのだから」

バチッと見えない火花が散った気がした。ツバキの後ろの“ルーク”達が戦闘態勢に入る。が、ツバキはそれを手を上げて制する。
自分達の目的はあくまで仲間の奪還と奴隷商の解体だ。無意味に争って被害を被るわけにはいかない。

「すまないが今は貴方達と話している時間はない。兵団勧誘ならまた次の機会にしてくれ」
「こんなところで勧誘なんてしないよ。“ファミリー”の子が攫われたと聞いて助けに来たんだ。・・・君達に恩を売るためにね」

隠しても仕方のないことなため目的も一緒に伝えればツバキはやれやれと溜め息を吐きながら小さく首を振る。
心配しなくてももう助け出して制圧に掛かっているところだと伝えれば「そのようだね」と苦笑いを返された。

「何か手伝えることがあれば手を貸すが」
「結構。あとはここの関係者を潰すだけだからね。・・・にしても、兵士長殿は分かるが調査兵団の頭脳である多忙な団長様が何故直々に?子ども救出のためだけにツートップが兵団を空けるとは思えないが」
「ハハッ、考えすぎだよ」

彼の答えに納得いかない様子のツバキだが、ここで後ろからナイフを持った男達が駆けてきたため一旦話を切り上げて控える仲間に敵を討つように指示を出した。
同じくナイフを手にした“ファミリー”達が一斉に男達を迎え撃ち、そして滑らかな動きで彼等を切り伏せていく。慣れた様子で全てを終わらせると観戦に徹していたツバキの下へ戻ってきた。

「凄いな、良い動きだ。“ルーク”はみんなこんな感じなのかい?」
「日々訓練をこなしているからな。
 ・・・まさか私達の機動力を見るために?」

不意にひらめいたエルヴィンの思惑にツバキが眉を顰める。
成功率が曖昧なオークションに彼直々に顔を出したのは、中央部の人間一人のためにどれだけの人が動き、どのような行動をとるのかということを自分の目で見ておこうと思ったからでは。
出品されていた子どもは落とせたらラッキーくらいのものではないか。
先程と同じように彼は「考えすぎだ」と言うが、この理由なら彼が兵団を空けるだけの価値がある。

「・・・君達はこのまま予定通り動いてくれ。あとから私も合流する。
 ──さて、そちらのお二方。我が“ファミリー”のために御足労をかけた。貴方方はこれから地上へ戻るのだろうがその途中“ファミリー”に会って敵だと勘違いしては問題になる・・・私が責任を持って地上への階段までお送りしよう」

付き添いと言うよりは監視の意味を込めて、ツバキは彼等を送るべく会場の外へと二人を促す。
意外にも素直について来たエルヴィンとリヴァイにホッとしつつ乱闘が繰り広げられる会場を出れば、これまで黙っていたリヴァイがツバキを呼びとめた。

「オークションに掛けられていた奴は全員居たか」
「あぁ、鍵を奪って全員の檻を開けたから間違いない。なんだ、気になったのでもいたか?」
「・・・お前等と手を組んでいた鶏を扱っている女がいただろう。あいつはどうした」

言い辛そうに切り出したリヴァイの言葉にフードの下でツバキが目を丸くする。
確かに最近ツバキとしてよく会うような気がしないでもないが気に掛けてもらう程だっただろうか。
訝しげにリヴァイを注視しているとそれが伝わったのか彼が眉を顰めて舌打ちを零す。

「ハハッ、心配しなくても真っ先に逃げて行ったさ。にしてもまさか貴方が彼女の心配をするとはね。彼女の話を聞くに犬猿の仲かと思ったがそうでもないのか・・・それとも君からの一方通行かい?」
「ふざけたこと言ってると削ぐぞ。・・・あの女、俺から逃げ遂せたくせに地下の屑共に捕まるなんざ納得いかねェ」

あぁ、そうですか・・・。
思わず素で言ってしまいそうになって咳払いでごまかした。
そういえばそんなこともあったなぁ。いやでもあそこまで追いかけてこられるとは思ってなかったからびっくりしたよ。自分が忍だからって気を抜いていたらいけないね。
一人納得のいくまで反省したところで小さく首を振りながらゆるりと溜め息を付いた。

「そんなに彼女の事が気になるなら約束を取り付けて差し上げようか。彼女と直接会って話した方が安心できるだろう?」
「あ?余計なお世話「それならば私も同伴していいかな。彼女とは是非もう一度会いたかったんだ」」

挑発に乗せられそうになったリヴァイを遮ったエルヴィンが笑顔でツバキに声を掛ける。
彼女はコクリと頷くと「ただし、」と注意を述べるべくピッと人差し指を立てて注目を集めた。

「脅しや暴力で物事を運ばないこと。彼女のテリトリーに許可なく入らないこと。彼女に仲間がいた場合、その仲間を人質にとって交渉しようとしないこと。
 ・・・以上を守っていただきたい。公に捧げたその心臓に誓えるなら私が橋渡ししよう」

中々厳しい条件にエルヴィンが考え込む。
ここでこれを呑んでしまっては良い印象を持たれていない自分達には圧倒的に不利だ。しかし相手はリヴァイを撒いたという強者。頭も悪くないようだし兵団で探し出して接触して交渉まで辿り着くには少々手間が掛かりすぎるのも事実。
その上前のパーティーからして彼女は既に地上とのつながりを持っていると考えるとどの道強行も交渉も難しいと考えていい。
となると、だ。

「いいだろう・・・その条件を呑む。取り持ってくれ」
「分かった。ではこの件はまた後日話をしよう。今日のところは私達も忙しい・・・お引き取りいただこう」
「楽しみにしているよ」

では、とエルヴィンはツバキに手を上げて挨拶をするとリヴァイを連れて地上へと戻っていった。


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