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13

いつも通り変わらない地下街。コツコツと足音を鳴らしながら歩くのは例にもよって調査兵団のリヴァイとハンジだ。時折聞こえる喧嘩や怪しい取引を横目に目標のファミリー領土へ歩いていく。

時々様子見に来ていたがそろそろ何か新しい情報が欲しいというエルヴィンの要望により今回は中部への侵入経路を探る予定だ。
柵を壊せるなら壊してそこから侵入するがそんなことは既にそこらのゴロツキ共がやっているはず。抜け道なども中核となっている人間を見るに見落としはなさそうだ。

さてどうするか、と考えを巡らせていたところで不意にハンジがリヴァイを呼び止めた。何かいい案が浮かんだのかと彼女を振り返るがどこか別の場所を見ているようで目は合わない。

「おい、どうした」
「静かに。こっち来て」

珍しく真面目な顔をしたハンジが顎でそちらを示して静かに移動し始める。訝しげに思うも時々やるときはやってくれる女であることは知っているためリヴァイは素直に口を閉じて彼女の後を追った。
先にあった角から顔を出して窺えばまだ十代だと思われる若い男女が数人こそこそと物陰に隠れている。

「誰かを尾行しているみたいだね」
「だからなんだ。俺達の目的はファミリーだろうが」
「首元をよく見て」

ツンツンと自分の首元を指しながら言う彼女にリヴァイはこちらに背を向けている子ども達を注視する。
しばらく身を隠しながら移動して、相談するために体の向きを変えた男の子の首元──そこに掛かっている小さい物を見てリヴァイは目を見張った。

「“ビショップ”か」
「ね。何やってるか気にならない?」
「・・・行くぞ」

ファミリーの人間がこんなところで見つかるなんてとんだ棚ぼただ。しかも“ビショップ”ということは中央部の人間。これを逃す手はない。
相手が別の何かに集中しているのをいいことに距離を詰めて肩を掴む。
本当に驚いたらしく小さく悲鳴を上げて肩を跳ねあがらせた少年と、一緒にいた男の子女の子は弾かれたようにリヴァイ達を振り返った。

「な、なんだよアンタ達」
「お前等ファミリーの人間だろ。こんな所で何してやがる」
「こっちが先に聞いてんだ。答えろよ」
「ちょっと、こんなところで道草喰ってる場合じゃないよ。見失っちゃう」

睨み合うリヴァイと男の子の間にお下げの女の子が焦ったように仲裁に入る。ハッとした男の子はもう一度リヴァイを睨むと背を向けてもう一人の少し先にいる男の子へと走って行った。

「ワリィ、大丈夫か」
「うん。見失ってないし気付かれてもないよ」
「良かった・・・」

ホッとする子ども達を追ってその先の目標を見つけたリヴァイ達は状況を理解して眉を顰める。
子ども達が追っていたのは女の子を担いだ男三人組だった。誘拐か。

「ねぇ、あの子って君達の仲間?」
「アンタ達には関係ねぇだろ。どっか行けよ」
「口の利き方に気を付けろクソガキ。奴等に気付かせるぞ」

シャレにならない脅し文句に三人が口を噤んで顔を合わせる。
気にはなるがこんな所で油を売っている暇はない。大人しそうな方の男の子が残ってリヴァイ達の対応をすることになった。
「気を付けて」「お前もな」と互いを心配する言葉を掛けあうと二手に分かれた。

「・・・お前だけなら簡単に連れて行けそうだな」
「大丈夫です。交差した翼のエンブレムは壁外で活躍する調査兵団のものだと教わりましたから」
「なぁんだ、気付いてたんだ。それなら話は早い。・・・何があったの」
「悪いけど言えません。調査兵団は厄介だから気を付けろって」

相手を刺激しないように彼なりに頑張っているのだろう。何と聞いたのか知らないが緊張が顔に出ており冷や汗を浮かべている。
埒が明かないと眉を顰めるリヴァイだが、ここで上手くやればこちらに有益な情報が入るかもしれないからとの意味を込めてハンジに名を呼ばれて口を噤んだ。
ハンジはしゃがんで男の子と目の高さを合わせると安心させるように人の好い笑顔を向ける。

「大丈夫。君達の仲間を助けたいだけなんだ。話してくれたら力になると約束するよ」
「や、でも・・・キング様達に話せば何とかしてくれるし・・・」
「今すぐ何とかしなきゃならなくなったらどうする。“キング”を呼んでくる時間はあるのか?」
「君達だけじゃ女の子を攫った奴等に太刀打ちできないから尾行していたんでしょう。もし何があったか話してくれたら、見つかって戦う事になった時に私達が助けてあげる。ね?」

まだ子供だが流石にリヴァイの指摘は堪えたのだろう。下を向いてしまった男の子に、さらにハンジが甘い言葉で一押しする。しばらく沈黙が続いて、その男の子は決心したように口を開いた。

どうやら四人一組で近くまで荷物を届けるという簡単な役割を任されたが、それが終わった帰りに女の子がちょっと一人になったところを気絶させられて連れ去られたらしい。すぐに気付いて追いかけていたのをリヴァイ達が見つけたということだ。

「そっか・・・不用意に突っ込んでいかなかったのは偉いね。良い判断だ」

この歳でこれだけの判断と行動が出来るなら上々だ。
聞き出してみればどうやらこれらの事は学び舎で学んだらしい。ますます興味が出てくるが今は連れ去られた女の子が先。
そう思って先を行った二人を探そうとしたがここでその内の一人、女の子が戻ってきた。

「無事で良かった・・・あいつは?」
「奴等の隠れ家に着いたからまだ見張ってる。私はここまでの情報を警備の人達に知らせようと思って」
「おい、奴等の隠れ家ってどこだ」

リヴァイの問いに女の子は険しい顔でそっぽを向くが男の子に諭されてぽつりとその場所を言う。
少し考えた彼が思い出したように「あぁ、あそこか」と言葉を零せば子ども達とハンジの視線が集まった。

「それなら人身売買を手掛ける奴等だ。ガキを連れ去った野郎は俺が地下にいた時もやってたからな。変わってないならその内ガキは貴族相手にオークションにかけられるはずだ」

そこでリヴァイは何か思いついたらしい。今突入してしまえば全てが収まるであろうところを子ども達を上手く言いくるめて一旦家に帰るよう誘導した。
納得する子ども達に力強く頷いてみせるともう一人の男の子にも伝えるよう言って、ハンジと共に地下街を後にする。しかし彼女はリヴァイを非難するような表情をしていた。

「ちょっと、このまま突撃して助けちゃえば良かったんじゃないの?攫われた女の子危ないじゃん。恩も売れたのに」
「奴等は商品を傷付けるような真似しねェよ。それに交渉材料はエルヴィンの方が上手く扱える」
「ファミリーがさっさと助け出しちゃう可能性は?」
「低い。相手もデカい組織だ・・・流石に簡単に手は出せねェよ」

殺伐とした答えに納得しきることは出来なかったが取り敢えず女の子が無事ならとハンジは難しい顔で「わかった」と返答した。裏の世界に詳しい彼のことだ、彼なりの考えがあるのだろう。

──────────

「──というわけだ。どうする、エルヴィン」

本部に戻ってきたリヴァイとハンジはその足ですぐに報告に向かいエルヴィンに次の指示を求めた。
彼は少し考えるとある程度作戦の道筋が立ったのか一つ頷いて二人に目を戻す。

「そのオークションに私とリヴァイで参加しよう。攫われたという子を我々が引き取る」

ただの女の子ならそう高値はつかないはず。予定外の出費になってしまうがその子を捕らえてしまえば交渉材料にも情報源にも戦力にもなる。総合的に見れば得られる利益の方が大きい。
さっそくエルヴィンはそのオークションについて情報を集めるべく地下街出身のリヴァイに指示を出したのだった。


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