「──い、おい、ツバキ!起きろ!」
「・・・ん、あぁ──ッ熱!?」
マダラの呼びかけに夢の世界の入口から引き返したツバキは、次の瞬間手に持っていた吸い物椀を膝に落として声を上げた。
いつもと何ら変わりないはずだった夕食時の出来事である。
「大丈夫か?火傷していないだろうな」
「えぇ、少し赤くなっているだけ。ごめんなさい、少し眠くて・・・」
別室で服を着替えてきたツバキは心配そうに視線を寄越すマダラに苦笑いを返す。椀をひっくり返すまでしたのは初めてだが、ここ最近似たようなことが度々あった。
「新しい生活が始まって疲れているんだろう。無理せずにしばらく休んだらどうだ」
「そうは言ってもね・・・立場を考えると中々に難しいわよ」
「俺が代わりをやってやる」
「みんなが怖がってしまうわ」
「お前俺をなんだと思っているんだ」
クスクス笑うツバキにマダラも少しホッとしたように笑みを零すが、柱間に頼んで任務は控えさせようと考えていた。
そして後日。
仕事から帰ってきたマダラはいつもなら出迎えてくれるツバキの姿がないことに眉を顰めた。明かりはついていたから家には居るはずだがと靴を脱いで廊下を歩いて行く。
居間へ行くとほとんどの食器が並んでいて、あとは温かいものを持ってきたら食べられる状態になっていた。しかしツバキはいない。
ならば台所かとそちらに足を向けた。
「おいツバキ──いないのか・・・」
顔を覗かせたが姿はない。気になるのは鍋を火にかけっぱなしという事だ。恐らく少し前まではいたはず。
荒らされた様子はないため奇襲に会ったとか言うことはないだろうが、流石に心配になってきた。
──ケフッ、コホッ、コホッ・・・うぇ・・・
不意に聞こえてきた声に体が反応する。厠の方か。
眉を顰めてそちらへ向かえば背を丸めて嘔吐いているツバキの姿があった。
「ッツバキ!大丈夫か!」
「ケッホ、ぉえ・・・まだら・・・」
「どうした、具合が悪いのか!?」
「少し・・・」
背を撫でながらオロオロと辺りを見渡すマダラ。何をしたらいいか分からないし使用人は全て引き取ってもらった。
一体どうしたら良いんだ。
「あぁツバキしっかりしろ・・・ツバキ、ツバキ・・・」
「大丈夫、だから・・・水を持ってきて・・・口を漱ぎたいの」
「分かった。少し待っていろ」
印を組んだマダラの分身が台所へ駆けていき、少ししてコップと手拭いを手に戻ってきた。口を漱いで零れたものを拭ったツバキはぐったりしたようにマダラに寄りかかる。
「体が熱いな・・・風邪か」
「そうかもしれないわね・・・」
「今日はもう寝てろ」
マダラはツバキを抱えると寝室へと向かった。布団を敷いて体を横たえさせる。
「ごめんなさい・・・」
「いい。普段忙しくしているんだ。明日からまた使用人を呼ぶ・・・しばらく休め」
「ん・・・夕食はもう出来ているから、あとは台所の温かいものを装って食べてもらえる?」
「あぁ」
軽く頭を撫でたマダラは夕食と使用人の手配に部屋を出て行った。