巡り会いてT | ナノ

演習の日、アリスが演習場に到着すると他の三人は既に到着していて残るはカカシを待つのみとなった。

空腹にいつもの騒がしさがないナルトをアリスが指摘すれば、逆に何故いつも通りでいられるのかと問われる。


何故か?そんなの決まっている。朝食をとってきたからだ。


胸を張って答えたアリスにナルトだけではなくサスケとサクラも振り返った。

本当に食べてきたのかと問われれば頷き、抜いて来いと言われただろうと言われれば──


「わたくしに指図しようだなんて烏滸がましいのよ」


清々しいほどの開き直りである。流石アリスだとナルトは呆れた様子で乾いた笑いを零した。

それからというもの、まだ明るくない演習場で四人はひたすらカカシを待つこととなる。


────────


「──やあ、諸君。御機嫌よう」

「「おっそーい!!」」



待つこと数時間、やっとカカシが姿を現した頃には既に太陽が高く昇っていた。

黒猫に目の前を横切られたと言い訳するカカシに、待たされすぎていい加減イラつきながら忍術書を読み込んでいたアリスが顔を上げる。

「切り刻んでその黒猫とやらの餌にして差し上げてよ」との物騒な言葉にカカシは気まずげに咳払いをすると、丸太の上に置いた時計をセットした。


「よし。十二時セット完了!本日の課題、それはこの三つの鈴を俺から昼までに奪い取ることだ」


そう言って四人の前で鈴を揺らせば涼やかな音が辺りに響く。

奪えなかった者は昼飯抜き。その上丸太に縛り付けられて目の前で弁当食べられるらしい。

ヘラリととんでもないことを言うカカシを前に三人のお腹が盛大に鳴った。


「(朝飯食うなって・・・)」

「(そういうことだったのね・・・)」


サスケとサクラが心の中でそう零し、ナルトは「アリスずりィ」と小さく呟く。それを聞いたカカシがアリスに食べてきたのか確かめれあっさりと「当たり前でしょう」との答えが返ってきた。

羨ましそうに朝食をとってきたアリスを見る三人だったが、ふとサクラが鈴の数を見てハッとする。


「ちょっと待って!なんで鈴三つだけ?」

「三つしかないから、最低一人は丸太行きになる。そいつは任務失敗って事で失格だ。アカデミーに戻ってもらう」


その言葉に四人が真剣な表情になる。しかしアリスはすぐに訝しげに眉を顰めた。


取れなかったら班から外されるなどありえるのか。否、普通の試験なら力ある者だけを残すのは不自然ではない。だが引っかかるのはイルカの言葉だ。

──班は力のバランスが均等になるよう、こっちで決めた

説明会の日、確かにそう言っていた。向こうで決めたということは班の力のバランスだけではなくその他諸々総合的に見て決めたはずだ。鈴を取るだけの力勝負だけで合否を決めてしまってはその総合的なバランスが崩れかねない。クリア条件も新人下忍が上忍相手に物を強奪するだなんて無謀も良い所だ。


だが、アリスはそこまで考えてハッと息を呑んだ。一拍おいて今度は納得したような表情になる。


「成る程ね・・・もしそうなら、今の三人の心理状態ではこの演習は失格だわ」


小さく呟いた言葉にカカシが目を見張った。昨日といい今日といいどうやらこの少女は中々頭が回るようだ。


「・・・失格になる者は最低一人かもしれんし、四人全員かもしない。──手裏剣使っても良いぞー。俺を殺す気で来ないと取れないからな」

「でも危ないわよ先生!」

「そ、そうそう!黒板消しも避けられねぇくせに!」

「世間じゃさ、実力のない奴程吠えたがる。ま、ドベはほっといて・・・よーいスタートの合図で──」


全てを言い終える前に、“ドベ”という単語に反応して突っ込んでいくナルト。だがしかし。次の瞬間にはカカシはナルトの背後に回り込み、頭を押さえつけてクナイを首に宛がっていた。

初めて見た上忍らしい実力に四人の表情が変わる。


「そう慌てんなよ・・・まだスタートとは言ってないだろう」

「っ・・・」

「(うそ・・・全然見えなかった)」

「(これが上忍か)」

「(早い・・・)」


軽く構えながらそれぞれが考える。これは冗談を言っている場合ではない。

真剣な顔付きになった四人を見て、カカシは少しだけ表情を和らげた。


「でもま、俺を殺すつもりで来る気になったようだな。やっとお前らを好きになれそうだ。
 ──始めるぞ!よーい、スタートォ!」


その言葉で四人が散る。

アリスは森の奥に消えて行った。もはや鈴を取りに行くつもりはなく巻物の続きを読む場所を探しているとナルトの「いざ尋常に、しょーぶ、しょぉーぶ!!」と言う声が聞こえてくる。


「(・・・ナルトったら、隠れてなかったのかしら)」


丁度良い木を見つけて登ると巻物を開いた。加勢に行く気は全くない。ナルトが他人と協力できるとは思えないし、そもそも自分もチームプレーの類は苦手だ。

その後、サクラの悲鳴も聞こえてきたが彼女との関係もあってかやはりアクションを起こすことはなかった。

それからまたしばらくして──


「(近くで誰かが戦っているみたいね。二人はやられたと見ていいからサスケかしら)」


森の向こうが騒がしくなったことを感じ取り、少し気になってそちらに足を向けるアリス。気配を消して様子を見てみるとやはりサスケとカカシが戦っていた。

チリンと、小さく音を立ててサスケの指先が鈴を掠る。

しかし上手くいっていると思えたのはそこまでで、程なくしてサスケが土遁で地中に埋められた。悔しそうにカカシを睨んでいるのが見える。


「ま、出る杭は打たれるって言うしな。・・・なぁ、アリス?」

「・・・気付いていたのね」

「上忍だしね」


見つかったからには仕方がないとアリスは木の陰から出てきた。首だけのサスケに憐みの目を向けて「無様だこと」と呟けば鼻を鳴らしてそっぽを向かれる。

アリスもサスケから目を離してカカシを見据えた。


「さて、最後はアリスだよ」

「どの道、頭の足りてない者達と共に失格になるのだから止めておくわ」

「・・・やっぱり気付いてたのか」

「あれだけヒントがあったのに分からないなんて忍になっても状況判断が出来ずに早死にするだけよ」


呆れたように言うアリスにカカシは半ば感心したように息を吐くと、再びいつもの気だるげな表情に戻った。

わざとらしい仕草にアリスが眉を顰める。対するカカシは宥めるように小さく苦笑いを零した。


「まぁ、個々の実力を測るのも目的だからさ。そう言わずにかかってきな」

「イヤよ。何故わたくしが」

「うーん・・・そりゃそうだよなぁ。サスケですらあのザマだからなー。アカデミートップとは聞いていたけど所詮噂は噂。蓋を開けてみりゃ敵前逃亡の負け犬ってところか。敵に怖じ気づくような役立たず、忍としてやっていけるわけないしね」

「なんですって・・・?」


カカシの言葉を聞いた途端、アリスが顔色を変えた。


この男は、今なんと言った?

“負け犬”と言ったか?

この、わたくしを?


分かりやすい挑発といえど貶されたことには変わらず眉を吊り上げる。それはもう表情が見えなくても雰囲気だけで怒りが渦巻いていると判断できるほどだ。

未だ地中に埋められているサスケは自分の時と同じような展開に冷や汗をかく。


「このわたくしを侮辱した罪、その身をもって償うといいわ」

「(これはこれは、下忍とは思えない威圧感だことで)
 やれるものなら、どうぞ」


アリスはカカシとの距離を詰め、クナイで切りかかった。無論、カカシは避ける──が。


「っ、これは・・・」


ピッと腕の部分の服が破けて、それを確認したカカシが驚いたように目を見張る。サスケからも見える切り口に眉を顰めた。

今の攻撃をカカシは避けたはずだと、記憶を辿る。角度はあったとはいえこの距離で見たのだ。間違いない。


「(何故切れた・・・?)」

「(風の性質変化、かな。切り口が雑とはいえこの年で大したものだ)」


二人がそう考えている間にもう一度アリスが切り込むが、カカシは先ほどより早く避けて風も上手く回避する。

数度試しても全く当たらないことにアリスは舌打ちした気に息を吐いた。


「(体術はなるべく避けたいしこんな所で術を使うのも・・・。相手から仕掛けてこないから返し技すら出来ないわ。・・・仕方ない)」


落ち着くように今一度息を吸って吐くと、印を組んで分身体を三体作り出す。それぞれがポーチからクナイを出して両手に三本ずつ構えた。

本体を含めた四人のアリスがカカシの周りを円を描くように走り出す。


「基本の陣形だね。さ、どう来る?」


ナルトとサクラを相手にしていた時に比べれば少しだけ真面目な表情のカカシ。二・三周程走ったところで、四人のアリスが一斉にクナイを放った。

しかし簡単にかわされる。


「うーん、先が読める戦い方だね。もう少し何かないかな」


カカシの言葉には答えずアリスはもう一度印を組んで倍になった。そして再びクナイを放つも、やはり掠りもしない。

数を増やせばいいというものではないと、綺麗に避けたカカシが呆れ気味に言った。

動きがあったのは三回目だ。同じようにクナイを構えるアリスとその分身達。

本体がカカシの視界に入らない位置に来たところで一斉に放った。


「だから数の問題じゃ── (起爆札!?)」


一帯に鼓膜が破れそうな爆発音が響いた。

本体が投げた中に起爆札付きのクナイが混ざっていたらしい。モクモクと上がる煙が視界を遮る。

それでも流石上忍といったところか、多少服が焦げたくらいで難なく煙の中から飛び出してきた。

そこへクナイを構えたアリスが切りかかってきてギリギリで体を捻って避ける。


「(成程考えたな。分身の術の作戦はフェイクか・・・油断していた。それにしても)早かったね。俺が煙から出てきて、そこからアリスが切りかかるまでの時間が」

「起爆札付きのクナイは貴方ではなく少し手前の地面を狙ったから。単純に考えて、爆発から逃れるには反対方向へ動くでしょう」

「(演習の意図を見抜いた洞察力、対戦中での作戦考案と切り替えの素早さ・・・こりゃ戦いに慣れてるねどうも。実力が伴ったら化けるぞ)」


再び対峙するアリスとカカシ。

しかしちょうどその時時計が鳴ったため、カカシはアリスに「サスケのことよろしく」と言い残すとその場から去って行った。


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