とある深夜、アリスはナルトの家に忍び込んでいた。 ちなみに鍵は一緒に住んでいた時に渡されてまだ返していなかった物を使った。 「(相変わらず散らかっているわね)」 そう思いながらベッドまで歩き、ナルトが眠っているのを確認する。 「(・・・これだけよく寝ていたらちょっとやそっとでは起きそうにないわ)」 アリスがここに来たのは前から気になっていたことを確かめるためだった。ナルトの腹に手を添え、目を閉じて集中する。 次に目を開けた時にはアリスは別の場所に立っていた。ピチャンと、水滴の落ちる音が響く。 足が少し水に浸かっていることに眉を顰めつつ薄暗い通路を目的のものに向かって歩いていけば、檻のある開けた場所に出た。 「誰だ・・・」 地を這うような低い声。檻の奥に見えた燃えるような双眸と目が合った。 「ご機嫌麗しく。アリス・ルヴィアンと申します。少々気になることがあってナルトが眠っている隙に邪魔したわ」 アリスが近付いてそう言うと、檻の中の九尾は訝しげに眉を顰める。 初っ端から雰囲気は良くない。 「・・・何が言いたい」 「わたくしの知っている力と似ている力を見つけたから・・・性質はコチラに来て大分変わったみたいだけれど。それにしても不思議ね・・・エルドーラは力の半分近くをこちらに送ったと聞いていたのに、これでは全然足りないわ・・・」 「小娘・・・何を知っている!?」 “エルドーラ”という言葉に反応する九尾。威嚇するような低い声があたりに響く。 赤いチャクラがざわざわと動き、足元の水が波立った。流石チャクラの塊というだけあって周辺の圧が重い。 「そうね・・・例えば、大昔エルドーラは世界の均衡を保つために力の一部をこちらの世界へ送った。 そして、ただの“力”だったそれは“チャクラ”に変化した。それが貴方・・・の、はずなのだけれど・・・どう考えても小さいのよね・・・。 今はチャクラに変わってしまったけれど、それでもうっすら感じる力の性質がエルドーラと同じものだから間違いないはずなのに・・・」 「何故、その事を知っている」 「力を分けた後、エルドーラは一人の少女の身に宿り身体を休めた。それ以降、エルドーラは少女の子孫に宿って代々を見守ってきたのよ。わたくしはその少女の子孫であり現在の宿り主」 「なるほど。どうりでお前から・・・ふん、こちらの者ではなかったのだな」 九尾が納得したように頷く。 先ほどよりは警戒が解けたようで、アリスは肩の力を抜いた。いくら封印されているとはいえ暴れられては面倒だ。ナルトにも被害が行きかねない。 「それで、先程の疑問の事なのだけど・・・」 「あぁ、その事はワシから説明しよう。そうだな・・・簡単に言ってしまえば九つに分けられたのだ」 「分けられた・・・?」 「そうだ。元々はあれと同じ様に尾が十本ある姿だった。しかし、強すぎたその力は人間共を苦しめてな・・・六道のジジイが自らに封印してその件は落ち着いたのだが、人の寿命は短い。奴は死に際にチャクラを九つに分けた。その内の一つがワシというわけだ」 目を細めてどこか懐かしげに語る九尾。先程までの憎しみが身を潜めているのを見るに、どうやら悪くない思い出らしい。 しかし六道のジジイ──六道仙人と来たか。本を読むに殆ど神話のような存在だぞ。 「まぁつまり、あなたのようなチャクラの固まりがこの世界には全部で九つあると?」 「あぁ・・・どこにいるかまでは知らんがな。そんなことよりあれまでこっちに来ても大丈夫なのか?」 その言葉にアリスは「うーん」と首をひねる。 今のところは問題ないし、直接世界に触れているわけではないから影響は限りなく少ないのではないだろうか。 それを伝えれば九尾は興味なさげに鼻を鳴らした。 「まぁワシには関係ないことだ。欲にまみれた人間などどうなろうと構わん」 六道仙人の事を語っていた時とは全く違う、憎しみの籠った声と言葉。 過去に何かあったか元々そういう性質なのか。どちらにしても一筋縄ではいかなさそうな九尾にアリスは軽く目を細めた。 「辛辣ね」 「ハッ、妥当な対応だ。・・・まぁお前にはあれがついているせいで勝手が出来んがな。そうでなければ今頃八つ裂きにしている」 「わたくしを八つ裂きに?面白い冗談だわ。 ──あら、お気を悪くしたなら失礼。それでは、わたくしはそろそろ・・・」 「・・・待て」 頭を下げて踵を返したアリスだが、九尾は何を思ったかそれを引き留めた。まさか声を掛けられるとは思わなかったアリスが少し驚いた表情を面に出して振り返る。 九尾は先程までの不快そうな態度とは違い、どこか愉しそうに顔を歪めていた。 「ワシは九喇嘛だ。ここまで来た褒美として覚えておけ、小娘」 意図が分からず眉を顰めるアリスだが、まぁ長い年月を生きる中での小さな戯れと気まぐれだと思っておく。 確かめるように「九喇嘛」と呟きながらその空間を後にして、精神世界から戻るとすぐに自分の家に帰った。
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