──火影邸・執務室── アリスの体力測定を終えたイルカは三代目に報告に来ていた。体力測定の結果を受けて、火影は目を丸くする。 「なんと・・・あの年齢で?」 「私も驚きました。そもそも運動というものに縁がないようで腹筋、持久走といった用語も知らなかったようですし、少々特殊な環境で育ったんだと思います」 それを聞くと火影は深く息を吐きながら背もたれに寄り掛かった。 イルカは少し心配そうな、何とも言えない表情で三代目の言葉を待っている。 「・・・初めてナルトにアリスの話を聞いた時から色々と気になることはあったんじゃ。あの子は知らないことが多すぎる。不自然なほどにな。・・・皆にナルトがアリスを拾ったことは話したじゃろう。最初はナルトが一つ一つ教えていたらしい」 「火影様がアリスを里に置くと決めた夜、木ノ葉の忍全員に回した話のことですね。どこの里の者かも分からないということで、かなり反対もありましたが・・・」 「あぁ。しかし話を聞くにアリスには親がいない。そんな寂しい子を捨て置くわけにもいかんじゃろう。ワシはあの子から話してくれるのを待つつもりじゃ」 「私も火影様の意見に賛成です。まだまだ信用されていないですが、少しでもアリスの力になれるように頑張ります。・・・とは言ってもアカデミーは朝だけ顔を出して、後はどこかに行ってしまうので、なかなか話す機会もないですが」 恥ずかしそうに言って、イルカは苦笑いを零す。しかし三代目はそうでもないと緩く頭を振った。 「全く信用されていないわけではないじゃろう。もし受け入れられていなかったのなら、完璧に無視されるか、辛辣な言葉を吐き捨てられて仕舞いらしいからの」 ちなみにワシの時は完璧に無視されたわ、と朗らかに笑う三代目。 イルカは火影に対してなんて対応をと頭を抱える。三代目じゃなかったら間違いなく処刑ものだ。 「のう、イルカよ・・・。アリスは今、少しずつだが外の世界に手を伸ばしておる。他者との接し方はともかくとしてじゃ」 「大丈夫ですよ、火影様。何を言われても、私は諦めずにあの子と向き合います」 「そうか。ナルトととも正面からぶつかることの出来るお前なら大丈夫じゃろう」 「では、また何かありましたらご報告します」 話が終わり、イルカは執務室をあとにした。 あの休みから数日。 川の近くの木陰で教科書を読んでいたアリスはあることで頭を悩ませていた。 「(この前の体力テスト、あれは失敗だったわね。いろいろとヒルゼン様に報告がいったでしょうし)」 幼いころから同年代の子と交流がなかったせいで自分以外の子どもがどのような生活をしていたか全く知らなかった。 それでも、コチラの世界の子どもが日頃走り回っている様子を見ていると自分がいかに他と違うか分かる。 「(・・・ヒルゼン様になら、お話してもいいかしら)」 ただでさえ自分を保護している火影はいろいろと不利な立場に立っているはずだ。 特に・・・そう、片目を包帯で隠して杖をついていた男。前に三代目と共にいるところを見たがどうにも油断ならない。 自分のことも相当警戒しているようだし。 「情報は多い方が立ち回りやすいはずよね・・・」 うつむいて少し考えると、アリスは一つ頷いて立ち上がった。目指すは火影邸だ。
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