朝、教室に入ろうとしたらアカデミーで有名ないじめっ子にぶつかってしまった。 どうしよう。わざとじゃないのに。言い返したいけど何も言えない自分が嫌になる。 この三人に関わると後が怖いせいか教室にいる子は様子見にすら来ないし。突き飛ばされて泣きそうになったところで、廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。 「(あの子は確か・・・アリスちゃん? 暗部の人達みたいな様相だし、アカデミーにも朝だけ顔を出してすぐにどこか行っちゃう少し変わった子・・・)」 そんなことを考えていたら、いじめっ子達の矛先がアリスちゃんに向いていた。 どうしよう。私のせいで迷惑かけちゃう。このいじめっ子達はすぐに手を出すから、アリスちゃんが怪我しちゃうかも・・・。 何か言わなきゃ。でも、私じゃこの人達には勝てないし・・・。 あ、アリスちゃん、あんまり挑発したら駄目だよ。どうしよう、三人共すごく怒ってる。 「(あぶない・・・!)」 ──あっという間の出来事だった。 アリスちゃんは向かってきた三人の攻撃をスッと避けて足を払う動作に移った。 すごい・・・アカデミー生が相手だったとはいえ、無駄な動きがなく息の一つも乱さずに三人も転ばせちゃった。 逃げるようにして走って行った三人をしばらく見ていたら、いつの間にかアリスちゃんは教室に入ってた。 「・・・お礼、言わなきゃ」 助けたつもりはないと言われてしまいそうだけれど。 ─────────────── 「あの」 教室に入って声をかけると座っていたアリスちゃんは顔を上げた。どうしよう、さっきのいじめっ子も怖かったけどアリスちゃんも怖い。 「わ、私、日向ヒナタっていいます。その、さっきは助けてくれてありがとう」 「別に助けようと思ったわけではないわ。貴方達が入り口にいたせいでわたくしが入れなかったから」 「えっ、あっ、えっと、アリスちゃんにとってはそうかもしれないけど、私は助かったから・・・だから、ありがとう」 「・・・」 あ・・・しつこいって、思われちゃったかな・・・。でも助けてもらったんだからお礼はちゃんとしたいしな。 無言が続いてどうしようか考えていたら、アリスちゃんが話題を変えるように「それより」と話を切り出した。 「なぜ言い返さないの?わたくしも途中から見ていたけれど、あれは貴方が悪いわけではなかったはずよ」 「で、でも、あの三人怖いし・・・それに、私弱くてケンカになっても勝てないから・・・」 「だから諦めるというの?弱いなら強くなればいいのよ。なにもしないでただ弱いと嘆くのは愚かしいことだわ」 「わ、私だって強くなりたいと思ってるよっ。修行だって、してるし・・・。でも、駄目なの。五つ下の妹にも勝てないくらい弱いの。どんなに頑張っても、強くなれなくて・・・」 「・・・その程度で決めつけてしまうなら、いっそのこと忍なんてやめてしまいなさい。そうすれば気に病むことなんてなくなるわ」 「それは・・・できないよ。今までももうイヤって思ったことが何回もあった。でも・・・諦めたく、ない」 アリスちゃんは甘い考えだって言うと思う。 自分でもわかってる。諦めかけてるのに、なのに完全には諦めることが出来ない私がいて。 いつか、こんな私でもって思ってしまう。 「・・・あ、ごめんね。いきな 「そう思えるなら良いのではなくって?」 え、と」 「どうしても諦められない理由、強くなりたい理由があるのでしょう。他人にとってはくだらないことでも、本人にとってはそうではないかもしれないわ」 「諦められない、理由・・・」 「覚えがあるようね」 「う、うん・・・。その、本当に皆は“そんなことで”って思うようなことなんだけど、えっと、私、ある人に憧れてて」 いつか私も、ナルト君みたいに。だからまだ諦めたくない。 ・・・アリスちゃん、意外と話を聞いてくれるんだなぁ。 ここ数日でみんなはアリスちゃんを“ナルト以上の落ちこぼれ”って呼ぶようになったけど、そんなことない。 相変わらず黒い服と猫面で顔は見えないし、授業だって毎日抜け出しちゃう子だけど・・・きっと頭が良いしある程度の実力もある。 憧れるなぁ。誰に何を言われてもサラリとかわして、自分の言いたいことが言えること。 ・・・、諦められない理由、強くなりたい理由、かぁ。 「あ、あの、アリスちゃん、私・・・頑張る。大切な人を守れるように、一緒に戦えるように」 私がそう言うと、アリスちゃんの雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。 [ back ] |