Clap

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2.はじめまして


咄嗟のことで家に連れてきてはしまったものの、結局この子はなんなのだろうか。
とりあえず角があるかどうかを確認しようと、布をどける。

「どれどれ…。おっ。」

小さいが、確かにあった。
となると間違いなく鬼である。
見たところ2歳かそこらの女の子だ。しかし、なぜ極楽満月の前にいたのかが全くわからない。
健康には問題がないだけまだ良いとは言えるが。

「何か入ってないかな…。」

ごそごそと、この子が入るには大きめの布を漁るが、あるのは小さな紙切れ一枚。他には何もないようだ。

「まさか、ね。」

嫌な予感がするが、見ないわけにはいかない。
その嫌な予感を押し殺して、その紙切れに書いてある文字を確認する。
書いてあったのはやはり、"そういうこと"だった。

「……この子をお願いいたします。か…。」

グシャっと紙切れを握りつぶす。
自分の産んだ子を、理由はどうであれ捨てるなど同じ生きてるものとは思えない行為だ。

「チッ…!」

最低な行為にやり場のない怒りを覚えて、近くの壁を殴る。
しかし手が痛いだけで気持ちは晴れない。
イライラとした気持ちを紛らすためにちらりと子供を見ると、寝惚けた瞳とかち合った。

『んー…。』

「あ…起きちゃった?」

『あー。』

どうやら壁を殴った音で起こしてしまったらしい。
この子が言葉を喋れるなら、話を聞くこともできるがこの様子ではおそらく不可能だろう。

「うーん…参ったなー…。」

『なー。』

「困っちゃうよねー。」

『ねー。』

「…ん?」

『ん?』

…もしかして。

「…君…僕のこと真似したの?」

『のー?』

「………。」

思わず口元を抑える。可愛い。とてつもなく可愛い。
明らかに絆されていると思うが、もうここまで来たならば、と開き直ってバッと腕を開く。

…思えばこの時点で、この子を捨てた親への怒りなど忘れていたのかもしれない。

「さ、おいでー。」

『うー?』

「ほら高い高ーい。」

『おー!』

脇に手を入れて、僕が高い高いをしてあげれば、キャッキャと楽しそうな声をあげて笑っている。
…この歳になって子供が出来るとは思わなかったが、案外こういうのも悪くないのかもしれない。

「可愛いねー。」

『かあいー?』

「うん。かあいーかあいー。」

『かあいー!』

「良くできました!」

腕の中で楽しそうに笑うこの子を見て、僕の中で一つのことを決断する。

この子は可哀想にも捨てられてしまったのだ、ならば誰も咎めないだろう。

「僕と一緒に、暮らそっか。」

『?』

首を傾げ、クリクリとした目で僕を見つめてくるこの子にそっと微笑んだ。


はじめまして
(小さな君。)




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