ったく、どいつもこいつも好き勝手しやがってよォ。
その皺寄せと後始末は全部俺ってことかァ?冗談も程々にしとけや。

あれから丁度二週間くらい前だったろうか。
病室を出た後、髪型でしか見分けがつかない胡蝶の所の餓鬼三人組が、身を寄せて震え上がりながら酷く怯えた様子で俺に声を掛けてきたのは。

***

「あ、あの……風柱様」
「あァ?」
「ひっ! ……えっと、あ、あの、少しお時間を頂けません……か?」
「時間だァ?」

まるで肉食動物を前にした草食動物か何かの様にブルブルと震え、縮み上がる小娘三人に対して、俺はどうしたもんかと思案した後、目線が同じ高さになる様しゃがみ込んで「何か用かァ」と答えた。

それは即ち、聞いてやるの意であるが、それが果たして伝わったかどうかは定かでない。
強張っていた三人の身体から力が抜けたのが分かった。
此処で笑顔の一つでも見せれば良かったのかもしれないが、“その実弥さんの笑顔、逆に怖い”と、いつだったかなまえに指摘されたのを思い出して、舌打ちを溢した。

ああ、違う。そうじゃ無い。お前らに向かって舌打ちをしたわけじゃない。
益々怖がらせてしまったでは無いか。どうしてくれる。

「あのっ……か、霞柱様の事……で」

霞柱。よりにもよって今一番聞きたくない奴の話題かと、ため息を吐く。
だが、その話をなまえではなく敢えて俺相手にしようと言うのだ。どう言う魂胆なのか腹の内が知れない。
話題が少々気に食わないが、一応聞くだけ聞いてみるとしよう。

「……時透の奴がどうしたって? つか、何でそれを俺に話す必要があんだァ?」
「なまえさんが、とても寂しそうなお顔をされるので、見ていられなくて……私達、なまえさんが大好きなので早く元気になってもらいたくて。でも……」
「(なまえ絡みか)はぁ……分かった。ちゃんと聞いてやるから、ゆっくり話せェ」

時透の事でも、そこになまえが絡めば話は別だ。
そんな価値基準で身を振る俺は馬鹿げているだろうか?そこに限りなく色恋の類に近い感情が含まれていなくとも。
そこで漸く、ぎゅうっと一箇所に固まっていた三人組は、それぞれ一人ずつにバラけて俺の前に立ち並んだのだった。

「なまえさんは、霞柱様が全然お見えにならないとおっしゃっていましたけど……本当は何度か霞柱様はお見舞いにいらしてるんです」
「!」
「なまえさんを早く手当てして欲しいと慌てた様子で担ぎ込んだのも霞柱様で……。意識を失っていた三日間、霞柱様は毎日毎日なまえさんの様子を見に来て、心配そうな顔でずっと手を握っていらっしゃったんです……」

その事実を、俺なんかが知ってどうする?
どうしてやる事も出来ない。
いや、この場合、どうしてやる事というよりは。

「だったら、それをなまえに話せばいいだろ」
「言わないでって、霞柱様に口止めをされて……でも、あんなに元気のないなまえさんを見ていられないです」

言うに言い出せず、なまえの姿を見ていたコイツ等もそれなりに苦心して来たと言うわけか。
しかし、それを話す相手を間違えている。

俺に話したところで、なまえには伝わらない。

もしも、俺を介して彼女に伝われば――なんて考えでいたのであれば、そんな甘んじた考えは今すぐ捨て去るべきだ。希望的観測なんてほっぽり出せ。
それは大きな思い過ごしだ。買い被りすぎだ。俺はそこまでいい奴じゃない。
少なくとも今は、その事実をなまえに伝えたくはないと思っている。
何も聞かなかった事にして、知らなかった事にして、目をとじ耳を塞ぐ――そうしたい感情で満ちている。

「そうか。話はそれで終いかァ?」
「風柱様、」
「悪いなァ、任務だ。俺は何も聞かなかった事にする」

***

俺は卑怯であるのか?本当の事を知っていて、尚も彼女に教えてやらないなんて。
いや、違う。これはただの――

「八つ当たりだ……クソがァ」

継子の件を蹴った彼女への?
突き放しても尚、彼女の心を攫ったままの時透へ?
そんなもの俺が知りたい。
いつまでも煮えきらない感情を抱えたまま。悶々とする日々が、俺自身が、気色悪くて堪らない。

この後、任務につくまで少し時間が取れる為、なまえの様子を見に行こうと思い立った俺は、蝶屋敷へ向かう前に甘味屋へと足を向けた。
確か、みたらし団子に餡蜜にどら焼き、だったか?
店員を呼びつけて「みたらし団子と、餡蜜、どら焼き。……あと、おはぎ」と、散々甘ったるいものばかりを購入し、店を出る。
おはぎは言うまでも無く自分用であるが。

何だ、文句あんのかァ。
俺だってなァ好物の一つでも食ってなきゃやってられねぇんだよ。

そして、こんな時に限って顔を合わせてしまうものなのだ。
世の中の偶然は時に出来過ぎていると思わずにはいられないが、敢えて、今この瞬間にコイツと面を突き合わせなくてはならないもんなのかと、己の運の無さを呪いたくなる。

出来過ぎたその偶然に、俺は感情を押し殺す事なく顔を顰めたのだった。

「あ、不死川さんだ」
「……よォ、時透」

俺はどうしてこうもなまえを気に掛ける様になったのか、それは言うまでもなく今は亡き彼女の兄弟子の言いつけだった様な気がする。
いつもヘラヘラして掴み所がなく、それこそ霞そのもののような奴だった。
それから、口を開けばなまえの事ばっかりだったなとも思う。

そんな奴だったからこそ、アイツから託された大切な物は俺が何とかしなければ……なんて、柄にもない事を思ってしまったのだろう。

『もし、俺が先にくたばったら、なまえを宜しく頼むよ、不死川くん。あいつは君にうんと懐いているみたいだから』
『はぁ!?何で俺が。……断る。大事なもんならテメェで握っとけ』
『ははは、手厳しいなぁ。でも、信用してる君だから頼みたいんだ。……大切な子だから』

皮肉なもんだよなァ。いくら俺達が気を揉んだって、アイツは指の隙間をすり抜けちまう。
あれこれ手を回してみたはいいが、なまえにはもう、俺もアンタもお払い箱らしいぞ?
目の前のこの十四そこらの餓鬼に掻っ攫われるのも時間の問題、なのかもなァ。

とどのつまり、初めから俺もアンタも蚊帳の外だったって話だ。
継子を断られた時点でそれまでって話だが。
しかしまぁ、あと少しだけ見定めてみるとするか。アンタに託された分、それくらいは働いてやらァ。

20200620(20240527加筆修正)


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