女の子なのに酷い怪我をしてしまって……。

「痕が残らないと良いんだけど……」
「お気遣いありがとう御座います。でも、大丈夫です。慣れていますから」
「そう……任務、お疲れ様でした。貴女が無事で本当に良かった」

入隊して間も無い隊士なのだろうか?気丈に振る舞う彼女の面差しはまだ幼さが残っていて、歳は十四、五といったところだろう。
鬼と懸命に戦った末に切創を負ってしまったその細腕に、私は憂いの色を浮かべながら包帯を巻き付けた。

此処では、つい先程まで大きな戦闘が繰り広げられていて、負傷者多数との知らせが入り、人手を補う為に私も蝶屋敷から出向いて負傷者の手当てにあたっていた。

包帯を巻き終え、救急箱を手にまた別の負傷者の元へと向かう、正にその時だった。
二週間振りにその声を聞いたのは。

「獣柱様! 傷を負っていらっしゃいますから、あちらで手当てを……」
「あぁ゛!? 俺に指図すんじゃねぇ――触んな!」
「で、ですが……血が」

心配して声を掛ける隠の人に対し、粗暴に吐き捨てられた言葉が耳に届く。
横暴で、自分勝手で、荒々しいその口調と仕草に、相変わらずだなぁと苦笑した。
この調子だと、直に私の事も気付かれそうだと思った、その時だった。

「……はあ? なまえ!? オイ、そんなところで何やってんだテメェ」
「久しぶり、伊之助くん。見ての通り、手当てだよ。隠の人を困らせたら駄目でしょ? ちゃんと手当てしな、きゃ――ぎゃぁあああ!」

物語が始まって、五百字も満たない僅かな間で私は三年前となんら変わりがない、騒がしい相変わらずな姿を晒してしまった。
嗚呼、あれから三年も経ったのだから、落ち着きある淑女に変貌を遂げた演出も、伊之助くんと顔を合わせれば秒で破綻する。
彼の行為もまた、三年前となんら変わらず乱暴だった。
私の身体はまたしても宙に浮いて、直後、伊之助くんの肩へと担ぎ上げられた。そう、いつもの“米俵スタイル”。

「い、いい伊之助くん!? ちょ、どこ行くの!? 私、まだ手当が……」
「ビービーうるせェな。手当されてやるって言ってんだろーが。オイ、しのぶ! コイツ連れて行くからな」
「伊之助くん。あなた、この状況が見て分からないんですか? なまえさんを何の為に呼び寄せたのか分かりませんか?」

嗚呼、しのぶさんの笑顔が怖い。ニコリと笑みながらも、目は決して笑ってなどいない。
静かに窘められているにも関わらず、伊之助くんが私を肩から下ろす事も、しのぶさんの弁に怯む事もなく、「んな事知るか! なまえは俺様が頂いて行くぜ! ウハハハ!」なんて、少年の様に無邪気に吐き捨ててこの場を去るから、しのぶさんは面に笑みを貼り付けたまま、額に青筋を浮かべてしまった。

もう私は知らない。何も知らないからね。

「い、伊之助くん! 伊之助くんってば!」

鬼との戦闘直後だと言うのに、道なき道を軽快に下る伊之助くんに、私は堪らず声をかける。
それでも返事が無いので、広い背中をボカスカと殴って、訴えた。

「あ? 何だよ、じっとしてろ」
「そうじゃなくって、ストップ!」

一旦止まれ。そう促すと、心底面倒臭そうな顔をしながらも足を止めてくれた。変わらず私は担がれたままだけれど。

「あのさ、別にこんな風に担がなくっても良いと思うのですがー」
「あ゛?」
「……逃げないよ? 前みたいに、伊之助くんを見て逃げ出したりしない……ので。だってさぁ、私達もう恋人同士、ですし?」
「!」

もごもごと歯切れ悪く、けれど恥ずかしさを懸命に殺しながら言葉を紡ぐと、伊之助くんはようやっと私を肩から下ろしてくれた。
そして、じっと、その宝石のように光輝く美しい翡翠色の瞳で私を見る。その目に見つめられると羞恥が一層強くなって、目を逸らした。

しかし、それが気に入らなかったのかしれないが、伊之助くんの手が此方に伸びて私の頬をグニッと強引に掴み上げる。

「ふご!? い、いのふへふん……っ、」
「ははっ、ブッサイクな面だな」

誰のせいだ!と、反論しようと試みたその刹那。私の言葉は喉の奥に引っ込んで、代わりに、伊之助くんの唇が強引に押しつけられる。
相変わらず、噛みつくみたいな口付けだなぁ……なんて頭の片隅でぼんやりと思いながら、斯く言う私もそんな彼の強引で優しい口付けが愛おしくて堪らないので、素直に受け入れる。

三年経とうが経つまいが、私達は私達らしく、“相変わらず”であるのだ。

20200607(20240711加筆修正)
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