嗚呼、今日も変わらず愛らしいなぁ……俺の奥さんは。

この三年という月日の中で、恋人兼継子であったなまえは、妻兼継子へと関係が変化した。
鳴柱邸で暮らす事に関しては以前と何ら変わりが無いが、大きく変わったと言えば同じ性を名乗る様になった事。

我妻なまえだよ?もうこれ以上ない程、最っ高な響きじゃない?

「ウィッヒヒ」
「……善逸さん。その笑い方は……ちょっと」

お茶を入れてくれたなまえが、二人分の湯飲みを机に置きながら相変わらずな調子で指摘するけれど、それすら幸せだなと思う俺は相当な幸せ惚けを発症しているのかもしれない。
でも、本当に幸せなんだ。
鬼殺隊の鳴柱として日々命のやり取りをしていても、彼女の傍でだけはその環境を忘れてしまえるくらいの安堵感と平安を得られる。

「仕方ないじゃん。俺、今すっごく幸せなんだもん」

湯飲みから離れるなまえの手にそっと自分の手を重ねた。
少しずらして、指先を絡める様に握り直す。机に突っ伏したまま、なまえの少し照れた可愛らしい顔を見上げて、再びだらし無く表情を緩めた。

「なまえは?」
「……幸せ、ですよ? 幸せすぎるから、偶に怖くなります」

そんな風に眉を下げて笑う癖が相変わらず抜けないのだなと思うと、不安も憂も全て、彼女から遠く隔ててしまえたらどれだけ良いだろうかと考えてしまう。
いっそ、それら以外にも、最近やたら目障りな男共の視界からも断絶してしまいたい。
“何だか急に色っぽくなったよな”、“美人度が増したよな”、だなんて男性隊士の会話が耳に届く度に、俺の心は穏やかでない。

お前等には無理だよ。一生をかけたって、なまえは手に入んないんだから。

「ねえ、なまえ。鬼殺隊やっぱり続けるの?」
「続けたいです。鬼は両親の仇ですから」
「……そっか。そうだよね」
「善逸さん?」
「んーん、何でもないよ。こっちおいで」

そうだよな。俺だけだ。そんな邪な感情で彼女を鬼殺隊の席から抜けさせたいなんて。
彼女には確固たる信念があるのに。

しおらしく促されるまま、彼女は俺の傍に控える。

いやいやいや。そうじゃないでしょ、なまえちゃん。

相変わらず時と場合を弁える俺の奥さんは、真面目っ子だった。苦笑交じりに、自分の膝を軽く叩いて此処へ来いと促した。

「そうじゃなくって、こっち」
「え? で、でも……」
「ほーら! 良いから、良いから」
「少しだけ、ですよ? 誰か訪ねて来るかもしれないですし……」
「んー? 大丈夫だって。誰も来ないよ」

それでも、おずおずと膝に座ってくれる彼女が愛おしくて堪らない。
なまえは照れると視線をいつも左下に逸らす。その癖も、俺の我儘に付き合ってくれる心根の優しさも三年前から何も変わらない。愛しいまま、可愛らしい俺だけのなまえ。

「愛してるよ、なまえ……」
「善逸さ、……んぅ」

頬を撫でた手をそのまま後頭部へ差し入れて、引き寄せる。
唇を重ね、愛を囁いて――それからまた重ね合わせる。それは何度交わしたって飽く事がない。
胸元へ添えられた彼女の手が、俺の羽織をぎゅうっと握る仕草すら愛おしいし、熱い吐息に混じる俺の名前も、彼女の声で呼ばれるだけでこんなにも甘美な響きへと変化するのだもの。

「(あー……やば、止まんないかも)」
「はぁ、ん……善逸さ……これ以上は駄目、です」

隊服の上からでは嫌だ。物足りない。
制止の声にも耳を貸さず、隊服の胸元を乱し、手を差し入れて肌を弄る。掌に吸い付く様な肌の感触を味わいながら、彼女の小さな耳を甘噛んで求める。

「ごめん、止めらんない……抱かせて――なまえ」
「だ、駄目……駄目です!! だって、後藤さんがいらっしゃってますから……!」
「……は? ご、後藤さんって……ええええ!?」

彼女の指摘通り、中庭には用件を言伝に来た後藤さんがそれはそれは気不味そうに立っていて。
なまえは膝から降りて一目散に逃げ出してしまうし、久々の夫婦時間はこうして幕を閉じたのだった。

「後藤さん! 何で今来たんだよぉ!? 俺、後藤さんに何かした!?」
「いや、だから、スマンと思ってる」

けれどまあ、俺は何だかんだで凄く幸せだって話だ。

20200604(20240710加筆修正)
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