「はああああー……」
「善逸、どうしたんだ? 大きな溜息なんて吐いて。何か悩みがあるなら聞くぞ?」
「べっつにぃ? どうせ炭治郎に話したところで俺の拗れた初恋は戻って来ないんだ……放っておいてくれ。サヨナラ俺の愛しい人……君と過ごした日々は忘れないよ……」
「善逸……」

ろくに機能回復訓練に参加せず、縁側で拗ねて寝転ぶ(日光を浴びる事も今の俺には必須事項)俺に出来る事といえば、真面目に訓練を受けて偶々通りかかった炭治郎に八つ当たりをするぐらいだった。
そうだ、どうせ誰にも分かるわけないんだ……たった今、淡い初恋が砕け散った俺の気持ちなんてさぁ!

寝転ぶ俺の眼前に「元気出せよ紋逸」と言って、伊之助が置いて行ったツヤツヤのどんぐりが転がっている。俺、紋逸じゃ無いけどね。
まるでお供えみたいじゃん縁起悪ぅ!

状況が飲み込めず、困った様に眉を下げ、頭上に“?”を浮かべる炭治郎を見かねて、一部始終を知るアオイちゃんは干していたシーツをパンと叩きながら完結に述べた。

「久し振りに再会した姉弟子が嬉しそうに口にした男性の名前が霞柱様だと知って凹んでいるんです」
「え? 姉弟子? 霞柱?」
「要は、失恋したんだそうですよ」

要は、とか完結にまとめてくれちゃってさぁ。
まあ、その通りなんだけど。
ほら見ろ「あー……えっと、元気だせよ? 善逸」なんてどうしたらいいか分かりません!みたいな変な気遣いさせちゃったじゃん!言っとくけど、そういう反応が傷心には一番響くんだぞ!?知らず知らずに抉っちゃってんだぞ!?分かってんの!?

「でも、それってまだ失恋したかどうか分からないんじゃないか? ただ名前が出ただけなんだろう?」
「分かるの。……俺には分かるんだよ」

確かに彼女と過ごした時間は僅かであったけれど、身寄りの無い俺を本当の弟みたいに可愛がってくれたなまえを、俺は誰より近くで見てきたんだから。
炭治郎とはまた違う、けれど、とても心優しい彼女の音を俺は知っていた。
でも、霞柱の名前を口に出した時に聞こえた音は、今まで俺が聞いたことのない綺麗な音だったのだから。
聞き違えるわけ無いだろ?
流石にあんな音を聞かされたんじゃさ、思い知らされたって思うしかないんだよ。

「俺にはやっぱり禰豆子ちゃんしかいない! 禰豆子ちゃーん!!」
「うわ! 急にどうしたんだ善逸。禰豆子は寝てるぞ?」
「強がりでしょう? そっとしてあげるのが一番ですよ」

ポカンとする炭治郎と呆れ気味のアオイちゃんを残し縁側から退散する。
縮んで短くなった手足を目一杯に使って、振り切る様に走った。

さらば俺の淡い恋心。
でも、叶うならまた会いに来て欲しい。
ほら、俺今こんなだから暫く此処にいるしさ。
昔みたいに頑張れ、偉いねって……姉ちゃんみたいに頭を撫でて貰えたら、不味くて仕方ない薬も、苦痛な機能回復訓練も乗り切れると思うんだよ。
それから。あわよくば、その時だけはさ……何を差し置いても俺が一番でありたいだなんて我儘を叶えて貰ってもいいかな?
やっぱり何があってもアンタは、誰よりも大好きな俺の姉弟子なんだもの。

20200208


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