これはこれは。今日はまた一段と。

「どうしたんだ?」
「……」

べったりと背に張り付く俺の継子は、今日はまた随分と甘えたな様子だ。
うーん、これはどういう気持ちなのだろうかと、スンと鼻を鳴らして彼女の匂いを嗅ぎ取ってみると、ヤキモチ?いや、独占欲?何でまたそんな感情を伴って張り付いてくるのか俺にはさっぱり分からず、殆困り果てる。

「なまえ、どうしたんだ? 言ってくれなきゃ分からない」
「……師範は、私の師範です」
「ああ、そうだ。俺はなまえの師範だぞ? それがどうしたって言うんだ?」

その理由が知りたくて問い掛けているのに、一向にその核心へは辿り着けず、遠回しな会話が続くばかりだ。
なまえは抱き付く腕に力を込めて、更に隙間無くべったりと引っ付いてくる。

「ひとまず、この行動の意味を説明してくれないか?」
「……」
「なまえ」

「じゃないと、どうしてやる事も出来ないだろう?」と問うと、観念したらしく、不貞腐れたままボソボソと言葉を紡ぐ。

「今日、女の子達が……」
「うん(女の子達……隊士の話だろうか?)」
「師範がとっても素敵だって。格好いいって。お近付きになりたいって。私も継子にして貰いたいって言ってたんです」
「……うん?」

それはつまり、なまえがその女性隊士にヤキモチを焼いていると、そう言う話だろうか?

「だから、マーキング中です。師範は私だけの師範なんだぞって」
「っ、……そう、か」
「はい! だからもう少しこのまま、ですよ!」

はあ……意地らしい。愛らしいが過ぎる。
俺は思わず赤面してしまった顔を、覆うようにして掌で隠した。なまえが背中に抱き付いていてよかったと思う。こんな情け無い顔を拝まれずに済んだのだから。
こんな事を言っていても、そこに特別な意味が無いのだから皮肉なものだ。

いくらこうして張り付いたって、なまえの香りは移らないだろう。
仮にほんの僅かに移ったとしても、感じ取れるのなんて俺ぐらいなものだ。常人の嗅覚を前にこんな事は無意味に等しい。

「師範、駄目ですからね! 可愛い子が師範の継子になりたいって言っても! ……嫌ですからね」
「……しないよ。心配しなくても、俺はお前だけで手一杯だ」

苦笑して、背中から引き剥がし、身体を反転させた。
そして、そっと腕を引いて自分の元へ引き寄せる。

「なまえ、どうせなら此方向きでしないか? 顔が見えていいだろう?」
「あ、それは名案です! 失礼します!」

ぎゅうっと胸元に抱きついて、顔だけ此方に上向かせ満足そうに彼女は笑う。
嗚呼、愛おしいな。
あと三年くらいか。このまま我慢出来るだろうか?
それまで余所見なんてされたら、たまったものではないから。その時が来るまで、うんと可愛がってやらないと。


20200322


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