縁側に座って洗濯物を畳む中、ポカポカと暖かな陽気が私の眠気を誘う。
うつらうつらとしていると、ドカリ!と傍に伊之助くんが座ったものだから眠気は一気に四散した。

「おいコラ、なに寝てんだ」
「ね、寝てないよ! 失礼しちゃうなぁもう! あー、忙しいなぁ。洗濯物畳むの忙しくて大変だなぁ」

口の端から垂れていた涎をさりげ無く拭って、洗濯物へ手を伸ばす。
まるでそこが定位置であるかのようにずっと傍に座っている伊之助くんを横目でチラチラと見やると「あ゛? 何だよジロジロ見やがって」と乱暴に吐き捨てられた。彼にとって別に乱暴でも何でも無いのだろうけど。その口振りが、その圧が、私にとっては少々恐ろしいのだ。

そんな折、不意に髪を一房掴まれて、ドキリとする。

「な、なに?」

伊之助くんの掌で弄ばれるように、持ち上げては指の隙間からバラバラと零れ落ちる私の髪を繁々と見つめる彼は呟くように言う。

「お前、紋逸とは姉弟のくせに、髪の色が違うんだな」
「……ああ、うん。そうだよ。善逸は今でこそ雷様に打たれて色が変わっちゃったけど、昔は私と同じで黒かったもの。伊之助くんの髪は青みがかっていて凄く綺麗な色してるよね」
「そうか? よく分かんねぇ」

自分に興味が無いのだなと思ってしまう。その青みがかった髪も、翡翠色をした瞳も宝石みたいでとても綺麗だと私は思うけれど。
雑談をしているといつの間にか洗濯を畳み終わっていた。
特に伊之助くんも怪我を負っているようにも見えないし、手当ての必要も無さそうだ。
「それじゃあ、私、もう行くね」と言って立ち上がった時、ピン!と髪が一房張り詰めて私の行手を阻んでしまった。

「イダダダダダ!」
「あ? 何やってんだお前」
「ちょ、お願い! 一生のお願いだから動かないで頂けますか!?」

何事かと伊之助くんが動くものだから、私の頭皮が悲鳴を上げていた。頭皮ごとゴッソリ根こそぎ持って行かれるようなこの感覚。
速やかに解いて痛みから開放されたい。ボタンから髪を解こうと必死になっていると、伊之助くんの手が伸びてくる。髪をむんずと掴まれたので、髪を毟られる未来が頭を過ぎってしまって肝が冷える。

「お、お願いだから毟らない、で……――へ?」

刹那、ブツン!と何かが千切れる音が耳に届いて、繋がれていた髪が伊之助くんの隊服からはらりと落ちた。
顔を上げると、伊之助くんの手に千切られたボタンが乗っている。

「ほら、取れたぜ。気を付けろよな」
「え、あ、ありが……とう」
「何だよ、ボケっとして」
「いや、えっと、てっきり髪を毟られると思ったから」
「あ゛? なんでそんな事しなきゃなんねーんだ。失礼な奴だな」

伊之助くんに礼を失していると窘められる私って一体……。

「毟ったら勿体ねぇだろ?」
「っ、」

嬉しいやら複雑やらな例え話で、どんぐりみたいに艶々しているんだからと伊之助くんは至極当然のように言って、普段の何倍も優しく私の髪に触れる。
真っ赤になって照れる私を見て満足げに笑う彼に、私は今日もまた何も言い返せない。
酷く狡くて、彼のい言うところのホワホワとやらは今日も私に感染してしまったみたいだった。

「……ボタン、かして。付けたげる」
「ん、」


20200323


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