「炭治郎……俺、このままじゃ死ぬかもしんない」
「どうしたんだ善逸、今日は柱合会議で任務に出ていたわけじゃないだろう?」
「物理的にじゃなくて精神的にだよぉ……このままだと俺、辛過ぎて本当に死ぬ」
「どういうことか分かりやすく話してくれないか? 何の話をしているのかさっぱりだ」
炭治郎は殆困り果てたとばかりに俺を見る。
それもそうだよね。俺が炭治郎の立場でもわけ分かんなくて困ると思うよ。本当。
俺は、遠い目をして事のあらましを炭治郎に話した。
最近なまえの様子が変で、一緒におやつも食べてくれないし、夜の営みもここ三週間ご無沙汰なのだと伝えると、昼間の往来でそんな事を口にするなと咎められた。お前が話せって言ったんだろぉ!?
「知らず知らずのうちに、彼女に何かしたんじゃないか? 本人に直接聞いてみるのが一番早そうだけれど」
「ばっか! お前、そんな事して振られたらどうするんだよ!? 責任取れんのぉ!?」
「だが、お前が気になるというから……」
うん。まあ、そうなんだけど。やっぱりもしもの、最悪の結末を考えてしまう自分がいるんだ。
そういう雰囲気になったら急に合わなくなった目も、避ける様に何処かへ行ってしまう事も。
俺にとって彼女は全てだから。俺の全部だから。もしもなんてなかったとしても、凄く怖いんだよ。
***
とは言え、実際解決するには炭治郎の言っていた方法しかないんだよな。なんて、あれこれ考えて最終的に辿り付いた答えはそれだった。
「ただいまー」と声を掛けて屋敷に入ると、それに気が付いたなまえが早足で廊下を歩く音がして、直ぐに姿を現した。
「お帰りなさい、師範。柱合会議、お疲れ様でした」
「うん、ただいま。……おいで、なまえ」
草履を脱いで屋敷に上がると、彼女を自分の元へ呼びつける。何の疑いもなく俺の言う通り近くへ寄って来たなまえを、俺は突然抱きしめた。
これには流石になまえも少し戸惑っている様だった。
「し、師範? 一体どうし……――っ、」
戸惑う彼女を更に混乱へと陥れる俺の行動と言ったら、抱きしめた彼女を横抱きにして自室へと連れ去る事だ。
ピシャリ!と荒々しく襖を締めて畳の上になまえを組み敷く。逃げ出せない様に彼女の両手へと俺のソレを重ね、指を絡ませる様にしてぎゅうっと握った。
「しは、ん?」
「これからなまえの事を抱くから」
「っ! だ、駄目です! まだ日が高いのに……」
「関係ないよ、そんなの」
「でも、誰か来るかもしれないです……」
「来ないって、誰も」
「ですが、」
“でも”、“ですが”。彼女の口からでる言葉に胸が苦しくて堪らなくなる。
たった一言。分かりましたと言って、俺を受け入れてくれたらそれで俺は救われるのに。
「ねえ? もう俺の事飽きちゃったの?」
「え?」
「だったらそう言えばいいじゃん。そうやって拒んでばっかでさぁ……!」
声を大にして言葉を吐き捨てる。彼女の瞳は困惑に揺れていた。
嗚呼、終わった。もう全部、終わった。こんな終わり方、本当に呆気ない。
すると、なまえは気恥ずかしそうに「違います」と言って、口を開いた。
「最近……太ってしまって、そのお腹周りが……」
「……へ?」
「閨事で服を脱ぐのが恥ずかしくて……その、ごめんなさい。師範」
「んなっ……」
何だよそれ。じゃあ、俺の勘違いだったって事?俺は呆気に取られて、直に安堵して、なまえの身体を掻き抱いた。
「よ、よかっ……良かったよぉおお!!」
「え? し、師範?あの、苦しいです」
「大丈夫だよ! 全然太ってないって!」
「師範は見ていないからそんな事が言えるんですよ」
「じゃあ、よく見せてよ。ついでに運動もしちゃおっか?」
「っ!?」
その意味を理解した彼女は真っ赤に染まって、直に青くなった。
「今日はなまえが上に乗るんだよ?」と言って、彼女の困惑する言葉は合わせた唇に溶けて消えたのだった。
20200407