「えーっと、なまえちゃん? 今日はまた一段とキレッキレだけど、どうしちゃったの?」
「……」

ヤダやめて。無言やめて。怖いから。

今日は大好きで堪らない俺の世界一可愛い継子兼恋人のなまえを連れての任務だったのだけれど、彼女は無言で尚且つ無表情で灰になる鬼を見つめていた。

「怒りという感情は何より大きな原動力になります」
「何!? ちょ、何でこっち見てんの!? 冷静さが怖い! 無表情が恐ろしい!」

いつから俺の恋人は目で人が殺せる技を会得したのだろうか?
そうかと思えば、目を逸らしてポツリと呟いた。

「私は小さくて、つまらない人間なんです」
「今度はおっっも!」
「モヤモヤしてしまうんです……師範と友人が話している所を見ただけで。何かがあるわけでは無いと分かっているのに、どうしてもその気持ちを拭えなくて」

「どんどん嫌な人間になってしまいます」と言って、しゅんと萎れてしまった。
彼女の話を聞いた俺は、ああ、あの時の事を見られていたのかと瞬時に理解した。
ヤキモチ焼いちゃったのか……可愛いな。
なまえは普段から顔に出さないタイプだから、こんな風に抱え込んで、煮詰まった頃に出てきてしまう質らしい。

「あー……、えっと、ごめんね? 俺が声掛けたの。最近なまえは何か欲しがってる物が無いかなって」
「え?」
「ほら、お前もう直ぐ誕生日じゃん? 馬鹿正直に何が欲しいか聞いたって絶対言わないだろ? 普段から何も言わないしさ。あれが欲しい、これが欲しいって」
「師範……」
「俺だってね、好きな子には出来る事なんだってしてあげたくなっちゃうもんなの」

流石に恥ずかしくなって、顔を逸らして頬を掻く。
すると、トン……と胸元へ小さな衝撃を受けた。珍しく彼女の方から俺の胸に飛び込んできたのだ。

「ごめんなさい」
「ん、いーよ。俺だってちょっと軽率だったかもだしさ」
「でも私、本当に何もいりません」
「え?」
「一番欲しいものはもう持っていますから」

「師範ですよ?」と言って、頬を染めながらはにかむから、俺は堪らなくなってしまう。

「はぁぁああ。……そういうところだから、本当! 狡いよねなまえはさぁ」
「?」
「駄目じゃん、今そういう事口にしちゃ……我慢利かなくなるって言ってんの」
「し、師範……ここ、外です……!」

顎を救い上げて触れるだけの口付けを落とすと、ぺろりと柔らかな彼女の唇を舐める。
小さく肩を跳ねらせるなまえの反応が愛しくて、歯止めが利かなくなる。
外だからと制止の声を上げる割に、彼女からは期待の音が漏れていて、俺は耳元で意地悪く囁いた。

「うん、知ってるよ……だから、しー。ね? いい子だから」
「っ、……は、い」

嗚呼、彼女はどれだけ俺を夢中にさせれば気が済むのだろうか?
愛おしい。それはまるで底が無い、どこまでも落ちていけそうな感情だと思った。
けれどまあ、彼女と一緒なら何処だって構わないと思ってしまう。
それくらい、俺は彼女に溺れているのだ。


20200325


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