「相変わらずなまえは俺の髪が好きだよね。ずっと触ってて飽きない?」
「飽きません。師範の髪の毛はとても綺麗で指通りが良くて、金糸のようで大好きです」

なまえはいつも寝る前にはこうして俺の髪を梳いて編み直す作業がとてもお気に召しているらしく、自ら進んで触れてくる。

「(嬉しそうな音させちゃって……)」

それ以外で彼女から積極的に俺に触れてくる事はないので、とても貴重な時間だ。
それは恋人である以前に彼女が俺の継子であるが故の一種の線引きみたいなものなのかもしれない。真面目な彼女であるから。こんなところでも光る、彼女の生真面目さ。
俺としては、継子である以前に恋人としての彼女をもっと愛でたいのだけれど。

「まあ、なまえの為に伸ばしたからね」
「そうなんですか?」
「そうだよ。知らなかった?」
「今、知りました」

彼女はいつも俺の髪に嬉しそうに触れるから。
雷に打たれて色変わりをしてしまったこの髪も、今ではすっかり彼女のお気に入りになったのだ。打たれた甲斐があったと思ってしまう。其れこそ、打たれて良かったなんて心底。

笑えるだろ?俺って、なまえの為ならそんな事平気で思っちゃうくらい単純なんだ。

「髪だけ?」
「え?」
「なまえは髪だけなの? 俺の好きな所って」

不意に投げ掛けた問いに、彼女は赤面する。肌が白いから、赤くなっているのが良くわかる。

「う、あ……えっと、その、私はっ……」
「(ああ、可愛い……)」

堪らなくなって、腕に抱き寄せたまま彼女を布団の上に横たえる。もう片方の手で髪を、頬を、唇を。撫でながら囁くように言う。

「俺はね、なまえの綺麗な黒髪も、切れ長で涼しげな目も」
「し、はん?」
「白い肌も、この小さな唇も……」

静かに、触れるだけの口付けを彼女の唇へ落として小さく笑った。

「全部全部、大好きだよ」
「っ、恥ずかしくて……息が、出来ません」
「んー、ごめんね。可愛くてつい」

だって俺だけでいいんだ。なまえのこんなにも可愛らしい姿を知ってるのは。
真っ赤になって、どうしたらいいのか分からないと言いたげな悩ましい表情で言葉を紡ぐ、そんな愛らしい姿。

「師範だけです。私にそんな事を言う人なんて」
「そう? じゃあ、誰にも見せちゃ駄目だよ?」
「私も、善逸さんの全部が大好きです……だから、誰にも知られたく無いです」
「!」

珍しくなまえが素直だった。
たまにこうやって前触れもなくデレるから、俺も一瞬息が出来なくなってしまっているんだって彼女は知らないんだろうけど。

「ねえ? このまま抱いていい?」
「もう……帯を解いてから聞かないでくださいよ」


20200321


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