「なまえー、お茶淹れて。一緒に饅頭食べよう」
「師範、また蝶屋敷からくすねてきたんですか?」
「はい、でたよ! その言い方ね! ほんとやめてくれる!? 今回はちゃんと買ってきました! 任務地の甘味屋で売ってたのが美味しそうだったから、なまえと一緒に食べようと思ったの」

「新作とか限定とかって女の子が好きそうじゃん?」と言って、包みを開いて饅頭を彼女に差し出した。
俺の恋人兼継子のなまえは、いつも凛としていて冷静で、常に騒がしく喚いてばかりの俺とは正反対だ。
真面目で折り目正しいのは、まあ、いい事なんだけれどさ。それがなまえらしさでもあるし。
でもやっぱりちょっと、甘え下手と言うか。

顔色は変わらずとも、饅頭を見てキュンと鳴った心音を聞き逃さなかった俺は、ふへっと小さく笑った。
そういうところが堪らなく可愛くて大好きなんだよね。

「ですが師範、まだ十三時です。食べるのはやつ時にしましょう」
「えー、いいじゃん。今食べたって、そんな大して変わんなくない? なまえちゃんは真面目だなぁ」
「変わりますよ。いいですか? 昼食を食べてからの小一時間と言うのは体内血糖値の……――っ、」

俺は、なまえの小難しい話を強制的に切り上げる様に手を引く。

「はいはいはいはい、お喋りはそのへんで終わり。……俺が、なまえと一緒にいたいだけなの。口実だよ? 分かった?」
「師範……」

胡座をかいて座る俺に跨る様にして座るなまえは気恥ずかしそうに視線を逸らした。
早鐘を打つ彼女の心音が耳に届いて、益々愛おしく感じた。

「呼び方、教えたよね?」
「鳴柱様?」
「もっと仰々しくなってるじゃん! そうじゃなくってさぁ」
「……ぜ、善逸さん」
「そうそう、良い子。三日ぶりなんだから、もっと良く顔見せてくんない?」

逸らされた顔を両手で包んで此方へ向かせると、なまえの頬は先程より赤みが増している。
静かに照れるのやめてよ。ちゃんと見たいのに。

「たった三日ですよ?」
「されど三日なの。……俺にとっては」
「師範が私を置いて行ったくせに」
「いや、そうだけどさ……今回の任務は危なそうだったし。怒ってんの?」
「もう暫くこうしてくれたら……許して差し上げます」
「はいはい、わかりましたよー。気の済むまでどうぞお好きに(でもこれって、ただの俺得なんだけどさ。まあ、良いか)」

どうやら継子であるのに置いてけぼりを食ったのが気に入らなかったらしい。
俺の可愛い継子は任務に実に熱心で結構な事だなと思いながら、三日振りの温もりを存分に堪能させて貰った。


20200318


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