「あ、こら! 何処へ行くんだ!」
「ぐえ!」

先程まで確かに傍へ立っていた筈の俺の継子は、次の瞬間はふらりと何処かへ行ってしまう。
瞬き一つの間に姿を消してしまう様と言ったら、忍びか何かなのかと問いたくなる程の行動力と隠密っぷりだった。
気を抜けば完全に撒かれていたな。
本当、目を離したらすぐ何処かへ行ってしまうのだから。

「師範、見てください! 期間限定の桜餡のお団子が!」
「まったく油断も隙もない……団子は後からだ。今は任務に向かう途中だろう?」

「任務後に買って帰ろうな」と、諭せば、ピョンと跳ねて喜ぶ。その無邪気さと言ったらない。

なまえは、良くも悪くも好奇心旺盛な性格なので、故に目を離せない。
何かしら仕出かす前にすぐさま対処出来るよう、彼女の半歩後ろを歩く俺の立場は、今や完全になまえの保護者だった。俺が彼女と同い歳だった頃はもう少し落ち着きがあったと思うのだが……。
そうこうしていれば、性懲りもなくなまえはまた何かを見つけたらしく、爛々と瞳を輝かせている。今度は一体何だ。
彼女の視線を辿れば、往来でも一際目を引く長い金糸の髪が揺れていた。

「(……ああ、善逸か)」

そう言えば、なまえは善逸を甚く気に入っていたな。綺麗で強くて、親しみやすくて憧れると言っていた。
まさかな……と思いながらなまえの様子を観察していると、予想通り彼女からは善逸に対する好意の匂いがする。
それこそ、目を離せば今にも駆けて行かんとする雰囲気を感じ取ったので、俺は態と彼女の視界から善逸の姿を取り上げる様に、目元を片手でソッと覆った。

「余所見は感心しないぞ」
「うわ、師範?」
「そうだ。なまえの師範は俺だって事を忘れないでくれ」
「?」

今はまだ、その本当の意味に気付かなくていい。
五つも歳が離れているのに、俺はそんな彼女に振り回されてしまうのだから、威厳も面子も何もあったものじゃないが……。
けれどやはり、自分以外の男に懐かれてしまったら正直面白くはないから、俺の目の届く場所で、その目紛しい成長振りを見せて欲しいと思う。
“師範”と、愛らしい笑顔を向けてくれるだけで十分幸せであるから。

「なまえ、手を繋ごうか」
「えー、どうしてですか?」
「どうして? 考えなくても分かるだろう? あと、嫌そうな顔をしない」
「……だって」
「だってじゃないだろ? なまえの気が漫ろで、いつまで経っても目的地に辿り着かないからだ!」
「は、はいいい! 喜んで!」
「よし!」


20200318


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