「いーやーでーす!」
「だーめーだ!」
「どうしてですか!? 私は、継子なのに置いてけぼりなんて……あんまりですよ!」
「駄目なものは駄目なんだ。分かってくれ」
「私も師範と一緒に行きたいです! 連れて行って下さい!」
「はぁ……聞き分けが悪いぞ、なまえ」

かれこれこの会話を何度繰り返した事だろうか。それでも、収束する気配は一向にない。まさに押し問答。堂々巡りの水掛け論。
出発の今の今まで食い下がってくる彼女は、「ねえ、師範。師範、師範!」と、渋って背中へ張り付いてくる。どうしても置いてけぼりは嫌らしい。
こうも渋られては少々後ろ髪を引かれる思いもあるが……。脇を上げると、そこから覗く不貞腐れ顔のなまえの頭を撫でてやる。

「この任務が終われば警備地区の巡回へ出るから、その時は一緒に行こう。約束するから」
「……」
「今回の任務は、少し危険なんだ。なまえにもしもの事があったらどうするんだ?」
「足手纏いにはなりません……」

なまえは、蚊の鳴くような声で言った。“邪魔しません” “足手纏いにもなりません” “だから連れてって” そんな事をごちる。
そう言う意味では、無いんだが……。
俺は、背中に張り付いた彼女を引き剥がし、向き合う様に座り直らせる。しかし直ぐにそっぽを向いてしまった。嗚呼、これは大分と臍を曲げてるな、と苦笑する。

「なまえ」
「……嫌です」
「なまえ、逸らしてないで此方を向いてくれないか? 顔をよく見せてくれ」
「……師範、一緒にいたいです」
「っ、」

分かって言っているのなら、俺の継子は末恐ろしい。
“一緒にいたい=ついて行きたい=任務に出たい”この方程式を理解しているので、俺の意思は変わらなかった。多少、ぐらついたけれど。

「いいか? なまえ、よく聞くんだ。足手纏だとか役に立たないなんて決して思っていない。そこは理解して欲しい」
「……じゃあ、何でですか?」

その問いに、一旦言葉を切って、俺は静かに答えた。

「お前は、俺の弱点に成り得るからだよ」

出来る事なら、危険が伴うと分かり切っている任務には連れて行きたくないと思ってしまう。
もしも彼女の身に何かあれば、俺は冷静でいられる自信がない。なまえ一人と多くの人々の命どちらかの選択を迫られた時、俺は絶対判断に迷う。日柱という立場では、あってはならない事ですら、迷ってしまうだろう。
手で頬を包み込んで、静かに告げると、視線が交わり、俺を真っ直ぐに捉えた瞳がグラリと揺らいだ。

「私は師範の弱点になるような弱味噌ではありません!!」
「……え? ああ、うん。うん? そう、だな」

伊之助みたいな切り返しで思わず面食らった。俺の真意は微塵も伝わっていなかったらしい。
そういう意味の“弱点”では無かったのだけれど。
今日も俺の想いは空ぶった。いいさ、いつもの事だ。

「土産を買って来てやるから。何がいい? 団子か饅――っ、」
「……お土産は師範が良いです。だから早く帰って来て、一緒に巡回に連れて行って欲しいです」

不意に胸元へ収まる温もりが、どうして愛しく無いなんて思えようか――。
俺を真っ直ぐに見上げる彼女に瞳を細め、頬へ手を添えた。目蓋へ唇を埋めて、触れるだけの口付けを落とした。

「ああ、約束するよ。行ってきます。良い子で待っているように」
「……はーい。行ってらっしゃい、師範」

早く帰らねばと思った。この可愛い継子を可愛がってやる為にも。


20200329


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